これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。ENGINE編集部員の新井一樹が選んだのは、WRC観戦の脚にポルトガルで借りたレンタカーのプジョー205ジュニア。日本車でいえば日産マーチの廉価版だ。そんな何の変哲もない実用車が、クルマの価値観を180度変えた。
スペック依存症から解放された
物心が付いたときからクルマ好きだった私にとって運転免許証を取得できる18歳までの十数年間はとてもとても長い年月だった。欲求不満で頭が狂っちゃうほどではなかったものの、18歳の誕生日を指折り数え、その度に子供ながらにタメ息を吐いたことは少なくなかった。そんなとき、モヤモヤした気分を吹き飛ばし、クルマへの明るい希望を抱かせてくれたのがカタログと自動車雑誌だ。
近所に販売店がないメーカーのカタログを手に入れるために、自転車を2時間走らせたこともあるし、9歳から読み始めた自動車雑誌はもっとも多いときで定期的に購読していたものだけで7冊を数えた。そしてそれらを家だけでなく、通学の行き帰りや学校の休み時間など、時間がある限り読みまくった。
母親からは「その労力を学業に向けたら……」といつも呆れ返られていたが、そのおかげで今の仕事に就けたとするならば、人生、何が幸いするかわからないものである(笑)。
寝ても覚めてもカタログや雑誌を読んでいたおかげで、クルマの知識はかなり付いた。しかしその反面、弊害も生まれた。すっかり頭デッカチなスペック依存症になってしまったのだ。
エンジンはOHVよりDOHCが優秀で4バルブならなお良し。サスペンションは車軸式より独立式で、セミ・トレよりもダブルウィッシュボーンが勝る。もちろんクルマ好きなら変速機はMTが絶対で、駆動方式は後輪駆動が当たり前で前輪駆動は妥協の産物くらいにしか思ってなかった。
今思い返すと穴があったら入りたいくらい恥ずかしい話だが、免許証を取る前まではもちろんのこと、自らの手でステアリングを握るようになってからもこんな感じだった。このクルマに乗るまでは……。
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