2024.05.31

CARS

EVスポーツの新たな地平を切り開く、コロンブスの卵 ヒョンデから登場したアイオニック 5のNモデルに初試乗! これが電気自動車なんてウソでしょ!?

ヒョンデ・アイオニック5Nにムラカミ編集長が試乗

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足は日本仕様、操舵は本国仕様

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しかし、その機会は年が明けてもなかなか来なかった。ようやく、日本導入が最高出力の650psにちなんで6月5日に決まり、それに先立って、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイとその周辺の一般道路で試乗会が開かれることになったという知らせが届いたので、4月某日、歓び勇んで出かけた次第である。

巨大な横長のデジタル・パネルを使った、いかにもEVらしいインパネを持つアイオニック 5 N。ステアリング・ホイールの左下と右下にNボタンが付くほか、スポークの左上にはドライブ・モードの切り換えスイッチ、右上には赤い10秒間のブースト・スイッチがある。


プレゼンテーションで改めて紹介されたアイオニック5Nは、まずなによりも、Nブランドを支える3つの柱である、(1)コーナー・ラスカル= コーナリングを楽しむ、(2)レース・トラック・キャパシティ=本気でサーキットを走れる性能、(3)エブリデイ・スポーツカー=高性能を毎日楽しめる、を数々の専用装備と仕様により具現化したモデルだということだった。

クルマを真横から見た写真でわかるように、全長4715mmに対してホイールベースが3000mmでオーバーハングが圧倒的に短く、21インチの大径タイヤが四隅に付いている。そのホイールベースの底の部分に84.0kWhの容量を持つリチウムイオン電池が敷きつめられているから重心も圧倒的に低く、前後重量配分もほぼ50対50になっている。加えて全幅は1940mmもあるから、4輪の作るフットプリントはかなり大きく、2.2トンの重量を除いては、スポーツ・モデルとして理想的な容姿を持っていると言えそうだ。

シートはスポーティかつ実用性にも富むものが採用されている。


その中味を具体的に見ていくと、パワートレインは前後ふたつの永久磁石同期式の電気モーターで、最高出力は前238ps、後が412ps、最大トルクは前370Nm、後400Nm(いずれもブースト使用時)となっている。モーターの最高回転数は2万1000rpmで、前後のトルク配分はドライブ・モードを“N”にするとドライバーが直接設定できる。

フロントがマクファーソン式ストラット、リアがマルチリンクの足まわりには、N専用の電子制御ダンパーが装備されており、ホイールGセンサーと6軸ジャイロセンサーによりセンシングして、常に最適化を図っている。全般的な足の硬さは、日本での走行テストを重ねた結果、首都高の継ぎ目などでも乗り心地が損なわれないことを考慮して、本国仕様よりも少し柔らかめの米国仕様に準じた日本仕様になっているという。一方、ステアリングの応答性については、本国仕様と同じ、もっとも鋭敏な仕様になっているのだとか。



特筆すべきは回生ブレーキの効きで、最大0.6Gまで減速させているのだという。Nモードでは、コーナー手前でアクセレレーターをオフにしただけで強力な回生ブレーキが制動を行ない、素早い荷重移動が行なえるようになる。さらに、Nドリフト・オプティマイザーという機能を使うと、駆動力をドリフト走行に最適な配分にするとともに、回生ブレーキの制動力や足の硬さなどの車ようなシフト・チェンジをシミュレートするシステムだ。同時にNアクティブ・サウンド+もオンになり、イグニッションと呼ばれる実際に2リッターターボ・エンジンのそれをサンプリングして作ったサウンドがスピーカーから室内に響きわたるようになる。速度を上げるに連れて音も大きくなるだけではなく、シフト・アップ時には音が途切れると同時にクルマが一瞬つんのめって変速したことが伝わってくるのにビックリ。モーターの回転数を変化させて、シフト感を演出しているのだという。そして、左側のパドルを使ってシフト・ダウンすると、ブリッピング音が響いて、まるで本当に1段ギアが落ちたかのように回生ブレーキがかかり、そこからアクセレレーターを踏み込むと、より強力な加速が得られるようになっているのだ。

その時、目の前のデジタル画面には巨大な回転計が写っているから、感覚としてはエンジン車を運転しているのと寸分違わない。さらにパドルを使ってマニュアル・モードになった状態で画面上のレブ・リミットまで踏み込んだ時には、そのまま上に当たり続けてボッボッボッという音と振動まで再現しているのには呆気に取られた。そういえば、シフト・ダウン時には、パンパンパンというバックファイアの音も聞えてきた。



で、正直に言って、最初はあまりの不可思議さに笑ってしまったのだけれど、サーキット走行を終えた後、一般道でも乗っているうちに、私にはもうこれがEVなのかエンジン車なのか、まるで見分けがつかないような感覚になっていったのだ。そして、このエンジン車のようなEVが、とにかく運転しやすいのに驚いた。音の高まりやギア・チェンジのメリハリがあることが、どんなにか運転を助け、また楽しくしているかということに改めて気づかされたようにも思ったのだ。サウンドはほかに、レーシング・カーの音を電気的にシミュレートしたエボリューションと航空機を模したスーパーソニックが選べるが、圧倒的に2リッターターボの音をサンプリングして使ったイグニッションが魅力的で、実際の運転力を向上させる効果もあると思った。

Nドリフト・オプティマイザーも短いながらクローズドのスペースで試させてもらったが、前に荷重が移動した後、ドンと後輪のトルクが立ち上がるようになっているので、リアを出すのは簡単だが、その後のドリフト・アングルの維持は決して容易ではない。かなり電子制御が入ってくるので、それに慣れないと使いこなすのが難しいかも知れない。

いずれにせよ、多様性の時代にこういうEVが登場するのは大歓迎だ。EVスポーツの新たな地平を切り開く、コロンブスの卵のような1台だ。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬

■ヒョンデ・アイオニック5N
駆動方式 前後電気モーター4WD
全長×全幅×全高 4715×1940×1625mm
ホイールベース 3000mm
車両重量(車検証) 2210kg(前1110kg、後1100kg)
電気モーター 永久磁石同期式
最高出力フロント 175ps(ブースト時238ps)
最高出力リア 303ps(ブースト時412ps)
最大トルク前後 740Nm(ブースト時770Nm)
バッテリー リチウムイオン
総電力量 84.0kWh
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前後) 275/35R21
車両本体価格 未発表(900万円前後)

(ENGINE2024年7月号)

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