2025.09.06

CARS

世界王者・山野哲也の秘密のガレージ 原点は“車庫入れドリフト”だった

常に最新、最先端のモデルに乗ることにしているという山野さん。山野さんにとってこのガレージは未来を見つめる大事な場所だ。

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15の夏

1981年、山野さんがまだ15歳だった夏のことだ。山野さんの家族は父親の仕事の都合でロサンゼルスに移住した。アメリカの免許取得年齢は16歳からだが、その頃すでにクルマ好きだった山野さんは、ハイスクールの成績を上げることを条件にクルマ購入の確約を取りつけると猛勉強。見事にオールAの条件をクリアすると、念願のトヨタ・カローラSR5を手にいれる。時はまさに映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の頃。トヨタが欲しくてたまらない主人公のマーティみたいな高校生がたくさんいた。

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ハイスクールの卒業アルバム。いかにもアメリカのハイスクールらしいアルバムに思わず口元がゆるむ。

しかし、山野さんが面白いのは、クルマ好きの“好き”のニュアンスが少し変わっていたことだ。乗り物好きだった山野少年はバスに乗るといつも運転席の真後ろに陣取り、運転手の操作をじっと見ていたという。クラッチを切るタイミングやつなぎ方はどうするのか、エンジンの回転は? 見るだけでなく音で聞き分け、振動で感じとることに夢中になった。

「スピードじゃないんですよ。おかしいでしょ(笑)。バスが鼻先を突き出して狭い角をギリギリで曲がるのがワクワクしてたまらなかった」

写真もハイスクール時代のもので、ネーム入りのお揃いのジャンパーから切り取ってディスプレーした。この頃の体験の多くが現在に続くチャンピオン山野のベースになっている。

そんな少年が免許を取って夢中になったのは、なんと車庫入れだった。自分のカローラを手に入れる前は、帰宅する父親に車庫入れだけはさせてもらうようにいつも頼んでいたというからよほど好きだったのだろう。しかしその入れ方が普通ではなかった。

「向こうの家は敷地が広いので、だいたい車庫までに少しアプローチがあるんですが、ドリフトしながら入って壁際でピタリと止めるんです。今日は何センチまで詰められたとか、もっと行けるとか。一連の操作とその精度を上げるのが楽しくて仕方がなかった」

いまだから言えると笑いながら語る山野さんだが、まるで自動車競技のボックス・ストップだ。それを自宅のガレージでやっていたというのだからおおらかな時代のエピソードにこちらも笑いが止まらない。

写真はハイスクール時代に最優秀選手として表彰されたバレーボールの盾。

やがて日本に帰国し、上智大学に編入した山野さんは、ひょんなことから参加した自動車安全運転技術コンテストで優勝してしまう。誰もが驚く精度で、手足のようにクルマをコントロールする上智大学の無名の学生は注目の的だった。

「ロスの高校と大学ではバレーボールの選手でした。優秀選手にも選ばれたくらいなので、上智でもバレー部だったんですが、安全運転コンテストで優勝して自動車部から猛烈に勧誘されて転部したんです(笑)」

山野さんは、こうしてモータースポーツの表舞台に姿を現すことになった。もう、おわかりだと思う。最初のページのガレージには、山野さんがロサンゼルスで過ごした頃の、青春の記憶がそこかしこにちりばめられているというわけだ。

後編【ここはチャンピオンの秘密のガレージ レーシング・ドライバー、山野哲也さんの自宅ガレージを訪ねる】では、こだわりのガレージの中をじっくりと見せていただき、「お気に入りの場所」を教えてもらっている。

文=塩澤則浩 写真=阿部昌也

(ENGINE2025年8月号)

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