2021.07.03

CARS

日本唯一の正統派GTカー、レクサスLCとLCコンバーチブルに改めて乗ってみた! 天にも登るV8、5リッター自然吸気エンジン!

スカイラインやセリカをはじめ、日本にもGTと名付けられたモデルはたくさん存在する。しかし、レクサスLCのように本当の意味でGTカーと呼べるクルマはあまり多くない。

LCに乗ると、日本のメーカーにも真のGTが作れるのだ、と誇らしく思えてくる。

GTの王道を行く

日本車で正統派のGTを名乗れるクルマと言えば、やはりレクサスLCしかないだろう。2017年にデビューするや喝采をもって迎えられたこのLCは、まさしくレクサスというブランドのプレステージを飛躍的に引き上げる原動力となった。

この国にはそれまでも、ピーク・パフォーマンスに優れたスポーツカーはいくつもあった。それは紛れもない技術の結晶。今の日本の自動車メーカーは間違いなく世界と戦える知見とノウハウを手にしている。

しかしながらGTに求められる要素は少し異なる。欲しいのは一瞬のピークではなくあらゆる場面で頼れる動力性能、ゆとりある走りに快適性やある程度の実用性、さらには気分を昂揚させる雰囲気作りといった要素。これらを備えるためには技術はもちろん、文化あるいは素養などと呼ばれるものが必須と言える。日本のレクサスから、まさにそうした王道のGTが登場したのだから、これは本当に誇らしいことだったのだ。



昨年には待望のコンバーチブルも追加された。クーペの登場から時間がかかったが、実際に開発には相当な時間と手間隙がかけられたという。開発スタートの時点で目指したのは、LCクーペと肩を並べる走り。しかしながらクーペにも同時進行で手が入れられているから、それをキャッチアップするのは並大抵のことではなかったのである。


そう、コンバーチブルが追加され、そしてクーペも一層ブラッシュアップされた最新のレクサスLCを、今回は2台まとめて連れ出した。日本のプレミアム・ブランドが描くGTの姿とは果たしてどんなものなのか、じっくり再検証してみたい。

スポーティとラグジュアリーを上手にバランスさせたデザインもさることながら、どうしてもこの大胆な色に目が行ってしまうインパネ。この大胆な色使いがレクサスらしいと言えばレクサスらしい。ちなみに、選択できるのはクーペのみとなる。

圧倒的にスタイリッシュ

試乗したのは、まずクーペがLC500h・Sパッケージ。V型6気筒3.5リッターエンジンと電気モーターを組み合わせたマルチステージ・ハイブリッドシステムを搭載するモデルにCFRP製ルーフや、ギア比可変ステアリングと後輪操舵を統合制御するレクサス ダイナミック ハンドリング(LDH)などを組み合わせる、ドライビング・ダイナミクスに重きを置いた仕様である。

もう1台はLC500コンバーチブル。実はこちらにはハイブリッド・モデルは設定されず、V型8気筒5.0リッター自然吸気エンジンと10段ATの組み合わせのみとなる。ソフトトップが収まるのが、まさにハイブリッドのバッテリーが搭載される場所だからというのがハイブリッドの設定がない理由なのだが、ともあれより趣味性の強い仕様であることは間違いない。



まず触れないわけにはいかないのがスタイリングだ。LCクーペが登場した時のインパクトは鮮烈なものだったが、今見ても存在感がまったく色褪せていないのも見事と言うほかない。独特で他の何にも似ておらず、しかも圧倒的にスタイリッシュ。日本車のデザインもここまで来たかと思わず感慨に耽ってしまう。

ドアを開けて室内に入ると、その感動がさらに倍加することになる。デザインは大胆そのもの。使われている素材、そして職人の手で行なわれるという仕上げのクオリティの徹底ぶりは半端じゃない。特に彫刻のようなドア・ノブ、流れるような面のドア・トリムなどは、いつも見惚れてしまうほどだ。





試乗車の内装は何とオレンジとブラックのコーディネート。派手というか一瞬ギョッとするような組み合わせなのだが、それをすんなり着こなせるのは、本物のクオリティのなせる技だろうか。

カブリオレのエクステリアも、まさに美しいの一言だ。エレガントだというだけでなく躍動的でもあるのは、クローズ時のコンパクトにまとめられたソフトトップのフォルム、そしてオープン時のキャビン後方で一段キックアップする造形が効いている。これらのおかげで、後席も備えるにもかかわらず、まるで2シーターのロードスターかのような雰囲気が醸し出されているのだ。

ソフトトップの開閉に必要な時間は約15秒。書の筆運びのように緩急をつけながらの動作が美しい。



LFA由来のデザインを継承するメーターは全面液晶パネルだが、丸い装飾を付けることで、指針式感を強調している。

オープンにすると、インテリアもエクステリアの一部になるのがコンバーチブル。LC500コンバーチブルの内装はそれに相応しい華やかさだ。後席はクーペより狭いとは言え、鞄やコートの置き場としては、贅沢すぎるほどと言っていいだろう。

雰囲気は、いずれもゴージャス。では走りはどうか。まずはLC500h Sパッケージのステアリング・ホイールを握ることにする。

改めてドライバーズ・シートに腰を下ろすと、まずシートがしっくりと身体にフィットし頬が緩む。サポート感に優れるのに窮屈ではなく居心地は上々。触感を大切に、表側に糸が出ないように縫われたシフトノブなども、繊細なタッチで手に馴染む。

発進させると、すぐに乗り心地の改善ぶりに気づいた。登場当初は脚さばきが重たげな感じも見受けられたが、アルミ製サスペンション・アームの採用やスタビライザー・バーの中空化、ホイールの肉抜きなどによる地道で愚直な軽量化でバネ下重量を軽減したことにより、乗り味はしなやかな印象が俄然高まっている。

これは当然、ハンドリングにも好影響を与えていて、操舵に対してすっきり素直に反応する軽快感が嬉しい。特に試乗車はLDHやトルセンLSDを装備するSパッケージだから、コーナリングの一体感はさらに強調されている。初期型にはLDHの違和感などもあったが、いい具合に熟成されてきたようだ。

LCのマルチステージ・ハイブリッドシステムは、Dレンジでの走行中も擬似的な10段変速を行なうのが特徴である。おかげでV型6気筒エンジンの軽やかな吹け上がりを楽しめるし加速感もリニア。ハイブリッド特有のネガティブな面を感じさせない。一方、必要なければすぐにエンジンを止め、電気モーターだけでの走行に切り替わるのは他のハイブリッドと一緒で、街中では静かに、滑らかに走らせることができる。この二面性が、今の時代には嬉しい。

高級な素材を高い技術を用いて成形した完成度の高いインテリア。そのクオリティは驚くほど上質だ。シートは、コンバーチブルとクーペのLパッケージが革表皮、クーペの標準モデルとSパッケージがアルカンターラと革のコンビといったように、モデルによって素材が使い分けられている。クーペの後席は大人が十分座れるだけの空間を持つ。

コンバーチブルには脱着式のウインド・ディフレクターが備わる。


乗り手を昂揚させる

続いてLC500コンバーチブルのドライバーズ・シートへ。クローズ状態の快適性の高さも触れておきたいところではあるが、この日は晴天ということで、走り出したらさっさとオープンにしてしまった。このクルマには、そんな風に乗り手を昂揚させる何かが宿っているのだ。

ボディの剛性感は凄まじいというほどではないが、イヤな振動などは無く乗り心地も上々で全体のバランスが高い次元で取れている。ステアリングフィールの良さも、そうした印象に繋がっているポイント。こちらはLDHのようなアイテムは備わらないが、素直で軽やかなフットワークは速度域を問わず心地よい。

リア・デッキが高いため、幌は天地が薄く、とてもコンパクト。色は黒も選べる。

可変式のリア・スポイラーはSパッケージの専用装備。


そしてこのクルマのハイライトはなんと言ってもエンジンだ。V型8気筒5.0リッター自然吸気ユニットの、回転上昇に合わせて心地よく盛り上がるパワーとトルク、そしてサウンドは、まさに天にも登るような気持ちにさせてくれる。

実はこのエンジン・サウンドは、オープン時の特性に合わせてチューニングし直されているのだという。回し切るのも快感だが、アクセルを踏んだり離したりという普段使いでも愉悦あふれるクルマなのだ。

クーペでもコンバーチブルでも、レクサスLCは紛うかたなきGTである。その観点で言えば、ラゲッジスペースが旅行用トランクを収めるにはやや小さいのが不満としてもたげてくるのだが、あまり計画を立てた旅行よりは、思い立ったらボストンバッグひとつでふらり走り出して、目的地など決めないまま気づけば遠くまで……みたいな旅がこのクルマには合っているというか、自然にそんな旅になりそうな気もする。あるいは、そうして旅への想像を掻き立てるだけでも、LCは立派なGTだということなのかもしれない。



■レクサスLC500h Sパッケージ
駆動方式 フロント縦置きエンジン+モーター後輪駆動
全長×全幅×全高 4770×1920×1345mm
ホイールベース 2870mm
トレッド 前/後 1630/1635mm
車検証記載車両重量 2010kg
エンジン形式 V型6気筒DOHC24V直接+間接噴射
総排気量 3456cc
ボア×ストローク 94.0×83.0mm
エンジン最高出力(モーター/システム総合) 299ps/6600rpm(180ps/359ps)
エンジン最大トルク(モーター) 356Nm/5100rpm(300Nm)
変速機 4段AT
サスペンション形式 前後 マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/40RF21 96Y/275/35RF21 99Y
車両価格(税込) 1500万円

■レクサスLC500コンバーチブル
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4770×1920×1350mm
ホイールベース 2870mm
トレッド 前/後 1630/1635mm
車検証記載車両重量 2050kg
エンジン形式 V型8気筒DOHC32V直接+間接噴射
総排気量 4968cc
ボア×ストローク 94.0×89.5mm
エンジン最高出力(モーター/システム総合) 477ps/7100rpm
エンジン最大トルク(モーター) 540Nm/4800rpm
変速機 10段AT
サスペンション形式 前後 マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/45RF20 99Y/275/40RF20 102Y
車両価格(税込) 1500万円

文=島下泰久 写真=郡 大二郎

(ENGINE2021年6月号)

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