BMWが「史上最大のプロジェクト」と語る新しいノイエクラッセの幕開けを告げる「iX3」を、IAAモビリティ2025とデブレツェン工場で取材。これはまさに、ブランドの次の時代を象徴するモデルと言えるだろう。
新型iX3とはどんなクルマ?
「未来を見据えた当社史上最も大規模なプロジェクト」
BMWは2025年9月6日に新型「iX3」をミュンヘンで発表。会場で、同社取締役のオリバー・ツィプセ会長は、誇らしげにメディアの前に立った。
「34年間BMWで働いてきて、多くの新型車や新しい技術を見てきましたが、今回こそ、まさに人生で一度きりといえる出来事です」
ツィプセ会長にそこまで言わせた、新型iX3とはどんなクルマなのだろうか。
すぐわかる新しさはフロントマスクだ。縦型キドニーグリルと、ヘッドランプに組み込まれた縦2本のシグネチャーランプが目を惹く。
発表会場には「ニューエラ」(新時代)の文字が大きく掲げられていたように、すべてが違う。
救世主のノイエクラッセ
iX3は「ノイエクラッセ」とも呼ばれる。ノイエクラッセとはそもそも1962年のBMW1500にはじまる一連のBMWセダンを指す。エンジンをはじめスポーティな走行性能と、スタイリッシュなボディデザイン、新セグメントを作った“新しいクラス”として大ヒット。当時倒産の危機にあったBMWを救ったシリーズだ。

iX3も新時代のBMWとして肝煎りで開発された。
前後輪をモーターで駆動するBEV専用車。シャシーには独自開発の円筒型バッテリーセルを収めたパックが組み込まれ、車両のシステムは「スーパーブレイン」なる4つのコンピューターで制御される。一充電あたり800km超を走行するモデルも設定されている。
CO2排出量の削減も重要なテーマだったとされる。2次原材料や再生可能エネルギーの体系的な活用がなされ、同等性能のエンジン車と比較した場合、走行距離が2万1500kmに達した時点でライフサイクル全体にわたるCO2排出量が少なくなるとうたわれる。
インテリアにおいては、「BMWパノラミックiDrive」なる新技術が採用された。とりわけ、ウインドシールド下部、ほぼ左右いっぱい、110cmもの幅をもつ液晶ディスプレイ「BMWパノラミック・ビジョン」が注目の技術だ。
ナビゲーションやオーディオにはじまるインフォテイメントのモニターであり、最大の特徴は、AIエージェントが組み込まれていること。BMWが得意としてきた会話型コマンドシステムの最新形だ。

いっぽうで、ボディデザインは、個人的には意外なほどオーソドックスと感じられた。違っていることこそよし、というような昨今のBMW車と比べると、はるかに万人向けの佇まいと感じられた。

「iX3では、見るひとが見れば、初代ノイエクラッセに通じるBMW車の伝統を感じられる。それを重視してデザインしました」
発表会場で、私の感想に対して、BMWグループのデザイン統括の立場にあるアドリアン・ファン・ホーイドンク氏はそう答えた。
「アウトバーンで後ろから走ってきたとき、先行車のドライバーが、新しいBMWと気づいてくれること。それも重要な点でした」
デブレツェン工場も視察
ミュンヘンで開催されたIAAモビリティ2025で正式にiX3が発表されたあと、私は、ハンガリー第2の都市デブレツェン郊外にあるiX3の工場を見た。組み立てと、電池の生産が行われている。10月から本格的な生産が始まるとのことだ。

iX3が新しいノイエクラッセと呼ばれる理由はここで語られた。
「BMW車への期待に応えつつ、製造過程における効率化を追求したこと」。そう語るのは、最新の設備をそなえ、化石燃料の使用ゼロをうたうデブレツェン工場まで本社から足を運んできた、取締役会メンバーで生産管理委員会のドクター・ミラン・ネデルコビッチだ。
「私たちは新時代におけるクルマをどう設計し製造するべきか討議を重ねました。いまクルマは複雑になっています。私たちの結論は、シンプルこそ最善というものです。部品の点数を減らし、アセンブリーの構成を見直し、生産効率の向上と、車体の軽量化を実現しました」
iX3は「ノイエクラッセ第1弾」だ。ミュンヘンの会場ではiX3公開と軌を一にして「i3を26年に発表します」とアナウンスがあり、カモフラージュをした実車が公開された。こちらは第2弾になる。この先もノイエクラッセ・シリーズは様々なモデルが計画されているという。
「いまこそ。私たちが大きく飛躍する時。それがノイエクラッセに巨額の投資をしている理由です」
それがツィプセ会長の言葉だ。BMWの未来に期待しようではないか。

文=小川フミオ 写真=BMW AG
(ENGINE2025年11月号)