2024.07.15

CARS

僕がイタリアのコンパクトカーに乗る理由をお話します モータージャーナリストの島崎七生人がアバルト500e、フィアット500e、500 1.2に試乗

いよいよ最後となった3代目と、BEVとなって生まれ変わった4代目という、500シリーズの3つのモデル、フィアット500eオープン、アバルト500eツーリズモ・ハッチバック、フィアット500 1.2 8Vカルトに試乗。

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自動車史に残るデザイン

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ここでやっと本題のチンク(500)の話になるが、3代目モデルが日本市場に導入されたのは2008年3月。すでに16年も経った訳だが、まず何といってもチャーミングでタイムレスなこのクルマの姿形のよさは誰もが認めるところだろう。4代目のピュアEVの500eにもスタイルがほぼ受け継がれたことでも明らかだが、天が授けた唯一無二としか思えない愛着の持てるデザインは、登場以来、変わらずファンの心を掴んで離さない。

ヘッドライト上の眉毛に相当する部分もライトとして光るフィアット500eに対し、アバルト500eは樹脂のモールが付くのだが、これだけでずいぶん印象が変わる。

言ってみればAセグメントのただの実用車。けれどそこは欧州車らしく、小さくとも張りのあるボディ面はジドウシャとしてシッカリと見えるし、街中にポツンと停めておけば絵になる。それと老若男女の誰が乗ってもサマになるのも本物の実用車の証だろう。自分で乗っていながら言うのはいささか口幅ったいけれど、オリジンにあたるヌォーヴァ500と並び、自動車史に残るデザインになるはず、だ。



もちろんイタリア車らしい走りの快活さを楽しませてくれるのも500の魅力。とりわけ最新のアバルト500eはその最たる存在で、広告コピーのような言い回しだが、ピュアEVでありながら刺激に満ちた走りを堪能させてくれる。このモデルで「そう来たかぁ」と思わせられるのは“レコルド・モンツァ”を引用してきたこと。このレーシング・カーに由来し、ICE車の595コンペティツィオーネでは標準装着(もちろんリアルなマフラーだ)されたアバルトの象徴的なサウンドを、リア床下に仕込んだ耐水性のある200mmウーファーから鳴らしてみせるという仕掛けである。走行前にオン/オフが選択可能で、オンで走り出すと街中ではいささか気恥ずかしくもあるが、オープン・ロードで楽しむ分には加減速に音がリンクし気分を盛り上げてくれることは確か。



クルマそのものはベースの500eに対しスペックが上げられていて、57:43の前後重量配分ということもあり、運転の仕方次第でいくらでもクイックでヴィヴィッドな走りが楽しめる。しかも乗り心地は、初期のICE車のアバルト500の頃のハードさに較べたら、十分に実用的だ。

いっぽうの500eは、まさに500の新境地を拓いたといえるクルマだ。魅力なのは、それまでのガソリン車のチャーミングな世界観を大枠で守りつつ、ピュアEVになったと同時に実は機能も質感もより進化させた点。とくにADAS関連の機能が一気に充実したり、カーナビが標準となったりしたことは、従来のICE車のオーナーにとって羨ましい限り、だろう。もちろんEV化によりNVHなど走りの快適性も格段に高められた点も見逃せない。一充電走行距離335kmのスペックは、実際にはその7~8割としても、日常の中で乗ってみてもまずまず実用的で、ガソリン・タンク容量35リッターのツインエアを日常の足にする僕など、習慣的に残量が半分程度になると給油しており、ガソリン・スタンドに立ち寄る頻度は割と高いが、500eで自宅以外で充電をする使い方なら同程度といった感覚か。標準で備わるCHAdeMO用の充電アダプターがいかにもゴツくて重たく、スマートなイタリア車に似つかわしいとは思いにくいが、こればかりは致し方なしといったところ。それと車名が単に“500eオープン”となり、以前のように「チンクエチェント・チ」と呼べなくなったところがやや残念?

日本仕様のフィアット500eは外装は5色から選択できるが、“FIAT”のロゴを模したモノグラムが入るソフト・トップやベージュを基調としたインテリア・カラーは写真の1色のみ。

だが、いずれにしろロゴをちりばめたソフト・トップや撮影車のボディ色は、イタリア車ならではのセンスだ。

そしてもう1台の1.2は、ICE車の最終型となる貴重な1台(国内の在庫はまだ十分にあるとのことだが、ともかくなくなり次第終了という)。実は撮影車は直近のクルマではあったが、最終型では備わる運転席ハイト・アジャスターがなく、タイヤも最終型は15インチのようだが、500に最良と思われる14インチを装着していた。このため今回のロケでも変わらずホッコリとした乗り味が試せたほか、エンジン特性がピーキーなツインエアより遥かに穏やかな1.2リッターの味わいが再確認できた次第。パワーはそこそこだが、これはこれで乗りやすく、2ペダル・シングル・クラッチ式自動MTのデュアロジックへの負荷の小ささも安心材料であるはずだ(ツインエア+デュアロジックのトラブルを僕は何度となく経験してきた)。ピュアEVが登場した今でも、気安く乗れるコンパクトカーとしての価値は薄れていない。

軽自動車を含めた日本のコンパクトカーは優秀だ。が、それを承知の上でイタリアのコンパクトカーの500に食指を動かそうとする行為。そこにはやはり気持ちの上でのQOLを高めたい、充足させたい、朗らかに暮らしたいという思いがあるからにほかならないのだと思う。

文=島崎七生人 写真=神村 聖

0.9リッター2気筒のツインエアは販売を終え、現在購入できるのは1.2リッターのファイア・ユニットと2ペダルの“デュアロジック”の組み合わせのみ。外装色は写真のソリッドの赤、橙、そして白とメタリック・グレーの4色から選択可能。

■フィアット500eオープン
駆動方式 フロント1モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 3630×1685×1530mm
ホイールベース 2320mm
トレッド(前/後) 1470/1460mm
車両重量 1360kg
モーター/エンジン形式 交流同期電動機
電池容量/排気量 42kWh
最高出力 87kW/4000rpm
最大トルク 220Nm/2000rpm
トランスミッション 1段AT
サスペンション(前) マクファーソンストラット
(後) トーションビーム
タイヤ・サイズ(前後) 205/45R17
ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム
車両本体価格 570万円

■アバルト500eツーリズモ・ハッチバック
駆動方式 フロント1モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 3675×1685×1520mm
ホイールベース 2320mm
トレッド(前/後) 1470/1460mm
車両重量 1360kg
モーター/エンジン形式 交流同期電動機
電池容量/排気量 42kWh
最高出力 114kW/5000rpm
最大トルク 235Nm/2000rpm
トランスミッション 1段AT
サスペンション(前) マクファーソンストラット
(後) トーションビーム
タイヤ・サイズ(前後) 205/40R18
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/通気冷却式ディスク
車両本体価格 615万円

■フィアット500 1.2 8Vカルト
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 3570×1625×1515mm
ホイールベース 2300mm
トレッド(前/後) 1415/1410mm
車両重量 990kg
モーター/エンジン形式 水冷直列4気筒SOHC
電池容量/排気量 1240cc
最高出力 51kW/5500rpm
最大トルク 102Nm/3000rpm
トランスミッション シングル・クラッチ式5段自動MT
サスペンション(前) マクファーソンストラット
(後) トーションビーム
タイヤ・サイズ(前後) 175/65R14
ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム
車両本体価格 262万円

(ENGINE2024年8月号)

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