2020.07.18

CARS

「ポルシェをデザインする仕事」第12回/山下周一 (スタイル・ポルシェ・デザイナー) 独占手記

アートセンター入学の直前の1989年に発表された、ポルシェ・パナメリカーナ・コンセプト。デザインしたのはスティーブ・マーケット。いまだ現役のイギリス人デザイナー。あまりの大胆さに衝撃を覚えた。このフェンダーにあこがれていろいろスケッチしたものだ。むき出しのタイヤ、ダブルバブル・キャビン、ピンクのジッパーなど、何もかもがドイツっぽくなくていい。ポルシェのワッペンを模したタイヤトレッドも興味深い。

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ナイトクラスに通って

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初めて訪れたパサディナにあるアートセンターは、写真で見た通り黒のトラム構造をしており、その低く 横に長い建物は付近の木々の中に溶け込み、曲がりくねった長いアプローチとともに何ともアメリカンでカリフォーニアンなたたずまいを見せていた。学校で最初にしたのは、ハウジング・オフィスでのアパート探しだ。気のいいフィリピン人のルームメイトと住むことになったアパートはプール付きで、アートセンターに通う日本人学生がたくさん住むサウス・パサディナの一角にあった。
 
アートセンターへの正式入学はまだ叶わなかったが、アートセンターにはナイトクラスというのがあり、 なんとビザ無し、英語の点数関係なしで誰でも授業を受けることが出来た。さらに正式入学のあかつきには、ここでの単位を正式な単位として移行出来るという、私にとって一石三鳥ぐらいの有難い制度だった。


昼間は英語学校に通いながらTOEFL対策、夜はアートセンターで授業を受けつつ入学に必要なポートフォリオを準備する。入学には英語のスコアの他、高校以上の学校卒業証明、学費証明に加えてポートフォリオの提出が必要となる。ポートフォリオとはいわゆる作品集で、トランスポーテイション学科希望の場合、12点の作品の提出が義務づけられていた。


提出内容に厳格な取り決めはないが、一応自分の希望する学科に沿ったものを提出する必要がある。入学を左右する一番重要な試験のようなものである。ナイトクラスは誰でもが参加出来るとはいえ、本科編入の際に成績もそのまま移行されるので気を抜けない。週2回の授業が終わると、同じようにアートセンタ ーを目指す日本人のK君のアパートで毎週のように徹夜で課題に取り組んだ。4月から始まったロスでの生 活。TOEFLのテストを何度となく受け、授業で初めて描く車の絵や、制作した作品をポートフォリオとし て提出し、ロスに移り8ヶ月余り経った12月初旬、ついにアートセンター・トランスポーテイション学科への入学が認められた。


その後、暮れに一時帰国。お世話になった畑山さんを訪ね、入学の報告とともに学費その他について相談 した。アドバイスを受け、再びアメリカに渡った時には、決断の日から一年半余りが過ぎていた。入学出来た気の緩みか、日本でもらった風邪のせいか、寝込んでしまい1990年1月の入学式にはフラフラで参加 することになったのを覚えている。


文とスケッチ=山下周一(ポルシェA.G.デザイナー)
(ENGINE2019年7月号)


山下周一(やました・しゅういち)/1961年3月1日、東京生れ。米ロサンジェルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで、トランスポーテーション・デザインを専攻し、スイス校にて卒業。メルセデス・ベンツ、サーブのデザイン・センターを経て、2006年よりポルシェA.G.のスタイル・ポルシェに在籍。エクステリア・デザインを担当する。

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