2020.07.27

CARS

「魂がつながっていた」デザイン・プロデユーサー、ジョー スズキさんの道具を越えた特別なクルマとなった人生最高の一台とは

パリからクルマで40分(約70キロ)の、フォンテーヌブロー宮殿の前で愛車と。1992年撮影。今でもナンバー・プレートは大切に保管している。

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パリを一歩出ると、フランスのほとんどはなだらかな丘が連なる田舎です。そして町と町を、整備された無料の高速道路が結んでいます。鉄道や飛行機を使わずとも、自分のクルマで遠くまで出かけられるのですから、クルマでの旅が楽しい国です。箱根のような曲がりくねった坂道はごく一部で、ATでも不自由を感じることはありませんでした。

さらにフランスでのカー・ライフを充実させてくれたのが、ミシュランガイドです。赤のホテル&レストランガイドと、緑の観光地ガイドがありますが、このガイド1冊で国中をカバーしています。特に赤ガイドはパリで接待に使うレストラン選びだけでなく、週末の小旅行や長い休みで重宝しました。なんといってもフランス生活での楽しみは、美味しい食事です。赤ミシュラン掲載店なら、間違いありません。日本のガイドには載っていない、小さな村にある、食堂のついた古城を改装した宿をあちこち訪れたものです。

この町には一つ星のフレンチ・レストランがある。ボロボロになった赤いミシュランガイドは、パリに赴任した年の1990年版。



3年間のパリ勤務の後は、ロンドンへ転勤に。右ハンドルの国ですが、気づけばなくてはならない存在になっていた、このBMWも持っていきました。ですが大きな見込み違いが。なんとイギリスにもロータリーがあるのです。しかもハンドルが逆だと走り難くて。幸いロンドンにはリムジンを使う文化があり、赴任して1年後、会社から2シーターに乗っても構わないという嬉しい話がありました。そこでロータスのことを考え始めたら、途端にクルマの調子が悪くなるから不思議です。よく、同じような話を聞きますよね。整備工場から絶好調で帰ってきた愛車を運転し、浮気心を反省したものです。


最後このBMWは、89年式の同じモデルの右ハンドルの一台と交換しました。仲の良い銀行員がロンドンから大陸に転勤するというので、等価交換だったのですが……。右ハンドルのBMWに乗り込んだ瞬間、僕が乗ってきたクルマの程度の良さが分かりました。エンジンをかけずとも、クルマが放つオーラが違うのです。

それまでクルマは単なる機械だと思っていました。なので最初は、理性的にクルマを選んでいました。それが愛情を込めてメンテナンスを行い、多くの経験を共にしたことで、道具を超えた特別な存在になっていました。けっして珍しいクルマではありませんが、僕と魂がつながっていた気がするものです。人生最高の一台なのは間違いないでしょう。


文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)

Photo by Ryoichi Yamashita

(ENGINE2020年7・8月号)

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