2025.06.13

CARS

ル・マン参戦マシンが公道を走る ワンオフのポルシェ963RSP登場 50年の時を超えて邂逅する917と963RSP【後篇】

ワンオフのポルシェ963RSPが917とともにル・マンへ。

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ポルシェがこの春に匂わせていたロードゴーイング・レーシングカーの正体は、IMSAとWECで勝利したマシンをロードカーに仕立て直したワンオフ・モデル、963RSPだった。

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50年前と変わらぬ思い

4月28日は、1975年に1台限りの公道を走る917がヴァイザッハの開発センターを旅立った日、という、よほどのマニアにしか響かないようなポルシェからのニュースを目にしたときには、頭の中に大きな疑問符が浮かんだ。



しかし、50年経っても公道向け917(の類)を作りたい情熱は冷めていない、といった締めくくりは、新たなスペシャル・モデルの登場を予感させた。

そのベースとなったのは、現役マシンである963。2022年に発表され、翌年からIMSAとWECに参戦しており、本番を目前に控えた2025年のル・マンにも出走する。



マルチマティック製モノコックがまとうカーボンとケブラーのボディ・ワークは、軽量化のため極薄に造られた部分が塗装を難しくしているため、レースカーではラッピングが施されるが、963RSPはマルティニ・シルバーが塗られた。



50年前、ロッシ伯爵のもとに届けられた917と同じ色であることは、ポルシェ・ミュージアムのお墨付きだ。





インテリアは、タン・レザーとアルカンターラを用いた専用仕立て。これもまた、かつての917にインスパイアされたカラー・チョイスだ。



ディスプレイと数多くのスイッチが並ぶステアリング・ホイールなど、操作系はその出自を明確に物語るが、車名ロゴを記したドリンク・ホルダーがロードカーらしさを主張する。



ベンチレーションのエンド・プレートは、917のエンジンの上に鎮座するファンを模した。ドライバーの脇は、ヘッドセットや外したステアリング・ホイール、ヘルメットを置けるスペースだが、ここもレザーでトリミングされ、レーシング・カーのスパルタンな雰囲気は感じさせない。ダッシュボードには、シャシー・ナンバーや製造された場所と日付を刻んだアルミ・プレートが輝く。



ボディは、フェンダーのベントなどに、公道向けのモディファイを実施。サスペンションはレーシング・カーよりソフトになり、地上高を引き上げている。タイヤは1970年代のロゴが入るミシュランの、ウェット・コンパウンドを用いた18インチで、ホイールは鍛造のOZレーシングだ。

ヒンジなどはサテン・ブラック仕上げで、フロントにはエナメル仕上げのポルシェ・クレスト、リアには3Dプリントによる車名ロゴが設置される。

さらに細かいところでは、ヘッドライトやウインカーのコントロール・ユニットが、ロードカーとして使えるようプログラムし直された。

パワートレインは、レースカーと同じ4.6リットルV8ハイブリッドで、電動走行も可能。ただし、公道で扱いやすいよう、モーターのパワー・デリバリーはよりスムーズに変更。エンジンは、レース燃料ではないガソリンで走行できるよう再調整されている。



ただし、ナンバー・プレートはテスト車などに交付される仮ナンバー的なものであり、963RSPが正式に認証された市販車ではないことを示している。あくまで、イベント的に製作されたワンオフ・モデルということだ。

917以降、公道を走ったレン・シュポルトといえば、1996年の911GT1が思い出される。また、かつて高速道路で962に遭遇したときの驚きは、20年以上を経ても記憶に強く残っている。しかし現在は、生産台数規定がないプロトタイプが耐久レースのトップカテゴリーを席巻し、レーシング・カーの法規適合も簡単ではないほど技術が複雑化している。



たしかに、アストン・マーティンのように市販車ベースで頂点に挑むメーカーも存在する。とはいえ、そんな夢とロマンのあるプロジェクトは、それを要求するレギュレーションの導入がなければ、勝利を宿命づけられたポルシェには望めないだろう。

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文=関 耕一郎

(ENGINE Webオリジナル)
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