2023.08.06

CARS

来年はアルピーヌの番! すでに101年目の戦いがスタートしたル・マン24時間レース これだからル・マンは面白い!!

ル・マンで発表された2024年から実戦投入されるアルピーヌのニュー・マシン、A424β

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多くのドラマが繰り広げられた100周年のル・マン24時間レースで、アルピーヌは2024年に向けたニューマシンをお披露目した。サルト・サーキットでは、すでに101年目の戦いがスタートしている。ル・マン初観戦のエンジン編集部新井がリポートする。

テルトル・ルージュに涙する

いきなり私事で恐縮だが、中学生の時からル・マン24時間レースに憧れていた私にとって、今回の初観戦は天にも昇るような最高の体験だった。60台を超えるマシンが一斉に大観衆の前を駆け抜けていくスタート、ミュルザンヌでの300km/h以上からのブレーキング競争、目が眩むような大光量のヘッドライトだけしか見えない夜間走行、静まり返った深夜のピット、そして明け方のコース脇で寝落ちする観客……。レース専門誌やテレビ朝日の中継で見て、「いつかは」と憧れていた風景が現実のものとなった。私が一番好きな光景である、レーシング・カーの赤いテールライトがユノディエールへと吸い込まれるように消えていく夜のテルトル・ルージュで観戦したときは感動で思わず目頭が熱くなったのは内緒の話だ。

現在のLMP2はエンジンがワンメイク、シャシーも1社が独占しており性能は拮抗。その経験はLMDhで発揮されるかもしれない。

ル・マンの常連であるアルピーヌはそんな100周年の記念大会にハイパーカー・クラスのひとつ下のカテゴリーであるLMP2にエントリー。2台のA470でクラス優勝を目指した。結果は、36号車が24台中4位、もう1台の35号車はクラッシュに巻き込まれた影響が最後まで残ったものの、しっかりと追い上げクラス9位でフィニッシュ。残念ながら、2015年にFIA世界耐久選手権(WEC)に復帰してから4度目の優勝を飾ることは叶わなかったが、2台とも無事にチェッカーフラッグを受けることができた。

もちろん、彼らにとって本戦が晴れの舞台であることに疑いの余地はない。しかし、アルピーヌは今回の大会にもうひとつ別の大舞台を用意していた。2024年から投入するWEC、そしてその1戦に含まれるル・マン24時間レース用のニューマシン、A424βをお披露目したのだ。今度はLMP2ではなく、総合優勝が狙えるLMDhでの参戦だ。F1とWECという2つのトップ・カテゴリーに参戦するメーカーは今回ル・マンを制したフェラーリとアルピーヌ以外に存在しない。

今回お披露目されたA424_βはプロトタイプ。「モンテカルロ・ライト」と呼ばれるA110の4灯式ヘッドライトを再現したフロント・マスク。

アルピーヌがこのようなチャレンジを決断できたのは、2020年に発表されたWECとアメリカ版のWECといえるIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の両方に出場できるLMDhカテゴリーの創設が大きい。A110を皮切りに総合スポーツカー・メーカーへの飛躍を目指すアルピーヌにとって欧州だけでなく、市場規模の大きいアメリカ市場への進出は悲願のひとつだ。彼らもそれを公言してはばからない。そんなアルピーヌにとって、LMDhは両方の地域でアピールできる願ってもないチャンスなのだ。

とはいえ、すでに参戦しているF1でもその効果は期待できるはず。なのになぜ? その疑問に対して、アルピーヌ・レーシングでヴィークル・ダイレクターを務めるフランソワ・シャンポ氏は、アルピーヌはスポーツカー・メーカーだから、という。F1はブランドを高めるにはとても有効だが、クルマの良さをアピールするにはスポーツカーで戦うことが不可欠だと考えているそうだ。いかにもモータースポーツでクルマを磨き上げてきたアルピーヌらしい考え方だと思う。

空力性能を盛り込みつつ、アルピーヌらしさがしっかりと盛り込まれている。

オール・フランスでの参戦

また、LMDhの低コストにも重きを置いたレギュレーションもアルピーヌの参戦を促した。ご存じの通り、WECのハイパーカー・クラスにはLMDhのほかに、トヨタやフェラーリが手掛けるLMHでの参戦も可能だ。しかし、レギュレーションに準拠さえしていれば思い通りのクルマがつくれる分、お金も掛かる。しかし、LMDhはいたずらに技術競争ができないように部品や性能を厳しく管理することで、コストの高騰を抑えることに成功したのだ。

シャシーは4社の中から購入し、独自開発は禁止。LMDhはハイブリッド機構を有するがモーターとバッテリーは共通で、変速機もワンメイクだ。エンジンはオリジナルのものが使用できるものの、最高出力だけでなく過渡特性なども制限される。さらに、ボディの外側=空力の面でもダウンフォースや抵抗について細かく規定されている。ちなみに、シャシーはLMP2で長年付き合ってきたオレカ製を選択。3.4リッターV6シングルターボ・エンジンはルノーのF1エンジン開発部門を買収し、こちらもアルピーヌと深い関係にあるメカクローム製をベースにアルピーヌF1エンジンの開発拠点であるヴィリー・シャティヨンで改良したものを搭載する。詳細については教えてもらえなかったが、F1の技術が投入されるのは間違いないだろう。ちなみに、オレカもメカクロームもフランスのメーカー、つまりオール・フランスでの参戦となる。



デザインやエンジンに独自開発の余地はあるものの、ガチガチの性能調整によりLMDhはクルマの性能差は出にくい。では、どこでアドバンテージを作り出すのか? それはレース戦略と信頼性、ハイブリッドによるエネルギーのマネージメントだとシャンポ氏は断言する。戦略面ではLMP2時代から一緒に戦ってきたシグナテックとのタッグを継続。信頼性では10年に亘って参戦してきたLMP2の経験と実績、エネルギー・マネージメントではF1で得たノウハウを活かせる。そこがアルピーヌの強みになるはずだ。

初年度から勝てるほど甘くないとシャンポ氏は控えめに言うが、彼らの実績と今年のフェラーリの結果を見れば、アルピーヌ・ブルーのマシンがトップでチェッカーを受ける可能性は十分にある。できればそれをまた間近で見たいと、ル・マン好きの私は心からそう願うのであった。

◆これは必見! 迫真のフォト・ドキュメンタリー 100回目のル・マン24時間レースを戦うアルピーヌを写真で見る!!

文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=アルピーヌ、編集部

(ENGINE2023年9・10月号)

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