2021.07.04

LIFESTYLE

いま憧れの山小屋暮らし! たった37平方メートルなのに、なぜこんなに魅力的なのか? 建築家が自分のために立てたフィアット・パンダみたいな家とは

建築家の鹿嶌信哉さんと佐藤文さんが森に建てた「森の小屋」

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キャンプの延長

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「パンダは小さなクルマですが後ろのシートを外せるので、キャンプ道具一式と二匹の犬を乗せる余裕があるんです」と、鹿嶌さんが話せば、佐藤さんも「初めてキャンプ場に行った時も小さなパンダだったので、段取りの良いキャンプの達人と間違えられました。周りを見ると、皆さん本格的な道具を沢山積んで、大きなSUVで来ているんです」と、パンダとキャンプのエピソードは尽きない。

ところが二人は、何度もキャンプを体験しているうちに大きな問題につきあたる。週末の2日間だけだと、テントを張ったり片付けたりすることに多くの時間がとられてしまい、ゆっくり過ごす時間が限られるのだ。こうしたことから次第にキャンプから遠ざかっていったが、素敵な代替案を思いつく。自然溢れる場所に、自分たちの小屋を持てばよいのだと。それならキャンプより手間がかからず、別荘ほど贅沢でもない。

幸い、相応しい約1000平方メートルの土地が軽井沢の奥に見つかった。隣家との距離もあり、北側の広大な森は鳥獣保護区に指定された国有地。将来建物が建つ可能性はない。敷地の前の道は舗装されておらず、クアトロポルテだと底を擦ってしまうほどの凸凹道だが、交通量は限られている。水道を引く必要があるのは負担だが、電気が通じているうえ、2、300mしか離れていない綺麗に区画整備された別荘地と比べ、随分と手頃な価格も魅力だ。小屋に相応しい土地である。

早速この土地を手に入れ、佐藤さんが中心に設計を行った。その際役に立ったのが、キャンプでの経験だ。テントは地形などを考慮して張る必要がある。下手をすると、雨水の通り道に建ててしまう。整備された土地ではなく森に建てるのだ。そうした面まで考えないといけない。

ところでこの小屋は、これまでの二人の建築スタイルと少し異なるものである。聞けば、「クライアント仕事ではできない建築に挑戦してみた」と言う。なるほど、設計者の創造性が発揮された建物なのだ。間取りは自宅と同じような、大人二人と二匹の犬が暮らしやすい大きなワンルーム。土地の高低に合わせ、半屋外のテラス、広間、ベッドルームと床の高さを変えており、屋根もそれに合わせて3方向に流れている。ポイントは、広間の南と東に設けられた窓。通りから内部が見えないよう下端の高さを工夫しつつ、天井まで続く大きなものだ。お陰で季節の変化を存分に感じられる建物となった。

北側の窓は、背後の森の景色を切り取るように設けられている。

コンロはキャンプ用

一見素敵な別荘のようだが、仕上げや暮らし方はここが小屋だと強く感じる。例えば、床や壁に貼られた木材は、ネットで探した相当に手頃なもの。広間の設備も最小限で、小さなキッチンと作り付けのベンチ、薪ストーブがあるだけ。コンロはキャンプで使っていたカートリッジ式のものを引き続き使用している。理由は、「キャンプの延長だからこれで十分なんです。東京で暮らしている時ほど、凝った料理はしませんから」。なるほど、である。

テント代わりの小屋だ。テレビが無いのは勿論、来客用の部屋も無いが、宿泊客のケアーも不要である。普段は二人してテラスで本を読んだり、犬を連れて付近を散歩し、時にはパン屋や雑貨屋を覗いたりと、ゆっくりした時間を楽しんでいる。ここで仕事をするなんてもっての他だ。

二人は隔週でこの小屋に通っている。キャンプの時と違って、パンダに載せる荷物はミニマム。金曜の仕事を終えたら、高速道路をのんびり走っていく。この小さく古いクルマを見つけ、サービスエリアでニコニコしながら声を掛けてくる人もいるとか。そんな鹿嶌さんと佐藤さんのシンプルな小屋の暮らしは、なんて豊かなんだと思った。

文=ジョースズキ 写真=山下亮一
構造:木造 規模:1階+ロフト 敷地面積:992.31平方メートル 延床面積:51.54平方メートル うち室内面積:36.63平方メートル 竣工年:2020年 所在地:長野県北佐久郡 設計:K+S アーキテクツ https://ksarchitects.jp
構造:木造 規模:1階+ロフト 敷地面積:992.31平方メートル 延床面積:51.54平方メートル うち室内面積:36.63平方メートル 竣工年:2020年 所在地:長野県北佐久郡 設計:K+S アーキテクツ https://ksarchitects.jp

■建築家:佐藤文 1961年群馬県生まれ。日本大学卒業後、早川邦彦、芦原義信の事務所を経て、公私ともにパートナーである鹿嶌信哉(1959年愛知県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、芦原事務所に勤務)と共同で建築事務所を設立。住宅、別荘だけでなく、病院、児童養護施設なども数多く手掛ける。二人のライフスタイルから犬、イタリア車好きのクライアントも多い。

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(ENGINE2021年6月号)

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