2023.02.12

CARS

所有したクルマは200台以上! 1959年型のロータス・エリートを終のクルマとする79歳のカーガイの「ひとの3倍働いて、ひとの2倍好きなことをする」という言葉、すごいです!

1959年型のロータス・エリートとミニ・クラブマンと中山さん。

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5台乗ると理解できる

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A4用紙2枚にわたって細かな字で丁寧に書かれた彼の車歴リストは、ほぼこの半世紀の、いわばクルマ黄金時代の名車リストだった。フェラーリは308がGTB2台とGTS、さらに328と合わせて計4台。ポルシェは356BとE、T、Sのナロー3台に、3.0カレラに964カレラRSに914/6と928の8台。ランチアがベータとフルヴィア、さらにデルタの3台。ルノーが5 ターボII をはじめ6台。アルファ・ロメオがモントリオールやSZ(E.S.30)、スッド・スプリントにジュリア・クーペ3台などを含む9台。そのほかアルピーヌA110にプジョー205GTIに……スポーツカーにラリーカー、スポーツ・セダンにホットハッチとなんでもござれ。あのクルマはこの時に、このクルマはそのイベントで、そっちのクルマはどこそこの知人に譲って……と、次々と当時のエピソードが溢れ出てくる。中山さんと話していると、時間を忘れてしまう。なお国産車の数も膨大で、ホンダがSをはじめ12台、日産がスカイライン2000GTBをはじめ9台……と、これまたきりがない。比較的縁遠かったのはアメリカ車くらいで、日独英伊仏の名車だらけだ。

レンガ敷きのガレージのフロアには、収める車両に合わせてグリッドがマーキングされていた。取材当日エリートの横に並んでいたのは2代目ニュー・ミニがベースのクラブマン。フロント・グリルにはかつて所有していたオリジナル・ミニに付けていたBMCのバッジを装着。

「だいたい5台乗ると、そのブランドのことが理解できるんですよ」

趣味のクルマだけで約150台。仕事のクルマや家族のクルマとして手に入れたものを合わせれば、その数は200台を超える。はじめての2台持ちは? と尋ねると「営業車と趣味車としてのメルセデス・ベンツ190Eの2.3-16Vと2.5Dだったかな。それともゴルフIのGTIとディーゼルだったかな……営業車だから経済性重視で、スズキ・アルトと比較していたから驚かれた」と笑みを見せる。

中山さんがすごいのは、人生の節目ごとに“このクルマは必ず手に入れる”と目標を立てて、それをきっちり実現してきたことだ。35歳で独立して事業をはじめてからは5年、10年おきにターゲットを定めた。「50歳になったらフェラーリ」。「そのときアシに使うのはメルセデス・ベンツ」。「60歳になったらベンツをジャガーにする」。掲げた目標は、すべて叶えられた。ターゲットは、クルマだけに留まらない。家具にこだわり、時計にもこだわった。そして一番多い時で11台にもなった愛車たちのために、55歳で自宅と別のセカンド・ガレージまで完成させた。

運命の1台

中山さんにとってエリートが自ら心に決めていた1台だったとすれば、写真を見ることもなく購入を決めたディーノ246GTは、運命の1台だったという。ご子息が若くしてこの世を去った時、悲しみに暮れた中山さんはフェラーリの創業者エンツォが愛息アルフレディーノを亡くしたのが、奇しくも自分と同じ歳だったことを知った。息子が好きだった黄色の外装色も決め手になった。ディーノを手に入れ、自らを奮起させた。そして60歳で現在のガレージ・ハウスが完成。75歳でついにエリートもやって来た。



現在の愛車は仕事用も合わせて7台と、年齢も考えて少しずつ減らしているが、少しでも縁があるとすぐいなくなってしまうという。中山さんのガレージに収まるクルマはどれもコレクターズ・アイテムのような扱いはされてはいない。けれど、どれも目一杯元気に走っていて、しかも徹底的にメンテナンスを施されているから、欲しい人はすぐに現れる。クルマの記録はすべて自筆の細かなメモとともに保管され、履歴も明白だから申し分ない。程度極上のジャガーXタイプなど、手に入れてまだ間もないのにお声がかかり「もう少し乗らせて」と苦笑いする。また、比較的中山さんのクルマは地元九州に嫁ぐことが多いという。縁あって受け継いだ人と、気軽にまた会いたいからだ。取材当日も彼を慕う、来春学校を卒業し、医師になるという若者がやって来た。エランS2に乗りたいと話す彼に、中山さんはまるで少年のような顔つきになって、はっぱをかけている。

「僕は念じていれば必ず叶うと思ってやってきた。普通のひとの3倍働いて、その代わり、ひとの2倍好きなことをしてきた。友人知人家族に女房、みんなに良くしてもらって、もう未練はないよ。でも強いて言えば世界一好きな、フェラーリ250GTのSWBだったら欲しいかな(笑)」

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=阿部昌也

(ENGINE2022年2・3月合併号)
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