奇数を用いてきた近年の慣例に倣わず、偶数の“12”を用いたアストン・マーティンDBシリーズの新作。モナコで催された国際試乗会に参加した藤原よしおがその理由と出来映えをリポートする。
なんで偶数になったのか?
実は試乗する前に1つ気になっていたことがあった。それはなぜDB7以降の慣例に従って車名が奇数ではなく、偶数のDB12なのか? ということだ。
「良い質問だ。確かにこれまでDB7、9、11と続けてきたけど、今回は新しいプラットフォームじゃない。DB11の進化型なのでDB12になったんだ」
アストン・マーティンのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーのマレク・ライヒマンはそう答える。そこには不吉な数字を回避するためのレトリックも含まれているかもしれないが、一方でDB12がただの正常進化などと一括りにできないクルマであることは、ステアリングを握ってすぐに理解できた。
まず印象的なのは大きく変わったインテリアだ。目の前のメーター・パネルがコンパクトなディスプレイとなり、ダッシュボードにセンター・コンソールの張り出しがなくなった分、前方の視界はグッと広く感じる。また近年のアストン・マーティンの特徴だったシフト・ボタンが廃止され、スティック状のセレクターになったのも大きな変化だ。
スターター・ボタンを押すと、ノーズに収まる4リットルV8ツインターボが威勢よく目覚める。最高出力680ps、最大トルク800Nmというスペックはターボの大型化、冷却性能の拡大、そしてマッピングの変更などによってもたらされたものだ。確かにDB11 V8の510psはおろか、V12を載せるDB11 AMRの639psをも大きく上回るものだが、すでに707psのDBX707を知る身としては、物足りなく思えなくもない。
それについてはDBXが使っているギヤボックスのキャパシティとの違い……という説明だったが、いずれにしろアクセレレーターをひと踏みするだけで、DBXより遥かに軽い1685kgの車重に対しては、十分以上にパワフルでトルキーなのは実感できた。その際のアクセレレーターに対するレスポンスも素晴らしいのだが、さらに特筆すべきは、あらゆる操作状況でもギクシャクすることはなく、パワーデリバリーがとてもスムーズなことだ。
ワイルドでなく俊敏
その特性は街乗りではもとよりワインディングで如何なく発揮される。DBSではそのパワーを持て余して、時としてリヤが暴れるワイルドさが残されていたが、DB12はフロント、リアともに接地感が高いうえ、どの回転域からもパワーの出方がスムーズでロスなく路面に伝えてくれるので、かなりの勢いで飛ばしても挙動が乱れることは一切なかった。
また8気筒でDBSより鼻先が軽い分、クルマの動きは明らかに俊敏。トランスアクスル・レイアウトならではのバランスの良さを最大限に活かした、気持ちのいいニュートラルステアを終始維持し続ける。
そこにはフロントで6mm、リアで22mm拡大されたトレッドや、DBシリーズで初採用となったE-Diffの効果が大きいのは間違いないが、シフト・タイミングが短縮された8段AT、フロント、リヤのストラット・タワーのねじれ剛性、横剛性を中心に強化されたシャシー、加減速、縦&横G、ヨー、ロール、ピッチを感知する6軸慣性システムを通じて最適なグリップを得るようにキャリブレーションされたESC、最適化された電動パワステ、反応速度の上がったアダプティブ・ダンパー、中間加速向上のために3.083:1へ落とされたファイナルギヤ、21インチのミシュラン・パイロットスポーツS5といった新機軸が、複合的に作用していることも見逃せない。
「このパフォーマンスを得るために冷却性能の向上が必要でした。フロント・グリルの開口部が大きいのはラジエーターとブレーキの冷却で角度が違うから。またダウンフォースを30%増やすために積極的にフロアに空気を流す必要もありました」
とライヒマンが言う通り、大きくなったフロント・グリル、グラマラスなリア・フェンダーなど大胆に変わったエクステリアも、すべては必然的な進化だったというわけだ。
そんな彼ら開発陣の執拗なまでの努力と、素晴らしい仕事は“DB11+1”以上のパフォーマンスとなって見事に結実している。
文=藤原よしお 写真=アストン・マーティン
■アストン・マーティンDB12
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4725×2060×1295mm
ホイールベース(mm) 2805mm
車両感想重量(kg) 1685kg
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量 3982cc
最高出力 680ps/6000rpm
最大トルク 800Nm/2750-6000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
(後) マルチリンク/コイル
タイヤサイズ(前) 275/35R21
(後) 325/30R21
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
車両本体価格 2990万円
(ENGINE WEB オリジナル)
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