2021.07.02

CARS

ポルシェ911ターボとターボSカブリオレ、合わせて1230馬力を乗り比べる!

自宅のある京都と仕事の多い東京を頻繁に往復するモータージャーナリストの西川淳さん。ポルシェ・ターボのGTカーとしての実力はとうの昔に体験済み。が、992型のターボで箱根を走るのは今回初めてだった。

911は生まれながらにしてGTカーだった

先に打ち明けておこう。ポルシェにレーシングカーのイメージはあってもスポーツカーのイメージはあまり持っていなかった。最近のケイマンとボクスターでようやく、という感じだ。歴史を振り返ってみれば911はもちろんのこと、その前身たる356も含めて、ポルシェはこれらを純然たるスポーツカーとして企画してはいない。もちろん、そのルックスはビートルに比べていくらか流れるようではあっただろうし、実際に随分と速くも走れただろう。ドライブフィールも優れていたに違いない。

けれどもそれはせいぜいスポーティというべきもので、決してスポーツではなかった。事実、901型911、通称ナローの開発時に至っては356以上に室内や荷室の広いパワフルで快適な2+2を作ろうとしたのである。結果的にRR方式を踏襲しフラット6を積んだ2+2クーペが誕生し、そのユニークなパッケージを生かした自由度の高いハンドリングと強力なトラクション性能に、クルマ好きは“運転する喜び”を見出しただけのことであろう。

911は生まれながらにしてGTであった。



一方で、その高いポテンシャルに目をつけた好事家たちのレース参戦を支援する形で始まったポルシェのモータースポーツ活動は、その後、未曾有の成功を成し遂げる。ブランドもまた911によるレースの数えきれない勝利によって、“世界一のスポーツカーメーカー”としての地位を得た。今も昔も人はイメージでクルマに乗るものなのだ。911やポルシェのスポーツカー・イメージがル・マン24時間レースに代表される耐久レースによって主に築かれてきたという事実にも、公道とサーキットに通底するポルシェのグランツーリズモ性の強さが明らかにされている。

“ポルシェターボ”もまた生まれながらにしてGTだった。このネーミングが五十路のクルマ好きを未だ虜にしてやまない起源を思い返せば、それは漫画『サーキット』の狼において描かれた930ターボの高速性能の高さにこそあった。人と荷物を速く遠くへ運ぶことがそもそもクルマのレゾンデートルであったことを思い出せば、速すぎる2+2のクーペ=ポルシェ・ターボはある意味、時代における自動車の頂点を極めたと言ってよく、同時に911のモデル・イメージをも決定づけたのである。

事実、筆者は以前に初代911ターボを同時代のミドシップ・スーパーカー(具体的にはフェラーリBBとランボルギーニ・カウンタック)とサーキットで乗り比べた経験がある。イタリアン・スーパーカーとは元来GTの権化というべき存在なのだが、それらと比べてもいっそう乗用車に近いGTだった。乗りやすく、快適で、しかも速い。ずっと乗り続けて速い(すなわち耐久だ)クルマは間違いなく911ターボだった。



試乗車の室内はグラファイトブルー/ハモーべベージュのレザーインテリアで、ボディ・カラーはゲンチアン・ブルーメタリック。スポーツ・シートはベンチレーション付きで、レザーのGTスポーツ・ステアリングホイールはヒーターを内蔵する。可変式フロント・スポイラーは先代モデルより低い位置まで展開し、エアロダイナミクスも向上している。ホイールはチタン製で、ターボの標準仕様を履く。

992型ターボで箱根を走る

かくして911ターボはGTとして進化を続ける。特に念願の4WDシステムを得た993以降においてその傾向は顕著になった。もちろんポルシェとしては上等な乗用車と誤解されがちなGTイメージを底支えすべく、時折スペシャルなRRのターボマシンを作っては批評家たちの悪口を封じ込めてきた。役割分担もまたいっそう進んで、911のスポーツカーはどちらかというとノンターボのGT3系に割りふられ、911ターボと言えばスタンダード・ラインナップの、今や名実ともに“親分”として振る舞うようになった。

そんなふうにコトをとてもシンプルに理解していたのだ。

最新の911=992ターボで初めていつものハコネを走ってみるまでは……。

今回、スタンダードの911ターボクーペとハイスペックの911ターボSカブリオレの2台を改めてじっくり乗り比べてみて、これまでのイメージとはちょっと違うことに気がついた。確かに992ターボは、930ターボの快適性と993ターボの安定性をそれぞれ数十年分増幅させて継承した、よくできたGTであることは間違いない。しかし同時に実は911のパッケージ的な弱点をほとんど克服した完全なるスポーツカーでもあったのだ。







911のスポーツカーはGT3の領分、四駆のターボは完全にGT領域。一度そう引いたラインを疑うことがなかった。だから、この取材の前にシリーズ・モデル最高峰というべきターボSカブリオレを駆って、いつものように京都の自宅まで走り、ひとしきり使いこんでまた東京に戻す機会を得たときも、スタンダード911ターボに比べて+70ps&+50Nmの最高出力650ps、最大トルク800Nmの威力のほどを直線でほんの少し体験した後は、ステアリング・スポークに備わったドライブモード・ダイヤルを元へ戻してクルージングに徹していた。そして、ひとり唸っていたのだ。やはりターボは素晴らしいGTだ、と。

事実、ターボにせよターボSにせよ、もはやゴージャスというべきスタイリングに見惚れ、もはやゴージャスというべきインテリアに身を収めた瞬間から、「これから良いドライブ旅が始まりそうだ」、という気分になる。エンジンの目覚めこそ勇ましいけれども、それもすぐさま落ち着き、乗り手が勝手にイキリ立たない限り、クルマはとにかく平静を装う。

動き出してもそうだ。スペックを見ただけでたじろぐような凄まじい性能のありかを微塵も感じさせない。ゆっくりと右足に力を込めていけば、ゆっくりと動き出す。タイヤの回転は異様に滑らかで、近頃のプログラムらしく8速PDKは淡々とギアを上げていく。高いギアでクルージングする限り、獰猛さのかけらも感じることはなく、むしろ清々しいくらいである。こんな快適なGTをどうして無理やり追い込む必要があるというのか。



乗り手を怯ませる

よくできたGTはたいてい、肉体的にはもちろん精神的にも乗り手を疲れさせないものだし、絶対的な時間はともかく相対的に速く着いた気分にさせるものだ。ターボSカブリオレはまさにそんなクルマだった。スポーツ+モードなんぞ、試してみたいとももはや思わなくなるほどに。

ハコネで同じターボSカブリオレを再び駆った。最初はオープン・クルージングを優雅に楽しもうと思った。そういうクルマだと思っていたからだ。撮影の段取りがあって、途中でターボ・クーペに乗り換えた。Sよりも劣るとはいえ、それでもそのスペックは凄まじく、乗り手を怯ませるに十分である。

ハードルーフの4WDという安心感からか、ちょっと攻め込んでみようという気になった。ドライビング・グラブをはめ直し、ダイヤルをスポーツ+にして走り出す。

おや? これは、よくできたGTというには激しすぎるじゃないか。完全にスポーツカーだ。フロントアクスルは駆動輪であることを忘れたかのように自在に動き、それでいて四肢は常に路面を咥えて放さず、おまけに後輪操舵のおかげでどこまでも狙ったラインを攻め続ける。電動パワーステアリングの反応は常にリーズナブルで、シャシーコントロールはといえば常に乗り手の気分の“盛り上げ上手”役だ。レーシングシフトやスポーツレスポンスなど使うまでもなく、公道では恐ろしく速くて素晴らしく楽しい。高次元のスポーツカーへと変身した。

ウインド・ディフレクターは電動で開閉可能。

試乗車のターボSカブリオレのボディ・カラーは、GTシルバーメタリック。室内の仕様はブラック/ボルドーレッドのツートーン・レザー。ホイールはセンター・ロック式のターボS専用のエクスクルーシブ・デザインだ。そのほかオプションとしてPASM付きスポーツサスペンション、スポーツ・エグゾースト・システムなどを装備。

ターボSカブリオレに再び乗り込んで同じように試す。変わらない。否、風を猛烈に感じる分だけいっそうスリリングだ。

正直に言って、ターボとターボSの違いを文字で表現することは難しい。そもそもクーぺとカブリオレとでは重量も120kg程度は違うし、クーペが下ろしたての新車同然でオドメーターはたった400kmだったのに対してカブリオレは12000kmを刻んでいる。高回転域における伸びの軽さをターボSで感じたものの、それは単にエンジンがこなれているからかも知れない。何しろ公式スペックによると、両者の違いは0→100km/h加速で僅かに0.1秒、最高速度でも10km/hしか違わない。

ボディ×スペックで見れば、最新のポルシェターボには都合4種類のモデルが存在するわけだが、ロードユースに関する限り、どれを選らんでも満足度は変わらないはずだ。そうであればターボ・カブリオレあたりが“お買い得”な気がしてきた。

もちろんSはポルシェ史における重要な文字であることは確かだ。人によってはそれに450万円払っても惜しくはないだろう。たとえその差がほとんどプログラミングによるものだったとしても、たまさか並んだターボがSだった時の悔しさも察するに余りある。

GTとスポーツ。どちらが主でどちらが従ではない。ポルシェは僅かな匙加減で評価をどちらにでも傾けることができる。ターボの第一印象をGTだと感じるのは、その風味を僅かに強く味付けたからであろう。内包するそれぞれの相対的なポテンシャルは、全ての911シリーズに共通して、同じ比率を保っているに違いない。



■911ターボSカブリオレ

駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4535×1900×1301mm
ホイールベース 2450mm
車重 1785kg
エンジン形式 直噴水冷水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 3745cc
ボア×ストローク 102.0×76.4mm
最高出力 650ps/6750rpm
最大トルク 800Nm/2500-4000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 255/35ZR20/315/30ZR21
車両本体価格 3180万円

■911ターボ

駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4535×1900×1303mm
ホイールベース 2450mm
車重 1715kg
エンジン形式 直噴水冷水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 3745cc
ボア×ストローク 102.0×76.4mm
最高出力 580ps/6500rpm
最大トルク 750Nm/2250-4500rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 255/35ZR20/315/30ZR21
車両本体価格 2500万円

文=西川 淳 写真=望月浩彦

(ENGINE2021年6月号)

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