2023.12.17

CARS

911を超えるミドシップ・ポルシェなのか? ボクスター・スパイダーはどんなポルシェだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/911誕生60周年記念篇#11】

ポルシェ・ボクスター・スパイダー(2010年型)。

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911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。11回目の今回は、2010年秋に日本に上陸したボクスター・スパイダーの記事を取り上げる。6段マニュアルで866万円、7段PDKつきで889万円という今思えば破格の値段で登場したボクスター・シリーズの最高峰、スパイダー。当時、スポーツカーとしてはこれがベストのポルシェかもしれないと言わしめたボクスター・スパイダーの2011年3月号のリポートをお送りする。

2010年12月

ボクスター・スパイダーがいいぞということは、昨年秋の日本上陸直後にテストした編集部の同僚から聞き及んではいた。そうだろうな、と自然に受け取っていた。元になったボクスターがそもそもすぐれたスポーツカーなのだし、その高性能版のボクスターSから80kgを削ぎ落とし、さらにボクスターSより10ps強力なエンジンを積んだのだから、より純度の高いスポーツカーになっていて当然だからだ。



しかし、はじめて乗ったのはようやく年末近くになってからだった。昨年12月、編集部が特集のためにボクスター・スパイダーを借りたとき、ポルシェ・ジャパンへの車両返却を買って出て、都心の一般道と首都高速道路をチョイ乗りした。そして、心底おどろいた。これほどまで走りがいいとは、と。かくして、今月の「新・自動車評論」は、いささか遅まきながら、ポルシェ・ボクスター・スパイダーをとりあげた。

テストした日はさいわい晴天に恵まれ、絶好のオープン・ドライブ日和だった。しかし、箱根の山に着くまでは、幌をしたまま走った。

ボクスター・スパイダーの通常状態はオープンである、というのがポルシェの想定だ。じっさい、267km/hをうたうトップ・スピードはオープン状態のもとでのもので、幌をしているときの推奨最高速は200km/hにとどまる。幌を上げて走るのは、悪天候などの場合だけだよ、といっているわけだ。けれど、すでに「本気で欲しい」モードに入っていた僕は、雨の多いこの国の風土での日常的な使いやすさをとりあえず知りたくて、大部分が高速道路となる箱根までの100kmあまりを、まずクローズド・トップで試そうと思ったのだった。

2つの幌

ソフト・トップとはいっても、ボクスターのそれはフル電動で、気密性や遮音性においてハードトップに遜色ない堅牢きわまるものなのにたいして、スパイダーの場合、支持する骨を持たない幌は本当にソフトで、前はウィンドシールド、後ろはリアのバルクヘッド部にあるロールオーバー・バーに、それぞれ引っかけてテンションを保つ、という簡素なものだ。あまりに簡素なので、リア・スクリーン用にもうひとつの幌が必要になり、結果、リア・クウォーター部は、厳密にいえば密閉されない構造になっている。



それで雨が吹き込んだりはしないが、ノイズの侵入度合いは大きくなる。この一事をもってしても、幌を立てるのが例外的なことと見なされていることはあきらかだ。おまけに、幌の上げ下ろしを独力でやろうとすると、確実に5分以上はかかりそうで、文字通り、ひと仕事になる。


本来形ならざる幌を上げた状態のボクスター・スパイダーに乗り込むと、しかし、少なくともひとりで乗るかぎりは、圧迫感を覚えるような窮屈さはなかった。スーパーセブンやモーガンなどの、たんにビニル1枚仕立ての幌しか持たないイギリスのオープン・カーの閉鎖感とは大違いで、あれらに較べれば天国にいるみたいだ。ドイツ人のやせ我慢の限界点は、イギリス人のそれよりずっと低いようで、理由はともあれ、イギリス人の方がある種の肉体的試練をより積極的に受け入れてきたのではないか。



イギリス人のつくるクルマは、そんな国民的資質(?)のせいか、ドイツ人のつくるクルマより総じて荒っぽく野蛮だった。イギリス人だけでつくっていた時代のベントレーと、ドイツ人がつくるようになってからのベントレーの、ドライブ・フィールにおける洗練度の違いを、ココア・ブラウンの望外にオシャレな内装を持つコクピットで想い起こしたりしたのだった。

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