ピックアップの荷台に雨除けを付けた便利な多目的車としてSUVがスタートした当初、 誰がロールス・ロイスやランボルギーニからSUVが誕生することを予想しただろうか。 しかし21世紀も19年が経過した今、それが現実のこととして目の前に存在する。
新井 ベンテイガにもロールスの思想に近いベントレー・モードが用意されますが、同時にスポーツやコンフォートのモードも残っています。それがアウディQ8ではオート・モードという真面目な名称になる。
佐野 ウルスにいたっては、公道向けのストラーダとスポルトに加えて、ウラカンなどと同じくサーキット用のコルサ・モードがある。かと思えば、さらにサッビア(砂)、テッラ(土・泥)、ネヴェ(雪)のSUV専用の3つも追加されて、計6モードから選ばないといけない(笑)。
荒井 今回でいうと、ベンテイガ、ウルス、Q8は確かに突き抜け系SUVなんだけど、カリナンだけはSUVというよりも「ロールス・ロイス」であり「カリナン」でしかない。もう異次元の存在感。
佐野 ただ、現在のロールス・ロイス・モーターカーズという企業は、1998年にBMWがゼロから立ち上げた創業 20年あまりの若い会社。それ以前の歴史ある工場や職人さんは、ベントレーと分離したときにすべてベントレーのものになりました。
齋藤 ショーファー・ドライバーの養成機関もベントレーが受け継いだんだ。それはともかく、ハードウェアや設備は手から離れても、それが人材なのかデータなのか、デザインや味わいにまつわる本質的なソフトウェアでは、ロールスの伝統が今もすべてきちんと受け継がれている。
佐藤 その意味では、ウルスもまた、見た瞬間からだれが見てもランボルギーニ。ドアが4枚あって、これだけ背が高いのにランボルギーニ。そして乗ってもスーパーカーです。
齋藤 だからに、アヴェンタドールやウラカンを見て「ランボルギーニはちょっとなあ」という人はウルスにもピンと来ないし、これまでのランボルギーニが好きな人には間違いなく刺さるものになっている。
新井 オプションですけど、ウルスはリア・シートまでフロントに劣らないバケットシートも選べる(笑)。
佐藤 今回の顔ぶれを1台ずつ見ると、どれもすごく高級で、背の高さを感じさせない高性能な走りで、実用性もそれなりにあるSUVでした。 でも、こうして4台を乗り比べると、それぞれがロールス、ランボルギー ニ、ベントレー、アウディ以外のナニモノでもないですよ。
佐野 あえて意地悪に言ってしまうと、カリナンをつくっているのは実は歴史が意外に浅い若い企業だし、ウルスとベンテイガ、Q8はみんな同じVWグループで、プラットフォームの基本設計は共通なわけです。
荒井 いや中身なんか関係なくて、その存在そのものが素晴らしいんだ。だって、ウルスは上流階級パーティに紛れ込んだ不良みたいだし、ベンテイガは家柄が良いうえに文武両道でなにもかもこなすエリート、Q8は真面目で普通のお坊ちゃん? すべてちゃんと別物だよ。そしてカリナンはロールスらしく、完全に浮世離れしている(笑)。
齋藤 ウルスはやっぱり動力性能が飛びぬけている。そして、シャシーが伝統のランボルギーニっぽいかというと微妙だけど、これだけ速いSUVはほかにない。そこだけはベン=テイガの12気筒でも敵わない。
佐藤 それでいて、ウルスは普通に乗り心地がいいのがスゴイ。
新井 それはプラットフォームの素性がいいというか、入念につくり込まれている証拠でもあるでしょう。
佐野 その中で、個人的にはアウディQ8がいちばん乗りやすくて肌に合って、本当にいいクルマだなと思いました。それはプラットフォームに対して動力性能に余裕があるのと、自分はやっぱり庶民派か......と思ったけど、これでも価格はオプション込み1200万円越。しかも4ドア・クーペ! Q8も突き抜けている。カリナンとかウルスを見ていると、感覚が麻痺しちゃいますね。
荒井 それはアウディも、そういうクールさを自分たちの味として意図的につくっているからだと思う。個人的には真面目すぎると感じたけれど、それこそがアウディだよ。
齋藤 ベンテイガはまさに体力も知力も一流なんだけれど、ウルスのような一点突破型ではない完璧なエリート。それこそがベントレーだ。
佐野 そんなベンテイガの内装調度が圧倒的にクラシカルなのは、昔ながらの職人さんや設備を持っているからでしょう。この点は今のロールスでもマネできない魅力と思う。
佐藤 まあ、経営的な資本や技術的にはいろいろあっても、この4台に実際に乗っていると「資本やプラットフォームなんて関係ない!」と素直に思えてしまう。この4台で、実際の乗り味や肌ざわりが似ているなんてことはまったくないですよ。荒井さんがいっていた各ブランドのキャラクターが、乗っていても鮮明に感じられます。そこは各社とも本当に見事なものだというほかない。
齋藤 今に名を残している名門といわれるメーカーは、デザインだけじゃなくて、シャシーやパワートレインのセッティング......それこそステアリング形状からギア比、各部の支持剛性といった細部まで、自分たちの味を伝承する技術をノウハウを持っているんだと思う。それは最終的に数字で設計に落とし込まれるにしても、そこにいたる過程は、勘や経験、センスがモノをいう世界。それを伝統としてきちんと受け継ぐことができたメーカーやブランドだけが、今に生き残っているともいえる。
荒井 だから、もうすぐ出てくるアストン・マーティンや、来年出てくるというフェラーリのSUVも心配は要らないんだと思う。
佐藤 アストンやフェラーリのことだから、今回の4台みたいにちゃんと私たちを驚かせてくれますよ。
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■ランボルギーニ・ウルス
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5112×2016×1638mm
ホイールベース 3003mm
トレッド 前/後 1689/1693mm
車両重量(車検証記載前後重量) 2200kg(前1340kg:後1020kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC32V直噴ツインターボ
総排気量 3996cc
ボア×ストローク 86.0×86.0mm
最高出力 650ps/6000rpm
最大トルク 86.7kgm/2250-4500rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 マルチリンク式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 285/40R22 110Y/325/35R22 114Y
車両価格(税込) 2917万7555円
■アウディQ8 55 TFSIクワトロ・デビュー・パッケージSライン
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5005×1995×1690mm
ホイールベース 2995mm
トレッド 前/後 1680/1690mm
車両重量(車検証記載前後重量) 2170kg(前1220kg:後980kg)
エンジン形式 V型6気筒DOHC24V直噴ターボ
総排気量 2994cc
ボア×ストローク 84.5×89.0mm
最高出力 340ps/5200-6400rpm
最大トルク 51.0kgm/1370-4500rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 マルチリンク式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 285/40R22 110Y/285/40R22 110Y
車両価格(税込) 1122万円
話す人=佐藤久実、佐野弘宗(まとめ)、荒井寿彦、齋藤浩之、新井一樹(すべてENGINE編集部) 写真=神村 聖
(ENGINE2020年1月号)
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