2014年に新世代ボルボのトップ・バッターとしてXC90が登場したとき、現在のボルボの大躍進をいったい誰が予想できただろう。フォードとマツダとのアライアンスが終了し、吉利(ジーリー)傘下となったときのボルボには、明るい未来は想像できなかったが、それは完全な間違いだった。
いったいボルボに何が起こったのか。たぶんいろんな要素があると思うが、やはりいちばんはボルボが自分たちのつくりたいクルマをつくったことと、自由なクルマづくりを許した吉利の存在があったからだと思う。将来を不安に思うどころか、当時ボルボを辞めたエンジニアは一人もいなかったと聞けば、いかに現場の環境が良かったかが想像できる。
前輪を150mmも前に出して、横置きエンジンの前輪駆動車でありながら縦置きエンジンの後輪駆動車のようなプロポーションを実現し、ワゴンではもう洗濯機や冷蔵庫を自家用車で運ぶ人はいないと割り切って、Cピラーを思い切り寝かせてスタイリッシュにした。そういう大胆な発想が実現できたのは、会社が健全だったからだ。
S90とV90は、そうしたデザインのアプローチがわかりやすく、現在の躍進の予兆がはっきり感じ取れたし、シンプルなスウェーデンのライフスタイルのイメージを上手くデザインに落とし込んでいて、ドイツ車ともぜんぜん違うプレミアム感もあった。
ちょっと知的で優しい感じ。そういうアンダーステイトメントな感じを好む人たちに受け入れられているのが、いまのボルボ人気なんだと思う。
さて、そんなボルボの最新モデル、S60のプラグイン・ハイブリッドに乗ることができるというので、成田で行われた試乗会に行ってきた。
とその前に、つい先日届いたリリースによると、2020年にボルボ初のフルEVとしてXC40リチャージを発売し、その後は2025年までに世界販売台数の50%を電気自動車が占めるように各モデルにフルEVを導入し、それ以外のクルマをハイブリッド車にするという。
つまり、今後は徐々にエンジンだけのモデルはなくなり、ハイブリッド(マイルド・ハイブリッドも含む)とフルEVだけになる。今回試乗したS60T6ツイン・エンジンAWDは、まさにこの新しい電動化戦略に組み込まれた重要なクルマというわけだ。
で、そのデキはどうだったのかと言えば、これがよくできていて、正直驚いてしまった。というのも出たばかりの頃に乗ったXC90のハイブリッドと比べると、まるで別物。その後改良されたシステムを搭載したXC60と比べても、相当良くなっている。
モーターでスタートする走り出しはとにかくスムーズで静かだ。これだけで上質な感じがする。走行モードをハイブリッドにしていると、状況に応じてエンジンが始動するが、違和感はまったくない。フロントがエンジン+モーター、リアがモーターの4輪駆動だが、ピュア・モードを選ぶとリア・モーターだけのFRになる。モーターだけで走行できるのは125km/hまでだ。
リア・モーターのパワーは87psで最大トルクは24.5kgmに過ぎないが、走り出しから最大トルクが発生するのでEV走行で痛痒を感じることはほとんどない。もちろん、デフォルトのハイブリッド・モードにしておけば、システム全体では340psもあるので パワーも速さも申し分ない。
モーターだけで走るピュア・モードがスムーズなのは当たり前だが、ハイブリッド・モードもそれに劣らずスムーズなことに驚く。登場したばかりの頃は、なんだかぼんやりしたハイブリッドだなと思ったが、最新世代となってモーターの良さとエンジンの良さ、その両方が上手い具合にミックスされて、走りが生き生きとしていると思った。
望外だったのは乗り心地の良さだ。先月試乗したガソリン・エンジンのFFモデルのS60が軽快でスポーティだったので、同じ方向性だと思っていたが、かなり性格が違ったので驚いた。車重が2010kgもあることもあってか、乗り心地はFFモデルよりもずっとしっとりしており、ひとつ上のクラスのクルマに乗っているような感覚だった。
さらに、特筆しておきたいのは回生ブレーキのフィーリングだ。これまた登場したばかりのXC90のときは、違和感アリアリの踏み応えのないブレーキだったが、電動化に向けて相当追い込んで改良したらしく、満足のいくレベルに仕上がっている。
新しいブレーキ・システムではフィールも良くなった上に以前より回生率も高められており、燃費も良くなったという。また、制動距離も短縮されてスポーティなドライビングにもしっかり対応できるようになった。
スポーティと言えば、試乗会場にはハイブリッド・システムの総出力が420馬力のT8ポールスター・エンジニアードも展示されていたが、こちらの回生ブレーキは専用のシステムが使われており、371mm径のスリット入りディスクと6ピストンのブレンボのキャリパーに合わせて、ブレーキ・ホースも総入れ替えされている。
減衰力調整式のオーリンズのダンパーやストラット・タワーバーなど、ポールスター・チューンの専用装備が奢られているとあって、価格は919万円もしたが、限定30台は発売と同時にアッという間に完売したという。
ついでに言っておくと、このT8ポールスター・エンジニアード、完売後も問い合わせが引きも切らず、2020年の夏頃の再入荷を決定したそうだ。
もうひとつついでに言っておけば、今後このプラグイン・ハイブリッドのT8ポールスター・エンジニアードはXC60とV60にも限定モデルとして追加されることがアナウンスされている。まさに"電気のボルボ"の時代の到来というわけだ。
◼︎ボルボS60 T6ツイン・エンジンAWDインスクリプション
駆動方式 フロント横置きエンジン+前後2モーター4WD
全長×全幅×全高 4760×1850×1435mm
ホイールベース 2870mm
車重 2010kg
エンジン形式 直列4気筒DOHC16バルブ・ターボ&スーパーチャージャー
排気量 1968cc
最高出力 253ps/5500rpm
最大トルク 35.7kgm/1700-500rpm
モーター(最高出力/最大トルク) 87ps/24.5kgm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/リーフ
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前後) 235/40R19
車両本体価格(税込) 779万円
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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