2022.08.30

LIFESTYLE

90歳の今も現役! 世界的美術家、伊藤公象の不思議な造形美に魅せられて

『pearl blueの襞-空へ・ソラから』2016.9 撮影:堀江ゆうこ、会場:穂積家住宅(高萩)

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土を素材とした陶工芸作品で世界的に評価される伊藤公象。今年、90歳の誕生日を迎えた彼が、50年間にわたるインスタレーションをまとめた作品集を発表した。

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まるで未知の生命体のよう……

中庭に置かれていたのは、何十枚もの紙をぐにゃりと曲げたような青と白のオブジェ。光を受けて反射する姿は、まるで未知の生命体のようだ。さらに屋内の階段には、海洋生物にも、耳たぶのようにも見える無数の小さな物体が……。

東京・駒込のギャラリー「ときの忘れもの」で6月上旬に開催されていた『伊藤公象作品集刊行記念展―ソラリスの襞』。会場に足を踏み入れた途端、筆者が初めて目にする、不思議な造形美の世界に魅せられた。

現在90歳の伊藤氏は、土を素材とした陶工芸作品で世界的に評価される美術家。1970年代より茨城県笠間市を拠点に創作活動を行ってきたが、このほどその集大成となる作品集を、
ときの忘れものより刊行した。



10代の頃に九谷焼の名工のもとで修業を積んだ伊藤氏が美術家として目指したのは、人の手による作為をできる限り排した作品づくりである。茶碗や花瓶といった、人為的な形を意識的に作るのではなく、偶然から生まれる造形を一貫して追求してきた。

偶然性から生まれる陶工芸作品

その起点となったのが、1974年に1作目を発表した『多軟面体』シリーズである。薄くスライスした粘土を即興的に手で丸めて焼成したもので、偶然性を生かしたかつてない陶工芸作品として、大きな反響を呼んだ。その後も、凍らせた土に生じた亀裂を残したり、乾燥させた土の収縮を意匠に採り込んだりするなど、自然界のエネルギーを感じさせる、有機的な作品を発表しつづけてきた。



今回の作品集では、1972年から現在にいたるまでの貴重なインスタレーションが網羅されている。最新のものは、茨城県水戸市のギャラリー「ARTS ISOZAKI」で昨年から今年にかけて展示された『回帰記憶』。自身のアトリエにあった半世紀分の資料をシュレッダーにかけ、その紙片を土に練り込んで焼き上げたという、まったく新しい試みの作品である。

卒寿を超えて、今なお創作意欲を燃やし続ける美術家、伊藤公象。その半世紀に及ぶ軌跡を本書でたどりたい。



文=永野正雄(ENGINE編集部) 写真提供=ときの忘れもの

(ENGINE2022年9・10月号)

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