2024.06.22

CARS

「この個体じゃないとダメなんです」というオーナーが、父親から受け継いだフルオリジナル・コンディションのSL320に今も乗り続ける理由とは?

95年11月に納車されて以来ずっと乗り続けられてきた櫻井家のSL320。

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雨粒が幌を叩く音が好き

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ちなみに櫻井さんは新車時から今までの維持管理費など、すべての記録を残しているのだが、購入後29年で消耗品、修理、車検整備費など維持費だけで960万円が掛かった計算になるという。

「数年前まで600万円だったんですけど(笑)。この前、電動トップを替えた時は油圧のシリンダーが12本で100万円。幌も純正だと60万円するので同じ品質のサードパーティーのものにして、それでも工賃込みで40万円くらいかかりました。あと一昨年の車検の時には予防整備でオートマのオーバーホールをして65万円。リビルド品に交換する手もあったけど、やっぱナンバーマッチングがいいだろうって。おかげで出だしのトルクの繋がりがすごくスムーズになった。確かにやった甲斐はありましたね」



そのほかにはスロットル・アクチュエーターとコントロール・モジュールのトラブルがなかなか追求できずにエンジンの不整脈に悩まされたこともあったが、エンジン自体は12 万kmを走っても丈夫で、足回りはショックもブッシュも替えていない。それでもシャキッっとした足捌きを見せるあたりに、オーバー・クオリティと言われた当時のメルセデスらしさが垣間見られる。

「今になってR129買って良かったと思います。ロングノーズ&ショートデッキでフロント・ウインドウが寝過ぎず、リア・ウインドウが立ち過ぎない、ちょうど良い絶妙なバランスだと思う。格好はハードトップが好き。乗るのはオープンが好き。幌を立てた格好が一番好きじゃないけど雨粒が幌を叩く音は好き」

そういう意味でもオープンとクーペを楽しめるSL320は櫻井さんにとって、ベスト・チョイスと言えるのかもしれない。

「昔は4人乗れないという以外、なんでもできるのがSLの魅力だと思っていました。でも今は2人しか乗れないこと、この無駄こそが最高の贅沢だと思うようになりました。犬とクルマはデカくなければダメというのがウチの家訓なんですが、必要以上に効率を追求しない心の豊かさがSLにはある。春の箱根、早朝の都内、夜の高速、どこを走っても気持ちがいいですが、風のない時に屋根開けて七里ヶ浜あたりを流して、ふと振り返った時の海と空の青さは最高ですよ。そして忙しくて乗れない時も週に1回、洗車するだけで満足できます(笑)」

文=藤原よしお 写真=神村 聖

(ENGINE2024年6月号)

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