2023.09.11

CARS

「精緻に組まれたエンジンは、どこにもユルいところがない!」 991後期型の911GT3とはどんなポルシェだったのか?【911誕生60周年記念『エンジン』蔵出しシリーズ#6】

911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。6回目の今回は、2017年7月号に掲載されたスペインのグラナダで行われた991後期型911GT3の国際試乗会のリポートをお届けする。

速いのはもちろん、熟成度が凄い


ニュルブルクリンク北コースで、先代より12.3秒速い7分12秒7のラップタイムを記録した新型911GT3。その一方で、マニュアル・ギアボックスを復活させるなど、速さの追求一辺倒ではない新たな方向性も見せてきた。その走りを、グラタナで開かれた国際試乗会から報告する。



かつてエンジン編集部でも長期リポート1号車として導入した初代996型911GT3がデビューしたのは、1999年のことだった。同じ水冷とはいえ、カレラをはじめとするノーマル・モデルとは違い、レーシング・エンジン由来のいわゆるGT1ブロックを使った3.6リッターフラット6を搭載したそれは、水冷化された911に物足りなさを訴える声が渦巻く中で、硬派な走り好きの期待に応えるモデルとして拍手喝采をもって迎えられたのだ。

あれから18年。初代GT3の3.6リッターフラット6が360psであったことを思うと、隔世の感を禁じ得ない。なにしろ、今回、スペインのグラナダで乗った最新の991後期型GT3は、4リッターフラット6から500psの最高出力を絞り出していたのだ。GT3はこの18年の間に140psのパワーを増強し、ニュルブルクリンクのラップタイムを50秒近く縮めたことになる。GT3は代を重ねるごとに、着実にパワーアップし、タイムを縮めてきた。そして同時に、乗りやすさの点でも、確実に進化してきた。


スペインの高速道路を新型GT3で走りながら、私の頭の中を様々な思いが去来していた。初めて996型GT3に乗った時、あまりに足回りが硬く、ステアリングやペダル類の操作系が重いことに、ひどく戸惑ったものだ。それに比べて、最新のGT3は、なんと御し易い乗り物になっていることだろう。先代の991前期型と比べても、速さも乗り心地も進化しており、「最新は最良」というポルシェにまつわる格言の正しさをまたしても証明した形である。


しかし、そうではあっても、考えさせられる引っ掛かりがある。一度やめたマニュアル・トランスミッションをここにきて復活させた意味は、決して小さなものではないだろう。そしてその出来映えが素晴らしかっただけに、今後の方向性が気になるのだ。新型GT3は間違いなくこれまでの頂点に立っているが、それと同時に、大きなターニング・ポイントにも立たされているのだと思う。

この観点を踏まえながら、以下に国際試乗会からの報告をしよう。

レーシング・エンジンそのまま

マイナーチェンジだから当然といえば当然だが、新型GT3の外観は先代と極めてよく似ている。違いは新たに採用された軽量なポリウレタン製の前後バンパーまわりとウイング部分の形状に限られる。まず、フロントにはより大型のエア・インテークが設けられた。とりわけ印象的なのは、左右の黒いサイド・エア・ブレードで、鋭く空気を切り裂くような形状をしている。ヘッドライトはバイキセノンが標準だが、写真の個体にはオプションのLEDタイプが装着されていた。



なによりもリアで目を引くのは巨大なウイングだ。形状は先代と同じだが、20mm高くなり、10mm後ろに下げられた。ウイングの下にはふたつの黒いラムエアスクープ設けられ、そこから入った空気はリアのスロットから排出される。ウイングとリア・リッドはカーボン製。そのほかアンダー・ボディ・パネルにも工夫をこらすなどした結果、ダウンフォースは先代比20%増えているという。

リア・リッドの下に収まる4リッター自然吸気フラット6は、レーシング・カーのGT3Rに由来し、GT3カップカーでも使われているユニットと基本的にまったく同じだという。ただし、触媒が付けられた排気管やフラップが設けられたエア・インテークの形状などはレーシング・カーとは違ったものになる。

同じ4リッターでも991前期型GT3RSのレヴ・リミットが8750rpmだったのに対し、新エンジンは9000rpmになっている。これは、これまでも使われてきたチタン製コンロッドや独立したオイルタンクによるドライサンプ潤滑方式を踏襲しているのに加えて、新たにロッカーアームの油圧バランシング・エレメントを使わない、リジッド・バルブ・コントロールを採用したり、クランクシャフト内部にオイルを通してコンロッドのベアリングにオイルを吐出するシステムを取り入れたことなどで可能になった。オイルの必要流量は大幅に減らされており、これまで毎分120リッターだったものが70リッターで済むようになっているという。圧縮比は13.3対1で、先代比25ps増の500psを8250rpmで発生する。




先にも触れたように、トランスミッションは先代と同じ7段PDKに加えて、無償オプションとして6段マニュアルを選べるようになった。ギアボックスはゲトラグ製で、911Rで開発したものにさらに手が加えてある。911Rではシングルマスだったフライホイールはダブルマスに変更さている。6段MTには、PDKの電子制御リア・ディファレンシャルとは違い、ロック率が駆動時30%非駆動時37%の機械式ディファレンシャルが組み合わされる。

シャシーは基本的に先代のものを踏襲しており、リア・アクスル・ステアも装備されている。

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