コーナーが楽しいATのデキに驚く続いて青い方、セイランブルーとスーパーブラックのツートーンで塗られた9段ATのモデルに乗る。グレードは同じバージョンSTなので、装備やハードウェアはほぼ共通。実は価格まで一緒である。車重はMTより30kg重いが、ギア比が細かく刻まれているので加速感はむしろ上かもしれない。変速はダイレクトでスムーズ。GT-Rから流用したシフト・パドルも備わるが、Dレンジのままでも十分にリズミカルな走りを楽しめる。
コーナリングに大きな差は無いだろうと思っていたが、実際には進入時、MTで気になったひょこひょことした上下動が感じられず、姿勢がぴたっと落ち着いていた。フロントがやや重いからなのか、それとも例のパワートレインの揺動が小さいのか。いずれにしても、こちらの方が更に操りやすいのは確かだ。元々好きだし、この時代にせっかく設定してくれたのだから、選ぶなら断然MTだと思っていたが、このATの完成度の前では心が揺らぐ。そもそもZは目を吊り上げてコーナーに挑むようなクルマじゃないと考えれば尚の事である。
実際、流れに乗るようなペースで走らせている時の新型Zは、直進安定性が高く、タイヤや路面の状況を的確に伝えてくる良好なステアリング・フィールも相まって、ゆっくり走らせても心地よい充足感に浸ることができる。つまりグランツーリスモとしての完成度も高い。ダンスパートナーといってもハレの日だけでなく、日常の何気ない瞬間にも息を合わせ、クルマと自分をシンクロさせて楽しめる相手である。その辺りも含めて、新しいZは、まさにZらしく進化を遂げたと言っていい。新型フェアレディZは、初代以降の歴代Zの、あるいはこれまでの長い日産車の走りやデザイン、あるいはタッチといったエッセンスがギュッと濃縮されたクルマである。クルマは今、電動化も含めて大きな変化の時期にあるが、そういう今だからこそアイデンティティを再確認しておくことは、メーカーにとって悪いことではないはずだ。そして、それは乗り手にとっても同じである。新しいZは走らせてはもちろん、眺めても、あるいは歴史や伝統に思いを馳せても、クルマのピュアな歓びに浸らせてくれる1台だ。語りたいことが多すぎて、つい饒舌になってしまう。こんなクルマを今の時代に出してくれた日産には、もう感謝しかない!文=島下泰久 写真=神村 聖
■日産フェアレディZバージョンST駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動全長×全幅×全高 4380×1845×1315mmホイールベース 2550mm車両重量 1590kg(6段MT)エンジン形式 V型6気筒ツインターボ総排気量 2997cc最高出力 405ps/6400rpm最大トルク 475Nm/1600~5600rpm変速機 6段MTサスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイルサスペンション 後 マルチリンク/コイルブレーキ 通気冷却式ディスクタイヤ 前/後 255/40R19 275/35R19車両本体価格 646万2500円(6MT、9AT同額)(ENGINE2022年11月号)
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