2021.07.25

CARS

納車待ちの理由は半導体不足だけではなかった! 新型ホンダ・ヴェゼルのデキやいかに

フィット・ベースのSUVとして人気を博すヴェゼルがフルモデルチェンジ。ヒットした先代のイメージを残すことなく、内外装のデザインを一新し、上質な都会派へと生まれ変わった新型の中から、売れ筋のハイブリッド・モデルに試乗した。

浮いた開発費の使い道

新型ヴェゼルは昨年発売された最新のフィットと同様に、土台となるセンタータンク・プラットフォームの基本設計を先代から受け継いでいる。フィットやヴェゼルのような大量販車種でプラットフォームを2世代続けて使う例は、良くも悪くも「会社をだましてでも最高のものをつくりたい!?」という思考のエンジニアが多いホンダではめずらしい。 しかし、昨年のフィットも今回のヴェゼルも、その開発責任者は「あえてそうした」と語る。「プラットフォームの新開発を回避したことで浮いたコストは、そのままケチるのではなく、ほかの部分に手厚く投入することに使った」というのだ。



実際、新型ヴェゼルでは、プラットフォームにまつわる以外の部分はことごとく新しい。その最たるものはパワートレインだ。主力の1・5ℓハイブリッドは先代とは別物の「e:HEV」となった。フィットにも使われているe:HEVはフルパワー時を含めた大半で純粋なモーター駆動(低負荷での高速巡航時のみエンジン直結駆動)となる電動感の強いシステムで、先代と比較すると滑らかさと静かさは圧倒的だ。また、今回は純エンジン仕様を1グレードだけ残しているが、その1・5ℓエンジンも静粛性などのために、あえてポート噴射で新開発したものだという。

内外装もまったく新しい。先代のエクステリアは室内の広さを強調するモノスペース風だったが、新型は一転して独立したボンネットを強調したクルマらしいプロポーションになった。先代ではタッチパネルや巨大センターコンソールを売りとしたインテリアも、新型はある意味でオーソドックスな意匠となった。

さらに、特徴的なフロント・グリルルーバーは実際には別体部品なのだが、今回のようにバンパーと一体に見せるには高い精度が必要という。余計なプレスラインをなくしたスタイリングはパネル合わせのアラが目立ちやすく、生産技術では先代以上に手間がかかっているそうだ。

インテリア・デザインもタッチパネルや巨大センターコンソールを売りにした先代とは一転して、オーソドックスなものとなった。ただし、各部の質感は高まっている。

もともと定評のあった室内空間の基本設計は先代のままだが、リア・シートの厚みや着座姿勢、トランクの使い勝手を見直したことで、寸法的には少しずつ狭くなっている。それでもBセグメントSUVとして見れば、いまだに断トツに広い。



丁寧なつくりこみ

このように、あえてプラットフォームを継続した新型ヴェゼルは内外装の丁寧なつくりこみに加えて、走りもまさに熟成の味というほかない。静粛性はクラス屈指のレベルに達しているし、サスペンションやステアリング系、ハブまわりなどのフリクション・ロスを徹底排除したことで、ステアリングの手応えはスッキリさわやか、乗り心地はお世辞ぬきに快適である。大きくうねる路面でも姿勢変化は少なくフラット姿勢が保たれるのに、荷重移動やステアリング操作に応じて、しっとりとした接地感をリアルに伝えてくるのだ。

同時にe:HEVはわずかなアクセル操作にも正確に追従するので、ブレーキ・ペダル操作も最低限で済む。新型ヴェゼルは同乗者に優しい運転もやりやすい。かつてのホンダの走りといえば「俊敏で正確」を身上としてきた印象があるが、新型ヴェゼル担当を含めた最近のホンダ性能開発チームの話を聞いていると、一番に「接地感」や「安心感」といったキーワードが出てくるようになった。



たとえば最近のトヨタは未来を見据えた新開発プラットフォーム戦略で、どれも大幅な軽量化を実現している。それはそれで素晴らしいことだが、今この瞬間に、よりイイモノ感にあふれているのはどちらか……というと、ヴェゼルやフィットに軍配を上げたくなるのも本当だ。



新型ヴェゼルの売れ筋はおそらくFFになるだろうが、じつは新型ヴェゼルは4WDも自慢である。ヴェゼルの4WDは小型ハイブリッド用としてはめずらしく、プロペラシャフトと電子油圧多板クラッチを使った本格派である。「ホンダの4WDは今ひとつ」という昔ながらの風評を覆すべく開発された自信作だそうで、ウデに覚えがあれば、雪道でのドリフト走行が自由自在とか……。

さすが先代でも長らくベストセラーだったヴェゼルだけに、その中身をじっくり熟成させた新型の商品力はスキなしというほかない。そんな新型ヴェゼルは昨今の半導体不足もあって、今オーダーしても半年~1年待ち状態らしい。クルマのデキを見るに、供給体制が改善されたら、そのぶん人気に拍車がかかって結局は争奪戦がしばらく続くかも……という気がしないでもない。

■ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4330×1790×1590㎜
ホイールベース 2610㎜
トレッド(前/後) 1535/1540㎜
車両重量(前後軸重配分) 1380㎏(前軸850㎏/後軸530㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V+モーター
総排気量 1496cc
ボア×ストローク 73.0×89.4㎜
エンジン最高出力(モーター) 106ps/6000-6400rpm(131ps/4000-8000rpm)
エンジン最大トルク(モーター) 127Nm/4500-5000rpm(253Nm/0-3500rpm)
変速機 1段固定
サスペンション形式(前/後) ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前後) 225/50R18 95V
車両価格(税込) 289万8500円

文=佐野弘宗 写真=宮門秀行

(ENGINE2021年8月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement