2020.08.18

CARS

正直たいしたクルマではなかったけれど、欠点だらけだから面白かった! 自動車ジャーナリストの小沢コージさんの人生を変えた1台とは

1972年に登場したホンダの初代シビック。それまでのクルマとは違うと驚いた。

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最初に自分で買ったシビックは、乗ってみると正直大したクルマではなかった。エンジンは当時としてはパワフルだったが、ステアリングのキックバックが物凄く、轍にも取られまくった。だが、今考えると小さい3.8m台のボディの中に、人も荷物もそれなりに積めたし、それでスキーにも行ったし、無理やり友人のレーシングカートなども積んだと思う。当時、まだ4ドア・セダンが主流だったはずだが、確かにハッチバックは使えたし、生活を変えてくれた。さらに魅力に溢れるものの、欠点だらけのワンダーシビックが、メディアに載るのを見るのがまた喜ばしかった。当時は自動車雑誌を読む甲斐があった。クルマはすべて欠点だらけの、それこそ間違いだらけの存在で、デザイン、コンセプト、エンジニア物語、すべてが面白く、それはそのまま自動車メディアに転職することに繋がった。そこには当時憧れて入ったホンダでの現実が、夢のようなクルマ作りの現場には繋がらなかったこともある。

入社1年目で、小さなパーツの試験を繰り返す、それが大きな自動車というプロダクトに繋がる感じが理解できなかった。想像力が足りなかったのだと思う。大会社の本質を理解できていなかったのだとも言える。とはいえ当時の判断は、それはそれで正しかったような気もする。

その後、シビックはどんどん欠点を埋めるように安全になり、期待された性能を外さなくなり、進化したが、残念ながら日本において魅力を増していったとは思えなかった。

無いものねだりだとは思うが、いつしかシビックはアメリカ車となり、日本での存在感を失っていった。それの代わりが、今のホンダ・フィットだという説があるが、はたしてどうだろう。シビックは自分が乗っていた3代目が1番カッコ良くて面白かった。その魅力とは、まさに不完全な魅力であり、今も蔓延る「元気が良かったホンダ伝説」そのものだ。

具体的にはどこが魅力的だったのかなかなか説明しづらい。世界一スペース効率が良かったわけでも、世界一美しい乗用車でも、世界一速いハッチバックでもない。カローラやVWゴルフのように、普遍的イメージを持っているわけでもない。また、今このクルマを必死でレストアする人も少ない。せいぜい多少高値でSiが取引されるくらいだろう。

だが当時確かに自分はこのクルマに惹かれていた。それはきっと当時の象徴的なライフスタイル商品だったからだろう。 ライフスタイルとは実に曖昧模糊とした存在であり、 当時在った空間プロデュースみたいなものとなんら変わらない。 つくづく80年代は訳の分からない夢のようなものに引っ張られていたのだと思う。

文=小沢コージ(自動車ジャーナリスト) 写真=本田技研工業



(ENGINE2020年7・8月合併号)

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