2022.03.15

CARS

40代後半になってベンツに呼ばれた! 俳優の光石研さんが一度はあきらめながら再会した運命のクルマとは


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初めてのガイシャ、初めての左ハンドル、初めての東京での運転と、初めてづくしだったけれど、アマゾンの運転はとても楽しかったという。

「世田谷通りなんかをゆったり走ってますとね、なんか『アメリカン・グラフィティ』の登場人物になったような気がしまして(笑)」

アメリカ車には手を出さなかった光石さんだが、フィンテールの刷り込みはあったようだ。

「ファッション誌で活躍するイラストレーターが、メルセデス・ベンツのW111型に乗っていたのを知り、カッコイイなあと思いました。そうしたら、偶然そのクルマを東京・青山の骨董通りで見たんです。うわぁ! このクルマだ! って」

1959年にデビューしたメルセデス・ベンツW111型は、アメリカ車の影響を受けて、リア・エンドが小さなフィンテールになっている。日本ではそれを羽根にたとえて“ハネベン”と呼んでいた。

「ハネベン、カッコイイとずっと思ってました。いつかはベンツと思った理由はもうひとつあります。自動車評論家、徳大寺有恒さんの“ベンツはスゴイんです。世界中にディーラーがあって、パーツがなくなるということがない”という記事を読んだんです。そうなんだ、やっぱりベンツを買えば何の心配もいらないんだと思いました」

ジャケット¥152,900、ニット¥86,900、シューズ 参考商品/全てポロ ラルフ ローレン(ラルフ ローレン Tel:0120-3274-20)パンツ¥77,000/アナトミカ(アナトミカ TOKYO Tel:03-5823-6186)

クルマに呼ばれた

40代後半になり、ついにメルセデス・ベンツを購入する。

「それがハネベンじゃなくて、W114型です。メルセデス・ベンツ250。4ドア・セダンでオートマ、パワステ、エアコンが付いていて安かった。便利そうだなと」

すると、光石さんがハネベンを探していることを知る俳優仲間から、W110型を見つけたという連絡があった。

「W114型を買ったばかりでしたからね。タイミングが合わなかったと諦めたんです」

W114の調子が悪くなり、次のクルマをどうしようかと考えていたころ、『カー・マガジン』でW110型メルセデス・ベンツを見つけ、ショップに駆け付けたという。すると、そこにあったW110型は、以前連絡があった個体そのものだった。

「縁を感じました。クルマに呼ばれたというか、僕を待っていてくれた気がして。買います! と」

念願のハネベン、メルセデス・ベンツ190を手に入れた光石さん、それはもう嬉しかったという。

「ところが、そこからはイバラの道でした(笑)。エンジン下ろして、ピストン交換して……。最初の5年は本当に大変でした。快適に乗りたい、仕事にも使いたいと思ってましたから、コツコツ直し続けることが出来ました。でも、直せるってことは、徳大寺さんのおっしゃる通り、パーツがあるってことですから、ベンツはスゴイですね」

普段使いのためにキャブではなく、インジェクションに交換したり、エアコンのコンプレッサーを国産のものに替えたりした。

そこまでしても乗り続ける魅力はなんですか?「仕事が終わって、このクルマで自宅に帰る時間が好きなんです。僕の仕事って虚構というか、フィクションの世界じゃないですか。このクルマは、そこから現実世界に戻してくれる機械のような気がするんです。マニュアル・シフトをガチャガチャやりながら、自分のリズムで運転していると、役から離れて自分自身に戻れる気がする。たまに女房のクルマでピュッと帰ってきちゃうと、味気ないなあと感じます」

ちょっと手間のかかるクルマで帰る方が、現実に戻れるという光石さん。北九州・八幡の道路で“クルマ! クルマ!”と叫んでいた子供の頃の気持ちになれるのかもしれない。

「クルマにこんなにこだわって。いやあ、オトコの子って本当にバカチンですね(笑)」

照れくさそうに笑う光石さんだが、こだわり続けるからこそ、スタイルが生まれるのだ。光石さんと時間を過ごしてそう思った。

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文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=筒井義昭 スタイリング=上野健太郎 ヘアメイク=山田久美子

光石 研 1961年福岡県生まれ。1978年、映画『博多っ子純情』で主演デビュー。これまで映画、TVドラマ、舞台、CMなど数えきれないほどの作品で活躍し、多様なキャラクターを演じられる名バイプレイヤーの一人として存在感を示している。2016年、第37回ヨコハマ映画祭『お盆の弟』『恋人たち』で助演男優賞、2019年、第15回コンフィデンスアワード・ドラマ賞『デザイナー 渋井直人の休日』で主演男優賞、同年、北九州市民文化賞などを受賞。現在パルコ出版より初のエッセイ集『SOUND TRACK』が発売中。

光石研 1961年福岡県生まれ。1978年、映画『博多っ子純情』で主演デビュー。これまで映画、TVドラマ、舞台、CMなど数えきれないほどの作品で活躍し、多様なキャラクターを演じられる名バイプレイヤーの一人として存在感を示している。2016年、第37回ヨコハマ映画祭『お盆の弟』『恋人たち』で助演男優賞、2019年、第15回コンフィデンスアワード・ドラマ賞『デザイナー 渋井直人の休日』で主演男優賞、同年、北九州市民文化賞などを受賞。現在パルコ出版より初のエッセイ集『SOUND TRACK』が発売中。


光石研著『SOUND TRACK』1700円+税(PARCO出版) 光石さんが波乱万丈の半生を綴った初のエッセイ集。ファッションや仕事、自身のライフスタイルについて、故郷での幼少時代、暗黒の学生時代など、軽やかな語り口で書き下ろした人生のサウンドトラックです。

(ENGINE2022年4月号)

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