2024.08.18

CARS

生産台数657台のうちの1台を32年間持ち続ける理由 未走行のランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリーを買ったオーナーの不思議な愛とは?

ランボルギーニ・カウンタック25th アニバーサリーとオーナーの小島さん。

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映画『キャノンボール』を観てスーパーカーに乗ることを決意し、フェラーリ308GTB、フェラーリ・テスタロッサと乗り継ぎ、31歳でついにランボルギーニ・カウンタックを手にした小嶋博行さん。いまでも乗れば夢見心地だという。

オーラがすごい

「ババアン!」

運転席に座った小嶋博行さんがキーをひねると、背後の5.2リッターV12がけたたましく吠えた。助手席からの景色は圧倒的に低い。隣を走るトラックは我々が乗っているスーパーカーを認識できているのだろうか?

ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリーは1988年にランボルギーニ創立25周年モデルとして発表された。カウンタックの最終モデルとして1990年までに657台が生産された。

そんな不安がよぎるほど低い。ギアが2速に入り、イッキに加速すると隣のトラックはみるみる小さくなった。助手席の私が驚いたのは加速の鋭さというよりも、ボディのしっかり感だ。ランボルギーニ・カウンタックってこんなにしっかりしたクルマなんだと感心した。

撮影ポイントに到着し、深紅のランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリーをしげしげと見る。やはり、このクルマだけが持っているオーラがすごい。

「これは1989年式です。1992年に購入しました」

32年間もカウンタックに乗り続けている小嶋さんだが、最初に愛したのはフェラーリだった。

「21歳のときに映画『キャノンボール』を観たんです。衝撃でした。スーパーカーが大好きだった子供の頃を思い出しまして、やっぱりいつかはスーパーカーだと決心し、フェラーリ貯金を始めたんです」

地を這うようなフォルムで全高はわずか1070mm。

最初のクルマはセリカ

小嶋さんが免許を取ったのは18歳のとき。初めて購入したクルマはトヨタ・セリカ・リフトバック2000STである。

「両親が金属加工業をやっていましたから、自分でサスペンションを切ってシャコタンにしました。ソレックス、タコ足、ストレート・マフラーというお約束を装備したんですけど、違法改造で反則キップを切られたんです。でも、フェラーリならあれだけ車高が低くてもキップは切られないと映画を観て思いました。フェラーリ貯金のためにセリカはマツダ・キャロルに変わりました(笑)」

コツコツ貯めて5年目にフェラーリ308GTBを手に入れる。

「友人の知り合いにフェラーリを数台持っている人がいて、その人が那須に住む308GTBのオーナーを紹介してくれたんです。見に行ったその日に乗って帰っていいよと言われ、興奮しながら東京の自宅まで運転しました。あまりにも嬉しくて、その日はそのままクルマのなかで寝たほどです」

小嶋さんが308GTBのオーナーを紹介してくれた人にお礼を伝えると、意外な言葉が返ってきた。

「フェラーリ・オーナーになったのなら、いつかは12気筒ですよ」

ミドに搭載される5.2リッターV12は最高出力455ps/7000rpm、最大トルク51.0kgm/5200rpmを発生する。

フェラーリ・テスタロッサ

小嶋さんの12 気筒貯金がスタートした。コツコツ貯めて3年目、308GTBからフェラーリ・テスタロッサに乗り換える。

「ついに私もフェラーリ12気筒のオーナーだと嬉しかったです。でも、乗り味は308GTBの方が好きでした。キャブの吸気音、排気音、そして匂いという味わいがテスタロッサにはなかったからです」

バブル経済が弾けた直後の1991年、小嶋さんは自動車雑誌で未走行のカウンタックの広告を目にする。

「毎月価格が下がっていくんです。もしかしたら新車のカウンタックが買えるかもしれないと思いました」

小嶋さんの1台は内外装ともに新車と見紛うばかりの輝きを放っている。

テスタロッサを下取りに出し、ランボルギーニ・カウンタックのオーナーになったのは小嶋さんが31歳のときだった。カウンタックに乗って最初に感じたのはクルマの出来の良さだったという。

「テスタロッサの調子がイマイチだったせいか、めちゃくちゃいいクルマだと思いました。テスタロッサで大垣へ向かった往路と、カウンタックで東京へ向かった復路はまったくの別モノでした」

一方、スーパーカー仲間からは心配の声が多くあがったそうだ。

「あ~あ、ランボの12気筒なんかに手をだしちゃって。これから大変だよお」と散々脅かされたという。

「買ってからすぐ矢田部のテストコースを走る機会があったんです。最初のバンクでワイパーが飛んでいき、次のストレートでボンネットが開くなどハプニングの連続でした。見ていた人たちは“やっぱりね”と思ったはずです(笑)」



ところが、小嶋さんのカウンタックは32年経ったいまでも絶好調である。これまでにクラッチ・レリーズの修理が二度、エアコンの修理が一度あっただけだという。キャブ調整さえもしたことはないそうだ。

実家の金属加工業を継いだ小嶋さんは根っから機械いじりが好きで、オイル交換から跳ね上げ式ドアのダンパー交換まで自分で出来ることはやるという。なんとリア・ウィングは自分で取り付けたそうだ。32年経っても調子がいいのは、小嶋さんの細かな手入れのせいもあるのだろう。

「でも、カウンタック乗りの間ではアニバーサリーは底辺ですから(笑)。今年亡くなったカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニが“あれは僕がデザインしたクルマじゃない”と言ったという噂まであって。ガンディーニが認めないカウンタックとまで言われてショックでした」



この噂を小嶋さんは自ら払拭することができた。1993年に来日したガンディーニ氏本人に直接聞くことができたからだ。

「イベントで僕のクルマを展示したんです。そこで、ガンディーニさんに聞きました。すると僕のクルマを指さし“これは紛れもないクンタッチ(カウンタック)だ”と言ってくれたんです」

そのときの写真を小嶋さんは大事にしている。小嶋さんにカウンタックを持ち続ける理由を聞いた。

「う~ん。やっぱり自分の夢が叶った感じがするからですかね。いまは生産台数657台のうちの1台を持っているという責任感の方が愛情より強いかもしれません」

小嶋さんは自分の還暦祝いでフェラーリ412を買った。またイタリア車である。

「ドイツ車もイギリス車も心のなかで風が吹くときはあるんですよ。ポルシェに興味がないわけじゃないんです。でも、イタリア車のように熱にならないんです。それは自分でも不思議です」

愛とは不可解なものなのだ。

文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正

今年3月に他界したカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニ氏が1993年に来日した際、小嶋さんの愛車が急遽イベント会場に展示されることになった。「アニバーサリーはあなたの作品ではないのか?」と聞くと「これはもちろん私の作品、クンタッチだ」と答えたという。

(ENGINE2024年8月号)

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