911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。4回目の今回は、日本に上陸したばかりの991型の911カレラに村上編集長とこの当時副編集長だった齋藤浩之のふたりが試乗した2016年5月号に掲載された記事をお送りする。
ターボ過給エンジンを得て、輝き増した素のポルシェ911カレラ(991型)「これは万能のスポーツカーだ!」
新しいターボ過給エンジンを積んだ新型911カレラが、ついに日本上陸を果たした。まずは最もベーシックな7段MTモデルを借り出して、その走りを試した。
村上 いやぁ、ポルシェ911は本当にいいクルマになった。
齋藤 なに言ってんの? ずっと前から本当にいいクルマじゃない。村上 そうなんだけど、今度の新型に乗って10メートルも走ると、思わず、本当にいいクルマになったと呟いている自分を発見するんだよ。とは言っても、これ、必ずしもホメ言葉というわけではない。つまり、今度の911は良くも悪しくも“いいクルマ”だということ。
齋藤 「良くも」はともかくとして、「悪しくも」ってなによ?村上 そこは誤解を招かないようにじっくりと話していかなければいけない。この座談全体のなかで明らかにしていこう。ひとつ言えることは、911はモデルチェンジを重ねるごとにどんどん乗りやすいスポーツカーに進化してきて、この新型ではそれが一気にある高みまで到達したと感じられることだ。
それはもちろん、技術の進化の賜物で、いいことには違いないのだけれど、その反面、かつての911が持っていた運転する者にある種の緊張感を常に強いるような荒々しさやストイックな感じが、薄れてきたことは否めない。齋藤 でもね、そこはほら、もともとはホロゲーション・スペシャルだったGT系が半ばカタログ・モデル化したことによって、その種の緊張感が欲しい人に十分、応えているんじゃないの。普通のシリーズ・モデルがどんどん乗りやすくなってきていることは、いいことだと思うけど。村上 もちろんその通りで、だからこそ良くも悪しくもと言っているんだよ。乗りやすくなっているのはいいことだ。でも、その反面、何か失ったものもあるような気がしてならない。それで、その寂しさを埋めるためなんだろうか、本当にいいクルマになったと呟いて自分を納得させようとしているのかもしれない。まるで自然吸気のリニア感齋藤 今回借りることができたのは、カレラの7段マニュアル・ギアボックス仕様。オプションのスポーツ・クロノ・パッケージが付いていた。タイヤは標準サイズの19インチ。先代でもそうだったけれど、標準サイズにはグッドイヤーの装着率が高いのか、今回の個体もイーグルF1を履いていた。走りに関係する素性はそんなとこかな。シートも標準タイプだったね。
で、肝心のエンジンは新開発の3リッターツイン・ターボ過給型。最高出力が自然吸気3.4リッター比で+20psの370ps、最大トルクは+6.1kgmの45.9kgm(400Nm)。自然吸気型だと概ね4リッター相当といったところかな。村上 このエンジンがどうなのかが新型911の最大の注目点だったわけだけれど、結論から言ってしまえば、とにかく素晴らしい。非の打ち所のないターボ・エンジンだ。まず、走り出しはこの上なくスムーズで、すぐにトルクが立ち上がるから、あまり回さなくてももどかしさを覚えることなく意図通りに速さがついてくる。
その意味では、ターボ過給であることを感じさせない。ひょっとすると、何も知らされずに乗ったら、自然吸気エンジンと信じて疑わない人もいるかもしれない。それくらい感触がリニアで違和感がない。齋藤 ベースの排気量が3リッター(2.98リッター)確保されていて、圧縮比も10対1と十分に高いことが効いているんだろうね。この個体は車検証値で車両重量が1450kgだけれど、この軽さも強みだよね。もちろん、エンジンそれ自体がよくよく入念に開発されていることもあるにしてもね。冷静に考えてみれば、この車重だったら、3リッター自然吸気でも十分にスポーツカーとして成立するんだから。
とはいっても、ターボ過給でこれだけ素早いピックアップ特性とリニアリティ特性が確保されているのは、やっぱり凄いことだと思う。長年、“ターボ”を開発し続けているだけのことはある。市販車だけで考えてもざっと40年近く継続してきたんだよね、振り返ってみると。村上 全体の乗り味としては、これまでの911より格段に洗練されて、すべての動きがスムーズな乗り物になった。ひと昔前の911を思い出すと、新型はあまりにもスムーズ過ぎて、やや大人しく感じられるくらいだ。そう感じさせるのは、とりわけ音が静かなことによるのだと思う。齋藤 オプションのスポーツ・マフラーは装着されていなかった。村上 7速で時速100kmで走っていると、回転数は1750rpmくらいだから、それこそ高級サルーンみたいに静かだ。しかも、アダプティブ・ダンパーのPASMがさらにきめ細かく制御するように進化し、乗り心地も一層よくなっているから、ますます大人しく感じられてしまう。齋藤 標準サイズのグッドイヤーの当たりの柔らかさも貢献大だと思ったな。ロード・ノイズやパターン・ノイズもこの手のスーパースポーツ用タイヤとしては小さくて優秀。村上 さらに言えば、ステアリングの操舵・保舵力が軽くなった。齋藤 軽くなったと同時に感触が柔らかくなった。滑らかでクリーミー。軽くなった分、より印象的だった。電動アシスト式とは思えないほどにフィールがいいのも先代以上。村上 もうひとつ、7段型のマニュアル・ギアボックスのシフト・フィールが格段に改善されていることも言っておかなければならない。これは、991前期型のGTSが出た時に改善されたものの引き継ぎだけれど、この7段マニュアルが出た当初のスッキリしないシフト・フィールを思うと、大きな進化だ。齋藤 PDK派生型としてこの7段型が991前期型に積まれた時には、以前の6段型に戻して欲しいと思ったけれど、今度のならとくに不満を覚えることなく操作していられる。ゲートの曖昧な感じが消えて、操作に意識を集中する必要がなくなったのは大きいよ。
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