2023.11.26

CARS

【保存版】「身体じゅうの細胞が騒然としている!」 踏み込んだ瞬間に全身が総毛だつ「599GTO」とはどんなフェラーリだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ フェラーリ篇】

フェラーリ599GTO

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回取り上げるのは、フェラーリ599GTOだ。670ps! あのエンツォより強力なV12を搭載した599GTO。フェラーリの聖地フィオラノで行われた国際試乗会に向かったのは当時編集部員だった齋藤記者。2010年8月号に掲載された手に汗握る、臨場感たっぷりのリポートをお送りする。

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踏めるだけ踏め!

ただならぬ状況に遭遇すると、こういうことが起こるのか。身体じゅうの細胞という細胞が根こそぎ叩き起こされて、騒然としている。なにかのっぴきならない生命の危機に直面しているかのような、そういうざわめきだ。全身総毛立つというのはこのことをいうのかもしれない。

599XXの公道走行用ホモロゲーションモデルが599GTOだ/1962年に登場した初代GTOは今や伝説的な存在。レース・トラックで250GTBの後を継ぐべく生み出されて、幾多の勝利を飾った。1984年には新しいレース規定のGr.Bカテゴリーにホモロゲートするために縦置きV8ツインターボのミドシップ・マシンが作られ、GTOの名前が再度使われた。599GTOはトラック専用モデルの599XXを公道でも走れるように、という意図で生み出されたクルマだ。

それでもなお、意を決してアクセレレーターを踏み込む右足に力を込める。未だ知らない世界へ踏み込めと命じる意識が、細胞のざわめきを無理矢理に上回ろうとしている。“まだだ、まだ戻しちゃだめだ”。言い聞かせている自分がそこにいた。

バラララッとレヴ・リミッターに当たった! わずかに視線を下げると真っ黄色の回転計盤面で針が8500rpmをヒットしている。右手の指を引いてシフト・アップ。ほんの一瞬の間を挟んで猛烈極まりない加速が襲ってくる。身体のざわめきは収まらない。視野が加速に負けて狭くなろうとする。それでも右足を踏み続け、4速に上げる。視界の下隅で回転計の針が猛烈な速さでレッド・ゾーンへと駆け上がっていく。“まだ踏むのか!? まだいかなくちゃいけないのか!?”。意志が揺らぐ。5速へはもう上げたくない。加速度による視覚情報変化の凄まじさについていけない。右足は僅かに戻り、シフトアップを拒んだ。コーナーが迫る。「踏めるだけ踏め! 躊躇なしに踏むんだ」とアドバイスをくれた開発ドライバーの声がよみがえる。



ギュウッーと渾身の力でブレーキ・ペダルを踏みつける。刹那、薄いシャツ越しに4点ベルトが両の鎖骨を折らんばかりの力で押しつける。ヘルメットはかぶっていないのに、頸が重い。左手の指でダウン・シフト・パドルを引き続ける。グググゥー。ファンッ、ファッ。ブレンボのCCM2カーボン・セラミック・ブレーキがミシュランのパイロット・スーパー・スポーツと共謀して運動エネルギーを熱に変換していく押し殺したような音のなかに、金属的な雄叫びが切り込んでくる。

フル制動時にダウン・シフト・パドルを引き続けると、連続してギアを下げてくれる機能がついている。こんな強烈なブレーキングのなかで何回パドルを引けばいいのか冷静に数えてなんかいられない。ステアリングを押さえる手を緩めたくもない。これはありがたい機能だ。


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