2021.06.26

LIFESTYLE

大物ロック・バンドはなぜブルースをカヴァーするのか? ザ・ブラック・キーズ『デルタ・クリーム』を聴く

ロック史においてブルースのカヴァーは数えきれないほどあるが、アルバム丸ごととなると意外に少ない。比較的容易に自分流アレンジを施せるポップやオールドロックのカヴァーと違い、ブルースとなると演奏する側の深い理解と表現力が絶対的に必要で、しかしそのわりに商品需要が高いわけでもない故、レコード会社が二の足を踏むことも多いのだろう。が、それでもやらずにいられず、そして見事に傑作を生みだした例もある。ザ・ローリング・ストーンズは4年半前、キャリア54年目にして初の全編カヴァー作品『ブルー&ロンサム』を発表。リトル・ウォルターら多大な影響を受けたブルースマンの曲を取り上げることで、ミック・ジャガーのヴォーカルもいつにも増して生々しく衝動的になっていたものだ。その10年以上前にはエアロスミスの『ホンキン・オン・ボーボゥ』もあった。すっかりポップなイメージのついていた彼らが、ブルースのカヴァーで原点回帰を図った強力な作品だった。

THE ROLLING STONES / BLUE & LONESOME ストーンズの2016年発表作。ブルースやR&Bのコピーバンドとしてスタートした彼らだが、丸ごと1枚でブルース曲をカヴァーしたのはこれが初めて。リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフ、マジック・サムらの曲から、ミックの歌声の生々しさとブルース・ハープの凄さが迫ってくる。(当時)平均72歳にして初期衝動が漲る傑作。(ユニバーサル ミュージック)

AEROSMITH / HONKIN’ ON BOBO エアロスミスが2004年に発表したカヴァーアルバム。ボ・ディドリー、マディ・ウォーターズ、フレッド・マクダウェルらのブルース曲を中心にしつつ、アレサ・フランクリンが歌った曲なども取り上げているが、彼らっぽいブルース・ロックが芯を貫き、熱さとヒリヒリする感覚が同居。70年代に彼らが有していた荒々しさが、いい塩梅に復活していた。(ソニー・ミュージックレーベルズ)

ザ・ブラック・キーズの新作『デルタ・クリーム』もまた、自分たちのルーツであるブルースに敬意を表した作品であることは間違いない。ただし彼らは広く知られたブルースマンの曲を取り上げるのではなく、ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースだけを取り上げている。ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースとは、USミシシッピ州北部の丘陵地帯であるヒル・カントリーに出現したブルースのことで、コード・チェンジがほとんどなされず、それによって呪術的な催眠効果を生むようなグルーヴが常に醸し出されているディープな音楽。とりわけ重要なのが今は亡きR.L.バーンサイドとジュニア・キンブロウというブルースマンで、『デルタ・クリーム』でカヴァーしているのも大半がこのふたりの曲なのだが、ザ・ブラック・キーズはインディーズ時代の3作でもこのふたりの曲をカヴァーしていて、つまり文字通りこれは彼らの原点回帰作となるわけだ。

今作は約10時間で録音して仕上げたというスタジオライブ作。凝ったアレンジで音を重ね、洗練された大人の余裕あるロック盤でグラミー賞も獲得するなどしてきたデュオだが、その反動からか、いまこのタイミングで初期衝動を呼び起こし、もっと大人げなく、猥雑さもある原初的なブルース・ロックを鳴らしたくなったのだろう、きっと。故に本能的で、生々しく、魔術的なグルーヴがクセになるアルバム。最高だ。

THE BLACK KEYS / DELTA KREAM 米オハイオ州アクロン出身のロック・デュオ、ザ・ブラック・キーズの10作目は、全編ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースのカヴァー。前作『レッツ・ロック』のツアーを終えた3週間後に、ヴォーカル&ギターのダン・オーバックの所有するスタジオで、わずか10時間で録音された。緻密なアレンジでモダナイズされたノンサッチ・レコードでのこれまでの作品群とは明らかに違う、妖しくて魔術的なグルーヴに引きずり込まれる。(ワーナーミュージック)

(ENGINE2021年7月号)

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文=内本順一(音楽ライター)

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