アイコニックなかつてのモデルをオマージュしつつ現代の技術で蘇らせるフェラーリの限定モデル、イコナ・シリーズ。第一弾のSP1&SP2モンツァに続くデイトナSP3に、ベルギーのゾルダー・サーキットとその周辺で試乗。モータージャーナリストの大谷達也がリポートする。
深い喜びと重圧に思わず絶叫!「ウワーーーーッ!」ありったけの大声で、そう叫びたくなる気分だった。世界でたった599台が限定生産されるフェラーリ・スペチアーレ、その名もデイトナSP3のステアリングが私の手に託されたのである。ベルギーの公道で、お目付役もなく、2時間ほどのドライブを自由に楽しんでいいという。自動車メディアの仕事を始めて30年以上になるが、これほど深い喜びと重圧を同時に味わったことは、いままでなかった。
デイトナSP3は、フェラーリの歴史と未来がギッシリと詰まったスーパー・スポーツカーだ。“デイトナ”の名は、330P3/4、330P4、412Pの3台が1-2-3フィニッシュを果たした1967年のデイトナ24時間レースに由来している。この栄冠は、フェラーリ・スポーツプロトタイプカーレースの歴史でも頂点に位置するものの1つ。さらにいえば、この3台は「レーシングカー史上もっとも美しい」とたびたび評価されてきたことでも知られる名作中の名作。そうした栄冠と美しさを、現代の技術で甦らせたのがデイトナSP3といっても過言ではなかろう。まずはそのスタイリングをご覧いただきたい。前後のフェンダーが描く曲線は、まさに1960年代のスポーツプロトタイプカーを彷彿させるもの。ジェット戦闘機のキャノピーを思い起こさせるフロントウィンドウ周りの造形も、当時のレーシングカーには欠かせなかったものだ。カーボンモノコックにV12エンジンをミドシップする基本構成はラ・フェラーリと共通だが、興味深いのはラ・フェラーリに搭載されていたプラグインハイブリッド・システムをデイトナSP3ではごっそりと下ろし、代わりに自然吸気式V12エンジンを積んだ点にある。いまどき、わざわざハイブリッドを取り外して純NAエンジンに積み替える自動車メーカーが、いったいどこにあるだろうか?しかも、F140HCと名付けられたこのエンジンは、フェラーリ・ロードカー史上最強の840psを生み出す。つまり、フェラーリはデイトナSP3のためにお手軽なローテク・エンジンを選んだのではなく、精緻なテクノロジーで常識という名の壁を打ち破ったのだ。

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