2023.09.20

CARS

いいわけ要らずに選べるアルファ・ロメオ ジュリエッタとはどんなクルマだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇 #2】

なにもかも新しいからこそ

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そういうアルファがほんとうにできちゃったことが、にわかには信じられないこの気持ちを、アルファに親しんできたひとになら、わかってもらえるのではないだろうか。

でも、その中身を知ると、それが偶然でもなんでもなく、むしろ必然だったということがわかってくる。

まず、土台となるプラットフォームが新しい。フィアットのスティーロに始まった多分割モジュラー構造方式で作る手法がブラーボやランチア・デルタで完成をみて、その成果の上に全くの新規起こしで開発された“コンパクト”プラットフォームは、軽量高強度鋼板の多用によって軽く、しかも剛性が高い。

さらに、前部衝突時の応力分散吸収路をこれまでの片側2本から3本に、左右6本のパスを作ることで、衝撃エネルギーの吸収能力を飛躍的に上げることにも成功している。つい最近発表されたユーロNCAPの評価は文句なしの5つ星。87/100点でクラス・トップ。ゴルフ級コンパクト・カーで最も安全なクルマというお墨付きをもらったほどだ。

そこへ組み込まれるサスペンション・システムも完全新開発。フロントはごく普通にストラット式だが、大型パーツとなるナックル(ハブ・キャリア)と、ロワ・アームを支えるクロス・メンバーがアルミ製。リアは3要素構成のマルチ・リンク式で、BMWがE36やE46型3シリーズやローバー75、ミニに採用したものとほぼ同形式のものだ。これも前後方向の大入力を受け止めるトレーリング・アーム(兼ハブキャリア)とクロス・メンバーがアルミで作られている。バネ下重量の軽減に本気で取り組んでいる。サスペンションは、159以来のテーマとなっている高い横剛性の確保が貫かれている。

加えて、ホイールベースを2634mm、前後トレッドを1554mmと、大きくとったことも相乗効果を発揮して、当たりが柔らかでNVHの遮断吸収効果に優れ、なおかつ応答遅れのないハンドリング特性と、高い操縦安定性が実現されたのである。

丸みを帯びた立体的な造形を強調してきたアルファの新境地。メーター周りこそこれまでの“アルファ”だが、全体としては水平基調を強く押し出して、軽快な印象を与えるものに変わった。ジュリエッタは空調システム(制御ロジックも含めて)も完全な新設計。高効率化の配慮は隅々にまで行き届いている。ティルト・アップ型ナビが組み込める。室内空間はゴルフに遜色ないスペースがある。荷室も同様。ダブル・ガラス・サンルーフはオプション。コーナリング・マナーは模範的。ただし、パワーの大きなQVは右足を繊細に操る必要がある。

電子制御式の完全電動アシストを備えた新しいステアリング・システムも、ラックに噛むピニオンをアシスト専用にもうひとつ設けた理想的な構造のものとなって、軽やかでソリッドな感触を失わない操舵フィールを実現している。しかも、エンジンのダウン・サイジングで業界最先端を突っ走るフィアット・グループだけに、ジュリエッタに搭載されるエンジンも、とくにガソリン版は軽く、鼻先が劇的に軽くなっている。鼻の重いFF車の初期アンダーステアを消すためにトリックを弄する必要も、アシストを強めにかける必要もなくなったおかげで、ステアリングの感触がとにかくスッキリしている。至極ナチュラルなのだ。

新しい諸々の設計や構成が有機的に結びつき、アルファをして自信満々に“クラス・ベストだ”と言わしめるクルマが完成したのである。

それは、軽やかに、平らかに、当たり柔らかく疾駆できるクルマだ。

プジョー308、BMW1シリーズ、VWゴルフ、アウディA3、そしてフォード・フォーカスといった優秀なクルマがひしめくなかで、アルファ・ジュリエッタは、NVHとエンジン・ノイズで最優秀、ロード・ノイズは308とイーヴンながら、他のどれよりも優秀、ロール角の小さいことでもクラス1位で、操舵に対する横G発生の遅れも最も少ない。ステアリング・フィールも1位だとアルファは言う。さらに加えるなら、少なくとも左ハンドル仕様では、ペダル・ストロークの激減したブレーキの感触も優れている。まだ、ある。なんとアルファ・ロメオとしては画期的なことに、5.4mの最小回転半径もクラスで最小! なのである。

ああ~神様、と感謝に手を合わさずにいられようか。

“1750i TURBO BENZINA”の刻銘も誇らしげなQV用235psエンジン。優に3リッター級のパワーを出しながら、ターボ・ラグも極小。


ツインクラッチも出る。

5月から欧州各国で次々に発売されたジュリエッタは、どこでも好評で、すでにウェイティング・リストができているほどだというが、まだマニュアル・ギアボックスの仕様しか生産が立ち上がっていない。用意されるエンジンは5種類で、ガソリンが1.4リッターターボ(120ps)、1.4リッターマルチエア・ターボ(170ps)、そしてクアドリフォリオ・ヴェルデ用の1.75リッター直噴ターボ(235ps)、ディーゼルにいずれも直噴ターボの1.6リッター(105ps)と2.0リッター(170ps)、という布陣が敷かれる。このうち、日本にやってくるのは、ガソリンの1.4TBマルチエアと1.75TBiクアドリフォリオ・ヴェルデだ。いずれもコンパクトな3軸式の新世代6段マニュアル・ギア・ボックス付きで、早ければこの秋にも上陸する可能性がある。年明けには2ペダルの新開発ツイン・クラッチ・トランスミッションが1.4TBと組み合わされることになっているので、日本市場での主力モデルはこれになるだろう。

これは願ってもないことだ。なぜなら、170psの仕様が最もバランスがよく、しかも、そのマルチエア・エンジンは超絶級にスムーズで快活。そこへこれまた変速上手のツイン・クラッチ変速機が組み合わされるのである。なにもかも最先端のアルファが買えるのだ。

もちろん、235psのモデルも心を捉えて離さないけれど、少々オテンバに過ぎると思うことがなきにしもあらず。それに安くないだろうし。

どちらにしても、実用セダンとしての能力もなかなかに高い。156/147難民を救う女神が、ついに舞い降りたのである。

文=齋藤浩之(ENGINE編集部)

156/147難民を救う女神が舞い降りた!


■アルファ・ロメオ・ジュリエッタ 1750TBi クァドリフォリオ・ヴェルデ
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4351×1798×1465mm
ホイールベース 2634mm
トレッド 前/後 1554/1554mm
車輌重量 1395kg
エンジン形式 直4 DOHC16バルブ直噴ターボ過給
総排気量 1742cc
最高出力 235ps/5500rpm
最大トルク 34.6kgm/1900rpm
変速機 6段マニュアル・ギアボックス
サスペンション形式 前 ストラット/コイル
サスペンション形式 後 マルチ・リンク/コイル
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 225/45R17 91W

(ENGINE2010年9月号)

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