ニュルブルクリンク北コースのFF最速タイムを持つ希代のスポーツハッチ、メガーヌ・ルノー・スポール(メガーヌR.S.)がマイナーチェンジ。「トロフィー」と同じ300psエンジンを得て魅力が増した素のR.S.に箱根で乗った。
ひとり夜明けのワインディング・ロードを目指すのは昭和生まれの元若者には当たり前の行為だったが、同じひとりでも現在の若者が目指すのはキャンプだろう。いやいや、今でも俺は汗をかくほど走った後に峠の上で飲む缶コーヒーが一番の楽しみ、というオジサンとごく一部の若いクルマ好きのために、ルノー・スポールがまたもメガーヌRSをバージョン・アップしてくれた。
現行型メガーヌRSはRSとしては3世代目に当たる。カタログモデルは標準型RSと、2019年に発売されたさらに硬派な脚まわりを持つ“RSトロフィー”という二本立てだが、両者の最大の違いはトロフィーがよりパワフルなエンジンを搭載していることだった。トロフィーの1.8リッター直4直噴ターボは300ps、420Nm(6段MT仕様では400Nm)と、標準型R S 用よりも21psと30Nm増強され、さらにツインスクロール・ターボの軸受けベアリングにはフリクションロスを減らすためにスチール製に代えてセラミック製を採用していた。
今回登場したマイナーチェンジ版は、その同じエンジンがRSにも搭載されたことが最大のトピックである。日常使用も考えるならば、トロフィーほど硬くない脚まわりを持つRSの方がベターだが、エンジンのチューンが低いことには満足できないという硬派なファンが多かった日本市場のため(実際にこれまではトロフィーを選ぶ人が大半だったという)と言ってもいいだろう。何しろこの種の高出力スポーツハッチは、欧州ではますます厳しい立場に追いやられている。皆さんご存知の企業別平均CO2排出量規制に加えて、購入者も高額な排出税(国によって差はあるもののRSの場合欧州ではざっと100万円)を支払わなければならないという。その影響もあり、今や日本がRSのトップ・マーケットなのである。日本仕様のRSはEDC(エフィシェント・デュアルクラッチ)と称するデュアルクラッチ式6段自動MTのみ、RSトロフィーにはEDCと6段MTの両方が設定されているが、今回の主役はRSである。
従来のRSでも中間域のトルクは強力だったから、全開走行でなければトロフィーとの差を感じ取るのは難しかったが(0- 100km/h加速は従来型ではRSが5.8秒、RSトロフィーは5.7秒だった)、300psユニットを積んだ新型RSはトップエンドでの吹け上がりがさらに鋭くシャープになったことがまず嬉しい。これでエンジンと脚まわりのどちらを取るかと悩む必要がなくなった。
ブンブン活発に回るエンジンと並ぶメガーヌRSの魅力はその痛快なハンドリングである。60km/hを境に(レース・モードでは100km/h)低速では逆位相、高速では同位相に切れる後輪操舵システム「4コントロール」を標準装備するRSは、タイトなコーナーでスパッと回り込む上に、そこからパワーを与えても前輪が外に逃げるどころか、グイグイとフロントが引っ張ってくれるという、まるで前輪駆動らしからぬ、痛快で気持ちのいいコーナリングを披露する。レース・モードでESC(横滑り防止装置)をカットすると最後にはジリジリッと外側にはらんでいくものの、その場合でも最後まで接地感を失わないタフな脚まわりが心強い。4本のダンパーに内蔵されるルノー自慢のHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)の効果もあるのだろうけれど、ルノーは昔から頑健さがウリである。HCCはダンパーを大容量化したのと同じ効果を持ち、常用域の設定を必要以上に固めなくても済む。RSがしなやかといっていいほどの乗り心地を持つ理由のひとつだろう。
新しいRSはストップ&ゴー機能付きACCや歩行者検知機能付きエマージェンシー・ブレーキなど現代的な安全装備も充実した。その分値段(464万円)はちょっぴり上がったけれど、普段使いと夜明けのスポーツドライビングを問題なく両立できるコンパクト・モデルは他にほとんど見当たらないのが現実だ。もちろん、スパルタンなRSトロフィーの6段MTをあえて選ぶという手もあるけれど、家族を乗せることもあるのなら断然こっちだ。諦める理由がなくなった今、さあ、どうする?
文=高平高輝 写真=望月浩彦
■メガーヌ・ルノー・スポール
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4410×1875×1465mm
ホイールベース 2670mm
トレッド 前/後 1620/1600mm
車両重量 1480kg
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1798cc
ボア×ストローク 79.7×90.1mm
エンジン最高出力 300ps/6000rpm
エンジン最大トルク 420Nm/3200rpm
変速機 湿式デュアルクラッチ式6段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 245/35R19 93Y
車両価格(税込) 464万円
(ENGINE2021年6月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.07.20
CARS
クルマは「自由な時間をくれる相棒」という漫才師のオール巨人さん 愛…
PR | 2024.06.28
WATCHES
宇宙のロマンがここにある! 壮大なる宇宙の風景を表現する限定モデル…
2024.07.03
CARS
「プレジデントは愛人です」という俳優の寺島 進さん、43歳で買って…
PR | 2024.07.16
WATCHES
ザ・シチズンの100周年記念限定モデルの文字盤はなんと、藍染和紙!…
2024.06.29
LIFESTYLE
MASERATI GranTurismo × FENDI スタイリ…
PR | 2024.07.16
WATCHES
パテック フィリップは旅時計も超複雑時計も革新・進化を続ける! シ…
advertisement
PR | 2024.07.17
アバルト695の最後の限定車、「695 75°アニヴェルサーリオ」が350台限定で登場
2024.07.20
クルマは「自由な時間をくれる相棒」という漫才師のオール巨人さん 愛車は5リッターV8マニュアルの素敵なBMW Z8
2024.07.03
「プレジデントは愛人です」という俳優の寺島 進さん、43歳で買って17年を共にした愛車が工場入り 動かなくなっても持ち続けるという言葉がジンとくる
2024.07.10
500馬力のスーパースポーツよりマツダ・ロードスターのほうが上の理由とは? モータージャーナリストの斎藤慎輔がズバリ指摘するND型ロードスターの魅力
2024.07.18
アウディA4がフルモデルチェンジ A5に改名した理由や、一新された外観や進化した中身を解説