2020.02.15

CARS

それぞれロータス・エスプリとエリーゼに乗る仲良し夫妻 「妻に背中を押されたんですよ」

真っ白なロータス・エスプリと真っ赤なエリーゼ。この2台のオーナーは、中学時代からの幼なじみであり釣りという共通の趣味を持つ、仲睦まじい下村さん夫妻である。

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伊勢湾を望む愛知県・知多市のマリーナの駐車場に、紅白2台のロータスが滑り込んで来た。エスプリに乗るのは下村公哉さん。エリーゼに乗るのは奥様の安季子さん。面白いのはこのエスプリとエリーゼ、下村家として2人で購入したものではない。どちらも自分で購入した、夫婦それぞれの愛車なのである。


6年ほど前に公哉さんがエスプリを手に入れた時は、まず安季子さんが背中を押した。「あ、これは買うな、と思ったんです。だから、いいじゃないの!って発破をかけました。買ってからも彼は悩んでいましたけど(笑)」

そして昨年10月、エスプリの修理のために出かけた岡崎市のロータス&英国車専門店、ACマインズで安季子さんはこのエリーゼを見つけてしまう。この時はもちろん公哉さんが嬉々としてけしかけたようだ。

「とはいえ足がわりにホンダ・フリードを買ったばかりだったので、まさかエリーゼを、なんて言い出すとは思ってもみなかったんですが」 「真っ赤で、お尻がぽてっとしていて可愛いし。横のフィンもかっこいいし。なんだか買って買って、ってエリーゼが言ってるみたいだったんです。仕方ないから私が買おうかな?って(笑)」

いやはやなんとまあ。クルマ好きなら誰でも1度くらい、安季子さんのようなパートナーがいたら、なんて想像するのではないだろうか。













趣味が繋いだ縁

だが、2人の息がここまでぴったり合っているのは理由があった。まず公哉さんと安季子さん、なんと中学生の頃からの幼なじみである。高校生時代は喫茶店で一緒にアルバイトをしていた仲なのだそうだ。

そしてクルマ以外に、釣りという共通の趣味もあったのも大きいようである。公哉さんは30代の頃から和船をレストアするなどしてマリン・ レジャーを楽しんでいた。安季子さんは「漁師だった父親の血のせいかも」と笑うが、公哉さんによれば魚のわずかなアタリを見事に感じとるという。

2人の腕前は漁師顔負けで、60cmを越える真鯛を釣り上げたこともあるし、昨年の蛸の釣果は400匹近いとか。シーズンによっては週に何度も海へ出るそうだ。

公哉さんの船舶のレストア技術は、もちろんクルマ趣味にも通じている。船をいじっているうちに、いつしかグラスファイバーを使った補修や電気配線の修理はお手のものになった。

農機具の保管用だった自宅倉庫に手を入れ、古い見た目からは想像できないほど機能的なガレージも作り上げた。愛車の整備は愛艇同様、基本、DIYなのだという。

元々農機具の倉庫だったという公哉さんのガレージ。奥様の安季子さん曰く「こもる小屋」だとか。エスプリのブレーキの配管引き直しやエアコンのエボパレーター交換は下村家のロータスの主治医である愛知県岡崎市のACマインズ(http://ac-minds.com)にお任せしたが、それ以外の整備はほぼここで行う。隣の部屋には船舶用エンジンや金属製のキャビネットが並び、中には工具や部品がきちんと納められていた。もう1艇所有する和船もこのガレージでレストアをしたという。

公哉さんの最初の愛車は三菱ギャラン・ラムダ。そこからスタリオンに乗り換え、家族が増えてからはデリカなどを乗り継いできた。エスプリ購入の際、ほかに候補に挙がったのはDMCデロリアンとホンダNSXだった。「昔からモコモコしたカタチのクルマが嫌いで、シャープなデザインに惹かれるんです」

その車歴からも彼の好みが一本気なことがよく分かる。残念ながらデロリアンはレストア前提の、安季さんによれば「ボロボロ」な個体にしか出会えなかったし、MTが欲しかった公哉さんにとって、ATが圧倒的に多いNSXも断念せざるを得なかった。そんな時に出会ったのがこのエスプリだったそうだ。

ホワイトの外装色とブルーのインテリアの組み合わせが気に入って公哉さんは購入を決意する。だが彼ほどの腕前の持ち主でも、エスプリは一筋縄ではいかなかった。

「最初の半年は入院していました。購入した名古屋の某店からは“ACスイッチは触っちゃいけない!”って言われて(笑)。回っちゃいけない角度までぐるぐる回るんです」

整備書とパーツリストを揃え、部品番号を調べてクーラント・ホースやリザーバー・タンクを入手して交換。サビてあちこち朽ちてしまったリトラクタブル・ヘッドライトの補修は、日産グロリアの丸いライトやトヨタ・ダイナの部品を流用できないか試行錯誤した。エスプリに何か使えないか、ホームセンターの棚を眺めることも多いという。

公哉さんはクルマを触るのが好きで好きで仕方がないのである。テール・ランプのLED化や集中ドアロックの修理、電圧計の追加、空調ファンの修理、エアコン吹き出し口の移設までは1人で行ったが、マフラーやブレーキまわりなど、大がかりなモディファイや補修は友人やACマインズのようなスペシャリストの力を借りた。

結局、自分で手を入れた部分をのぞいて100万円くらいかかったが、現在は絶好調。自宅から20分ほどのマリーナへは専用の釣り竿スタンドを付けた軽トラックで行くことも多いが、雨天時や 風が強く、潮が舞うような時以外はエスプリも出動する。1000kmを走るACマインズのツーリング・イベントにも、2年連続で参加しているという。










エスプリはライバル?

安季子さんは「お風呂上がりにすぐ小屋(ガレージ)にこもっちゃう。まるで愛人がいるみたい。私のライバルはエスプリ」と苦笑いするが、もちろんエスプリが嫌いなわけではない。「音も素敵だし、加速がイイ。シフトやクラッチの操作にけっこう力が必要だから私は運転できないけれど、彼が満足しているのが一番」と優しく微笑む。

数少ない安季子さんの悩みは、公哉さんが自分のエスプリだけでなくエリーゼにも手を入れたくてしかたがないことと、公哉さんの走りが少々元気なことのようだ。

「エリーゼは乗り降りする時のライトくらい、もう少し明るいのがあったら楽だと思う」「いやいや、”エリーゼは触っちゃいかんよ”と常々言ってますよ」「ツーリングとかでちょっと飛ばすと怒るしね。素晴らしいコーナリングあってのロータスなのに」「だって1ミリ空いていたらぶつからないよ、なんて冗談を言うんですよ、この人(笑)」

......こんな具合に終始息はぴったり。そして2人とも、エスプリとエリーゼ以外、欲しいクルマはないと声を揃える。紅白2台のロータスは安住の地と頼れる主人たちを得て、幸せに違いない、とボクは思った。




文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=阿部昌也 取材協力=ACマインズ

(ENGINE2020年3月号)

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