2023.01.01

LIFESTYLE

家が森になる!? 石神井公園の湖畔に建つ遺跡のような家のヒミツ 建築家が考えた奇跡のプランターハウスとは

大小アーチが連なる外観。アーチの一番下の部分から、雨水が地面に落ちる構造。

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鳥や虫が集まる家を

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地面に沁みこんだ雨が石神井公園の池に流れこみ、蒸発して、また雨となり……。この地で長く暮らした鶴岡さんは、敷地周辺の自然環境を武田さんに説明した。そのうえで、屋上を庭にして鳥や虫が集まるようにして欲しいと依頼する。また、イタリア建築に多くみられる、ドーム型の天井も希望した。

武田さんは要望に対し、大きさの違う蒲鉾型の天井を作ることで対応。しかもすべて池の方に向かうように配し、中に居る人の視線を眺めの良い公園に誘うよう設計した。



さらに、2階のバルコニーと3階の屋上は、植物を植えるために土を盛ることができる構造に。土の深さはアーチの大きさにより2cmから90cm。この深さと植物の根のサイズ・形を勘案し、植栽計画は作られた。土に沁み込んだ雨水は、アーチの一番下の部分を通り抜けて、地面に落ちる仕組みに。専門家の手を借り、雨水の流れや日当たり、風を考慮し、散水の必要がないよう植物は植えられた(ただし剪定などの多少の手入れは不可欠)。植物は通りからの目隠しになるだけでなく、花が咲いて人々の目を楽しませ、鳥の好きな実をつけるものも多い。見ていて豊かな気持ちになるものだ。

蒲鉾型の天井は、コンクリート製。多くの歳月が流れたようなワイルドな表情は、コンクリートが乾く前に洗って仕上げて作った。ただでさえ重い土の詰まった屋根は、雨が降ると水を含んでさらに重くなる。その屋根を支える赤い柱は随分と細いが、無垢の鉄なのでこれで十分。中空の柱では、錆びると強度が落ちるので使えないそうだ。



かつて建築事務所で働いていた時期、大きなオフィスビルの設計に関わっていた武田さん。コンピューター制御の温度管理を疑問に感じていた。その回答のひとつが、この家である。土が詰まった屋根のお蔭で、家は洞窟の中のよう。ほとんど外気の影響を受けないので、夏でも冷房は最小限で済む。冬も床暖房だけで十分。古い遺跡のような建物でありながら、エネルギー効率の良い、環境まで考えられたデザインなのだ。

幸せも連鎖する家に

さて、この家に関わって、予想外のことが幾つも起こった。まずは設計途中で、鶴岡さんから自分の代わりに1階に住んでもらえないかと、武田さんは打診される。家庭環境の変化もあり、遠く離れた町で暮らすのだという。独立して日の浅い武田さんは不安を感じながらも、それまで別々だった自宅と事務所を建物の1階に移した(2階は鶴岡さんのお姉さんが使用)。

植物の成長の速さも予想外だった。土を敷いただけの屋上は、僅かな期間で植物に覆われた。しかも鳥や虫、風が運んでくる種で、人間が最初に計画したのとは違う植物が生え始め、家の向かいの石畳の隙間にまで植物は進出。プランターのような家は、すぐに小さな森となった。



さらに想定外だったのは、この家が数多くのメディアで取り上げられ、武田さんが瞬く間に注目の建築家になったことだろう。余裕があると思われた1階の空間は、我々が取材した日には、所員とインターンと模型で溢れていた。最初は家族も同じ部屋で暮らしていたが、小さい2人のお子さんが居るので仕事に支障が出ることもあった。そこで、別途事務所を借りるのではなく、近くに家族用の部屋を借り、事務所が休みの週末だけ、お子さんの好きな緑の多いこの家で暮らしている。

「昨今はリモートワークで、狭い自宅で働いている若者が多いですね。僕は所員にこの緑溢れる素晴らしい空間で働いてもらいたくて。他所に移ることは考えられません」

スタッフがこの環境で働いていたら、やがて仕事面にも良い結果となって表れることだろう。そしてインターンの短い研修期間が終わる時期、屋上の庭でBBQの送別会が開かれる。彼らの顔の生き生きとしていること。ここでの体験は、将来の日本の建築界の財産になるかもしれない。水や植物や動物だけでなく、父から子に、そして次世代の建築家へと、様々なものが循環している家であった。

文=ジョー スズキ 写真=田村浩章






■建築家:武田清明 1982年神奈川県生まれ。建築家の武田暁明氏は父親。イーストロンドン大学大学院修了後、隈研吾の事務所で設計室長を務めた後に独立。自然を合理的に建築に取り入れるスタイルは独特のもの。今回紹介した「鶴岡邸」で、注目の若手建築家となる。建築活動とは別に石を使ったプロダクトを制作しており、発表の場として定期的に事務所を一般開放している。実兄は大のクルマ好きでカー用品のデザイナー。

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(ENGINE2023年1月号)

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