2021.02.14

CARS

これも紛うことなきポルシェ! いまやポルシェの大黒柱になったカイエン&マカンの新作4台に乗る

“変わる”ポルシェの象徴として、忘れてはならないのがカイエンとマカンのSUVコンビ。今回は、2019年に加わったカイエン・クーペ、熟成が進むハイブリッド・モデル、さらにマカンのホット・モデルGTSという4台の最新モデルを味わってみた。


新井 最新モデル国内試乗篇の最後は現在、ポルシェの販売面における中心車種となっているカイエンとマカンのSUVコンビ。


村上 2002年にSUVのカイエンを出したことが、ポルシェのターニング・ポイントになったことは明らかだ。当時は賛否両論あったけれど、フタを開けてみれば大成功。カイエンは順調に売れ続けて、今では弟分のマカンに加えて、派生モデルのクーペまで登場した。ここ20年近く「変わるポルシェ」を象徴してきたのが、これらのSUVだよね。


上田 2019年のポルシェの世界販売台数は過去最高の28万800台。そのうちカイエンが9万2055台! マカンは9万9944台!! 合わせてポルシェ全体の3分の2以上で、今のポルシェを支えているのは完全にSUVになっている。


新井 今回は、そんなポルシェSUVの最新モデルを集めてみました。2台のカイエン・クーペは3.0リットルV6シングルターボの「クーペ」と4.0リットルV8ツインターボを積む最上級の「ターボ・クーペ」。標準のクーペの試乗車はタイヤも脚もノーマルで、ほぼ標準仕様に近い。


村上 素のクーペといっても、V6ターボだから性能的にはなんら不満はない。マカンGTSもターボ付きのV6だけれど、高性能版の2.9リットルツインターボを積んでいる。


佐野 GTSはもともと自然吸気(NA)の最強モデル的な位置づけになっていた。NAエンジンが姿を消した今も、「ターボ」より動力性能は落ちるかわりに、ハンドリングで勝負……という本質は変わらない。


村上 いきなり結論めくけれど、こうして4台を続けて乗ると、やっぱりポルシェは奥が深いと思う。彼らは本当にいろんな引き出しを持っていて、それぞれのモデルが別の顧客をきちんと満足させているんだけど、同時に一貫性もある。


上田 かつてスポーツカー専業だったポルシェは、今やSUVに会社を支えられながら、自由にスポーツカーをつくっている。そんなポルシェを後追いするスポーツカー・メーカーが増えているけれど、カイエンとマカンの熟成度や幅の広さなど、ポルシェはまだまだ先をいっている。多くのメーカーはとりあえずSUVを出した段階で、本当の意味で独自性を出すには至っていない。


佐野 カイエンの基本骨格は、ランボルギーニやベントレー、アウディなども使う、VWグループ共通の大型SUVプラットフォームだ。


新井 それは様々なホイールベースやオーバーハングに対応するようモジュール化されていて、カイエンはホイールベースもオーバーハングもショート版。つまり、最もコンパクトで運動性重視の設計になっている。


村上 そもそもポルシェがSUVをつくったのは、VWからトゥアレグ開発を請け負ったのがきっかけで、カイエンはその兄弟車だった。当時は副変速機まで備えたオフローダーっぽいつくりだったけれど、世代を追うごとにオンロード志向が強くなり、スポーツカー・メーカーのポルシェのクルマらしくなっていく。今の3代目ではクーペも同時開発し、さらにポルシェらしさを追求した。最新のカイエンはそのデザインからして、ポルシェのアイコンたる911を彷彿とさせる。


上田 こうして並べると、ポルシェの目的地がハッキリ分かりますよね。リア・スポイラーを上げたカイエン・クーペの後ろ姿はまさに911!


村上 ポルシェという企業の強さは実はマーケティングにある。今回の4台も「顧客ひとりひとりに、彼らが欲しがっているものを届ける」という、その教科書のようなデキだ。佐野 それは分かる気がする。


村上 カイエンの頂点であるターボS・Eハイブリッドなんて「勝ち組の中の勝ち組のクルマ」としか言いようがない。エアサスによる快適な乗り心地と有無を言わせぬ速さ、文句なしに豪華な装備。車重は2.6トン近くもあるのに重さを感じさせない。


佐野 カイエン・ターボですら血の気が引くほど速いのに、それにモーターが加勢(笑)。システム出力は680ps、トルクは900Nm!


上田 プラグイン・ハイブリッドだから電気だけで最大40km走れて、その最高速は135km/h。普通に充電して日本の交通環境で公道を普通に走っていると、ほぼEVです(笑)。


新井 ただ、インバーター音など、EVとしては意外に騒がしい。


村上 EVでもポルシェ感が強い。どんな音も聴かせる調律になっていて、実にスポーツカーっぽい。


上田 それはタイカンも同じ。


村上 確かにタイカンも一般的なEVの静粛性とはちょっと違う。スポーツカーに乗っている自然な高揚感を意図的に与えてくれる。


上田 今回のEハイブリッドも、加減速レスポンスやブレーキ・フィールなど、悪い意味での電気的な違和感はほとんどなかった。


佐野 ターボS・Eハイブリッドは今のカイエン・シリーズで最も速くてエラいグレード。ポルシェはハイブリッドでル・マン24時間を3回も勝っているわけで、ハイブリッド世界一のブランドでもあるから。


カイエンと比較すると、実際のサイズ以上にコンパクトな乗車感覚のマカンだが、すべてが引き締まったGTSはさらに小さく軽く感じる。

マカンは911のSUV

村上 カイエン・クーペはカイエンよりスポーティな塩梅になっている。


佐野 両車は基本構造も選べるパワートレインもすべて同じだけれど、クーペのほうがルーフとヒップポイントが少しだけ低く、リア・トレッドが広い。そして、クーペには可変ダンパーと20インチホイール、そしてガラスルーフが標準装備される。


上田 基本的に低重心でロール剛性が高い設定になっていますね。


新井 カイエンはもともとトゥアレグやQ7に対してスポーツ・クーペ的な位置づけでもあったのに、さらにクーペが必要なのかとは思う。


ステアリングやアームレストなど手に触れる部分がスウェード風の滑りにくいアルカンタラで統一されるのもGTSならではの特徴だ。

佐野 カイエンはもはや3世代続いている定番商品。初代カイエンはとても実用的なSUVだったから、初代から乗り継いで、キャンプに使っているユーザーもいる。実用性を犠牲にする冒険はしにくいよ。


村上 一方で、ポルシェは追いかけてくるスーパーカー・メーカーのSUVとも勝負しなくてはいけない。クーペはその対応策でもある。


佐野 BMWやメルセデスとも競合するカイエンは、世界一ライバルが多いSUVかもしれない。


村上 もう文句なしの完成度と言えるカイエンのターボS・Eハイブリッドに対して、クーペはやっぱり初出のクルマだと思った。特に今回のターボなんてあらゆる要素が詰め込んであるのに、どういう人に乗ってほしいのかはまだ曖昧で、試行錯誤している気がした。


新井 同じカイエンでもクーペは4人乗りが基本。さらに、今回のターボはスポーツプラス・モードで車高がベッタベタに低くなるあたり「21世紀の911」を狙っているのかも?


村上 でも、カイエン・クーペはこのターボみたいに4輪操舵までつけて全方位性能を狙うより、素のクーペのようなシンプル仕様のほうが気持ちいいと思う。カイエンより低重心でワイド・トレッド。カイエン・クーペはシンプルな仕様ほど軽快で、スポーティな味わいがよくわかる。ターボは本体価格だけで素のクーペより約800万円も高いことを考えると、素のクーペで十分だ。


あらゆる試乗車のインテリアはオプションの2トーン・レザー仕様となっていた。22インチ・ホイールやボディ・サイドの「PORSCHE」ロゴデカールもオプション。写真でもわずかに見えるブレーキ・キャリパーが鮮やかなアシッドグリーンになるのが、Eハイブリッドの証だ。

上田 僕は逆に、より低重心で運動性能が高いクーペこそ、ターボやターボS・Eハイブリッドで乗りたい。それこそ最強のカイエンですよ。


佐野 そこは年齢の差か。村上編集長と上田君の中間の年齢である私は、どちらの気持ちも分かる(笑)。


新井 ただ、今のポルシェはハードウェアの熟成が進んでいるせいか、グレード間の差が以前より縮まっている。マカンもそうで、ちょっと前のGTSなんて乗るのにかなり覚悟が必要だったけれど、今回のマカンGTSは最もハードなスポーツプラス・モードのままずっと走っても、まったく苦ではなかった。


村上 率直に言うと、今回はマカンGTSがいちばん乗って気持ちよかった。試行錯誤が見えるカイエン・クーペに対して、マカンGTSは熟成が極まった感じがするな。


上田 GTSはマカンにかぎらず、モデル末期に用意される決定版的なスポーティ・モデルですからね。


佐野 しかも、お買い得。マカン・ターボより60ps低いだけで、価格は190万円も安い。


村上 そのエンジンも電子制御でディチューンしているだけで、ハードウェアはターボと同じなんだから。あと、GTSはターボで標準のエアサスが省かれるけれど、コイル・スプリングの走りが気持ちよくて驚いた。


佐野 確かにハンドリングはすっきりしていて、カイエンより圧倒的に小さくて軽い。「SUVの形をした911」がファンの理想なら、今それに最も近いのがマカンGTSだ。


新井 街乗りや長距離など、エアサスがついたマカン・ターボにはGTSとはちがう良さもあるけど。


村上 マカンGTSは安定感と軽快感のバランスがドンピシャ! SUVではあるけれど、これぞポルシェのスポーツカーという味わいだ。エンジンも基本はターボと同じはずなのに、明らかに回りたがる味付けで、ちょっとNAっぽいんだ。


新井 マカンGTSだけはパワートレインもノーマル・モードのままで乗るのが気持ちいい。スポーツ系のモードで急かされるより、エンジンをじっくり味わいたくなる。


村上 生活とクルマ趣味のすべてを1台でまかなうなら、マカンGTSは決定版かも。実は価格も911カレラよりちょっとだけ安い。こういうポルシェのマーケティングは絶妙だ。それにしても、何度もピンチがありながらも、ポルシェは911を続けてきてよかった。911というアイコンがあるからこそ、こうしてSUVになっても、これもポルシェだと素直に認められるんだと思う。

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話す人=佐野弘宗(まとめ)+村上 政(ENGINE編集部)+新井一樹(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦


■ポルシェ・カイエン・クーペ

駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4931×1983×1676mm
ホイールベース 2895mm
トレッド 前/後 1674/1653mm
車検証記載車両重量(前後軸重) 2070 kg(前1160kg/後910kg)
エンジン形式 V型6気筒DOHC24V直接噴射ターボ
総排気量 2995cc
ボア×ストローク 84.5×89.0mm
エンジン最高出力(モーター/統合) 340ps/5300-6400rpm
エンジン最大トルク(モーター/統合) 450Nm/1340-5300rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 マルチリンク式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 275/45ZR20 110Y/305/40ZR20 112Y
車両価格(税込) 1182万円


■ポルシェ・カイエン・ターボ・クーペ


駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4939×1989×1653mm
ホイールベース 2895mm
トレッド 前/後 1687/1653mm
車検証記載車両重量(前後軸重) 2290 kg(前1300kg/後990kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC32V直接噴射ツインターボ
総排気量 3996cc
ボア×ストローク 86.0×86.0mm
エンジン最高出力(モーター/統合) 550ps/5750-6000rpm
エンジン最大トルク(モーター/統合) 770Nm/1960-4500rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 マルチリンク式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 285/35ZR22 106Y/315/30ZR22 107Y
車両価格(税込) 2063万円


■ポルシェ・カイエン・ターボS Eハイブリッド

駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4926×1983×1673mm
ホイールベース 2895mm
トレッド 前/後 1687/1670mm
車検証記載車両重量(前後軸重) 2580 kg(前1390kg/後1190kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC32V直接噴射ツインターボ
総排気量 3996cc
ボア×ストローク 86.0×86.0mm
エンジン最高出力(モーター/統合) 550ps/5750-6000rpm(136ps/680ps)
エンジン最大トルク(モーター/統合) 770Nm/2100-4500rpm(400Nm/900Nm)
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 マルチリンク式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 285/35ZR22 106Y/315/30ZR22 107Y
車両価格(税込) 2408万円


■ポルシェ・マカンGTS

駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4686×1926×1609mm
ホイールベース 2807mm
トレッド 前/後 1650/1658mm
車検証記載車両重量(前後軸重) 1970 kg(前1110kg/後860kg)
エンジン形式 V型6気筒DOHC24V直接噴射ツインターボ
総排気量 2894cc
ボア×ストローク 84.5×86.0mm
エンジン最高出力(モーター/統合) 380ps/5200-6700rpm
エンジン最大トルク(モーター/統合) 520Nm/1750-5000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ダブルウィッシュボーン式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 265/45R20 104Y/295/40R20 106Y
車両価格(税込) 1062万円


(ENGINE2021年1月号)

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