2020.08.28

CARS

氷上を140キロでブッ飛ばし、ノーブレーキでコーナーへ! フィアット・パンダ4×4で体験した真冬の北海道、大沼スノーアタックの思い出が忘れられない!!

大沼スノーアタックを走るパンダ

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これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。ENGINE編集部員のシオザワが選んだのは、「フィアット・パンダ4×4」。エンジン編集部に異動してちょうど10年目の年末。知り合いのカメラマンからパンダをもらった。しかもタダで。このときすでに車齢14年。パンダとの大冒険の始まりだった。

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パンダで日本最北のモータースポーツ・イベントに参戦!

いまから思えば、無茶というかなんというか、パンダとすごした日々は、これはもう大冒険の連続だった。

きっかけは、本誌でも時々仕事をしているカメラマンの鈴木勝さんの、「パンダ、いりませんか?」というひと言。ちょうどラリー・ドライバーの鎌田卓麻選手と、毎年真冬の北海道の稚内で開催されていた氷上トライアルに出場していて、自分のクルマが欲しかったので、すぐに譲ってもらった。2010年のことだ。

大沼スノーアタック。競技用のBRZの間で出番を待つ。左は全日本ラリーのチャンピンカーのBRZで、右は全日本ダートトライアルのチャンピオンカー。

しかし、96年型のフィアット・パンダ4×4は、稚内で借りた鎌田選手の競技仕様のインプレッサとは全然違った。当たり前といえば当たり前だ。排気量は1108ccで、最高出力はたったの52馬力しかない。都内の青信号でスタート・ダッシュにしくじると、次々にズバッと追い越されるわ、後ろからは捲られるわで、それはもう怖い怖い。パートタイム式4駆の4×4は、そもそもガレ場などが登れるように超ローギアードのトランスミッションを搭載しているから、エンジンは猛烈に唸っているのにスピードは全然大したことはない。しかもトリセツには、4駆のときは90km/h以上の走行は推奨しないとある。マニアが書いたパンダの書籍で調べると、直結式のパンダの4駆は90km/h以上出すと壊れると書いてあった。

はじめての北海道遠征のときは、旭川在住の鎌田選手が東京から帰るときに自走で運んでくれた。4駆で90km/h以上出すと壊れることを知らない鎌田選手は、苫小牧から旭川まで、距離にして約200kmの高速道路を全開でぶっ飛ばした。でもパンダは壊れなかった。その後何度も冬の北海道に行き、自分も苫小牧、旭川、稚内の間を往復しながらぶっ飛ばしたが、やっぱり壊れなかった。

ロシア製ピンスパイクとスパルコ製アンダーガード。


そんなパンダで出場していた大沼スノーアタックがまたすごかった。冬の北海道では日本最北端のモータースポーツとして有名な氷上タイム・トライアルで、ランエボやインプレッサの競技用の車両だとストレート・エンドで200km/hは出る。タイヤも競技用のピン・スパイク。こんなモノを履いて走るところが日本にもあることを大沼ではじめて知った。ブルドーザーで作るコースの長さはそのシーズンの氷のデキや天候によっても変わるが、だいたい1.5から2kmくらい。まあ、パンダで200km/hは絶対ムリだが、それでもストレートエンドで140km/hは出る。最初の頃はスタッドレスで走ったが、ロシア製の13インチのピン・スパイクを手に入れてからは、もう楽しくて仕方がない。スパイク・タイヤのものすごいトラクション。視界が滲むほどの振動。車内に溢れるエンジンの轟音。たった140km/hでも、パンダだと物凄いスピードに思える。しかも車重が軽く、パワーも大したことがないので、そのままコーナーに飛び込んで4輪ドリフトでコントロールなんていうことも出来る。これにシビレた。

あるときは、東京からたったひとりで自走したこともあった。夜間、苫小牧から高速に乗った途端に猛吹雪にあい、ホワイトアウトのなかを何度も吹き溜まりに突っ込みながら稚内にたどり着いた。後から聞いたら、地元の人間でも走らないような猛吹雪だった。また別のあるときなどは、大型台風並みに発達した爆弾低気圧に襲われ、なんと大会が中止になったうえに、稚内に閉じ込められたこともあった。強風でホテルの暖房が故障。近所のコンビニに行くのも遭難寸前という地吹雪にあい、止めてあったパンダのエンジン・ルームに隙間という隙間から粉雪が入り込み、なかは雪だらけ。枝に雪が着いた樹氷のようになった配線類を見たときは、ものすごいモノを見たと思った。そんな僕を不憫に思ったのか、主催者のメンバーが毎晩代わる代わる飲みに誘ってくれて、冬の大沼がますます好きになった。お土産にたくさんカニももらったしね。

そんなパンダもいまはカミさんの実家で長い冬眠中だ。雨ざらしで、屋根もエンジン・フードもすっかり塗装が剥げてしまい、このまま朽ちるんじゃないかと慌てて車庫に避難させた。もう大沼を走ることはないと思うけれど、冒険を共にしてきたパンダはやっぱり手放す気になれない。ハゲハゲ、錆び錆びをなんとかできるようになるまで、このまま眠らせておこうと思います。

文=塩澤則浩(ENGINE編集部)

カミさんの実家のガレージで冬眠中のパンダ。


(ENGINE2020年7・8月合併号)

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