クルマのショールームと見まがうばかりの、スーパーなクルマが並ぶこのモダンなスペースは、東京のHさん(46歳・専門職)宅の中庭だ。昨年の3月に完成した、延べ床面積450平方メートルを超えるこのお宅で、Hさんは奥様と2人のお子さんと暮らしている。
40年ほど前、ブームとなったスーパーカーに憧れた世代のHさん。仕事が成功したのを機に、数年前からスーパーカーを集め始めるようになった。中庭に並んでいるのは、フェラーリ488スパイダー(2018年型)、ランボルギーニ・アヴェンタドールSV(2016年型)、マクラーレンP1(2015年型)、ロールス・ロイス・ドーン(2016年型)。
ボディ・カラーで珍しいのが、マクラーレンP1のメタリックな緑色。この色を選んだのには、訳がある。P1は、全世界で375台しか生産されていない、スーパーカーの中にあっても特別なモデルだ。しかもこのクルマを手に入れるには、しかるべき金額を支払えば良い訳ではない。本国のメーカーからオーナーとして相応しい人物と認められたうえに、本社工場の見学などが条件となっている。Hさんも、奥様と当時3歳の長男と2歳の長女を伴って工場を訪れた。その時、ロンドンの空港まで出迎えがあったうえ、宿はハイドパークを望む高級ホテルの用意が。他にも観光旅行では知りえない様々な英国文化を体験し、すっかり感心したHさん。「ホテルから見たハイドパークの木々が印象的だったから」と、緑色を選んだのである。この体験は、Hさんだけでなく奥様にとっても忘れられないものになった。そして「主人のスーパーカーの趣味を応援したい」と、一緒にイベントに出かけることも。
もちろん8歳になった息子さんも大のクルマ好きだ。子供らしく自分の部屋にミニカーが溢れているだけではない。イベント会場でクリスチャン・ケーニグセグのような、超のつく高級スーパーカー・メーカーの創設者との記念写真を喜ぶ「おませな」クルマ通である。そんな長男に奥様は、「成人したら、お父さんみたいにスーパーカーが簡単に手に入ると思わないように」と、教育することも忘れていない。ともあれ、Hさんたちは、家族でスーパーカーのある生活を楽しんでいるのである。
いくつかイベントに参加した奥様が、ご主人が選んでいるのは、押し出しの強いモデルではなく、「品のよい」クルマでは、と感じているのも興味深い。そうしたセンスが、家作りにも表れているからだ。建築家の石井秀樹さんに設計を依頼したのも、その落ち着いた上品なスタイルに惹かれて。ネットで検索して辿り着いた石井建築に、「一目で魅了された」という。そうした石井さんの特徴は、H邸でも随所に見てとれる。例えば、仕上げがそうだ。H邸は相当に大きなサイズであるが、この規模の住宅をコンクリート打ちっぱなしで造ると、「公共施設のような雰囲気になりかねない」。そこで外壁に貼ったタイルの表面をグラインダーで削って風合いを出している。この仕上げはリビングダイニングなどの屋内にも使われており、H邸の雰囲気は温かみのある落ち着いたものとなった。
そんなHさんは、建築家を絞り込む際、他の建築家や設計会社にもプランの作成を依頼している。結果、石井さんの提案が最も独創であるうえ、Hさんの希望や使い勝手を深く考慮したものだったという。敷地は緩やかに傾斜し、道路と接する南側は東西で1mの高低差がある。中庭を設け、そこに通じる入り口の幅を広くし、スロープを長くとった石井さんのプランは、車高の低いスーパーカーが斜めに侵入するので、底を摺らずに簡単に駐車できるもの。中庭を囲んだ車庫のレイアウトゆえ、他のクルマに邪魔されることなく簡単に乗り出せるのもポイントだ。
生活空間のすぐ横に愛車が見えるのではなく、少し離れた位置から愛車が見えるようにしたいというのもHさんの要望だった。石井さんは、2階のダイニングとそれぞれの個室を結ぶ中庭に面したスペースを広げてギャラリーとし、そこからクルマが見える設計にした。「この家が完成する前は、間近にクルマが眺められる1階の書斎にこもる機会が多くなると想像していました。ところがギャラリーの居心地が良いので、そこの安楽椅子で新聞や本を読むことが多い」とHさんは語る。
奥様も、様々な場面で「美」を感じさせる石井さんの設計を気に入っている。こうした素敵な家に暮らすHさんだが、少し前までは一生賃貸に住んでいても良いと思っていたそうだ。ところが、知り合いのCさんからクルマを譲り受ける際、C邸に接して建築家の設計した家でスーパーカーと暮らすライフスタイルがあることを知った。そうした体験があったから、この家が生まれたのである。ここで紹介したHさんの住まい方も、スーパーカー好きの読者の参考になることだろう。
文=ジョー スズキ 写真=山下亮
構造:鉄筋コンクリート造 規模:地上2階 敷地面積:618.21平方メートル 建築面積:277.35平方メートル 延べ床面積:459.39平方メートル 竣工:2018年
設計:石井秀樹建築設計事務所 isi-arch.com
■建築家:石井秀樹 1971年千葉県生まれ。東京理科大大学院修了。卒業後に独立。主に住宅を手掛ける。繊細なディテールを積み重ねて作り上げる独自の世界観には定評がある。先ごろ住宅設計のアイディアをまとめた「住まいのデザインノート」を上梓。写真の住宅で、小誌の連載に登場したことも。愛車はプジョー306カブリオレ。
(ENGINE2019年3月号)
▶︎過去の連載一覧
マイカー&マイハウス 記事一覧
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「Cubitus(キュビ…
advertisement
2024.11.25
アウディRS3、VWゴルフRと頂点を争うホットハッチ、メルセデスAMG A45が終焉を迎える
2024.11.27
20年前のクルマとは思えないほど良好なコンディション アルファ・ロメオ156 GTAに乗る湯浅洋司さん やっぱりエンジンが素晴らしい!
2024.11.25
G-SHOCKと青春を過ごしたすべての人に! 日本の伝統技術が生かされた64万9000円のG-SHOCK
2024.11.27
いま旬は、コンパクトなサイズ ケース直径36.5mmのグランドセイコー ヘリテージコレクション 44GS
2024.11.23
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わった築74年の祖父母の日本家屋 建築家と文筆家の夫妻が目指した心地いい暮らしとは?