2024.01.17

CARS

ケイマンSより55キロも軽量化されていたケイマンRは、どんなポルシェだったのか? これはまるでミドシップのGT3だ!【『エンジン』蔵出しシリーズ/911誕生60周年記念篇#14】

例えて言えば、ミドシップのGT3か!

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圧倒的にスパルタンで硬派

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翌朝、ホテルの前の駐車場でキイを受け取り、試乗コースに向けて出発した。高速道路を経て山岳路に入り、サーキットを目指す。

明らかに軽くなったアルミのドアを開け、バケット・シートに身を沈めると、着座位置がいつもよりかなり低い感覚があった。左手でキイを捻ると、“ブォオン”という大きな音を立てて真後ろに置かれた3.4リッターフラット6に火が入る。回転が安定してからも低く唸り続けるようなアイドリング音は、あたかもコクピットの中に獰猛な野獣と同居しているかのような緊張感を強いてくる。こいつはかなり手強そうだ。アルカンタラが巻かれたステアリングを握る手に思わず力が入った。

決して軽くはないが、重すぎることもないクラッチ・ペダルを踏んで6段マニュアルのギアをロウに入れ、発進すると、まるで金庫が動きだしたような硬質感が伝わってきた。この時点で、これはケイマンSとはまるで違う、と思った。

文字盤の色はプラック。回転計のレッド・ゾーンは7500rpm から。メーターの庇も省略される。


ステアリングの操舵フィールは単に重いだけではなく、ギュッと詰まった独特の感触がある。まるで路面の荒れがそのまま手のひらに伝わってくるようなダイレクト感だ。入力に対するクルマの動きも機敏そのもので、遊びは最小限にしかない。それはエンジンのレスポンスも同様で、スロットルを開ければ間髪を入れずに背後の猛獣が雄叫びを上げ、回転計の赤い針が跳ね上がる。

この感覚はどこかで経験したことがある、と思った。そうだ、GT3だ。911GT3が持つ圧倒的に硬質な、まるでガチガチに組まれてどこにもユルイところのない機械のような剛性感が、少し薄まってはいるものの、このケイマンRにはある。

軽い、という感覚はあまりなかった。実際のところ試乗車にはエアコンもラジオもついていたから、そもそも、さほど軽くなかったのかもしれない。しかし、それ以前に、持って生まれた性格が、“軽くない”のだと思った。その意味では、ボクスター・スパイダーとは、かなり性格を異にしている。ケイマンRの方が圧倒的にスパルタンで硬派だ。

運転練習用に最適のクルマ

固められた足回りを持っているとはいえ、乗り心地は決して悪くない。しかし、ロールもピッチングもほとんど感じられないこの硬質なスポーツカーで濡れた山岳路を走るのは、スリリングかつ底抜けに楽しい体験だった。わずかでも踏みすぎればお尻はすぐに滑り出すし、フロントの荷重をしっかりかけないとアンダーステアが出る。つまり、しっかり運転しないとまるで思い通りにならないが、正しく運転すれば見事にコントロールして走れる。運転練習用にもってこいのクルマだったのである。



その意味では、これほどサーキットを走るのに適したクルマも珍しいかもしれない。1周2km強のミニ・サーキットを、まずはワルター・ロール氏の運転する911の後について数周、慣熟走行し、そのままフリー走行に入って1回につき4周を走ることを許された。ほとんどレース・ラップのようなスピードでみんな走っている。それで何周してもクルマが音を上げることがない。試乗車にはオプションのセラミック・ブレーキ(PCCB)が着いていたとはいえ、見上げた耐久性の高さだ。

そして、いろいろ試してみてわかったのは、お尻が流れ出すのは恐らく911より早いだろうが、動き出しがゆっくりで、そのあとのコントロールがしやすいということだ。911のドンと後ろから押し出されるような圧倒的なトラクションはないけれど、コーナーを姿勢をコントロールしながら駆け抜けるのがすこぶる楽しい。MTとPDKでは、自分でコントロールしている感覚が強いMTの方が私には好ましく思えた。

911を乗り越えたか、と聞かれれば、残念ながら“否”と答えるしかない。しかし、ケイマンRの登場は、ミドシップ・ポルシェが911の下位モデルではなく、まったく別のドライビング・ファンを持ったピュア・スポーツカーであることを広く知らしめる契機となるに違いない。

文=村上 政(ENGINE編集長)


■ポルシェ・ケイマンR
駆動方式 エンジン・ミド縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4345×1800×1285mm
ホイールベース 2415mm
車両重量 1295kg(MT)/1320kg(PDK)
エンジン形式 アルミ製水平対向6気筒DOHC24バルブ
排気量 3436cc
ボア×ストローク 97.0×77.5mm
最高出力 330ps/7400rpm
最大トルク 37.7kgm/4750rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション形式(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション形式(後) マクファーソン式ストラット/コイル
ブレーキ 前後  通気冷却式ディスク/アルミ製モノブロック・キャリパー
タイヤ(前) 235/35ZR19
タイヤ(後) 265/35ZR19
車両本体価格 975万円(6段MT)/1022万(7段PDK)

(ENGINE2011年5月号)

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