2023.11.20

CARS

奇跡の1台! レーシング・マシンさながらの工法で手づくりされるカーボン・バスタブを持つ「アルファ・ロメオ4C」とはどんなスポーツカーだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇 #3】

20213年の後半に開催された国際試乗会でアルファ・ロメオ4Cに乗った!

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吠える! 速い! 踊る!

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と、その刹那、ヴァラララッー、と背後から勇ましい排気音が飛び込んできた。オプションのレーシング・エグゾーストが弾き出す逞しいビートはターボ過給エンジンのそれとは思えない。排気量がたったの1742ccしかない4気筒のものとは思えない迫力だ。わずかに丸みを帯びた、ちょっと湿り気のある熱い咆哮。フェラーリやマゼラーティの多気筒エンジンが放つ中高音の絶叫とは異なる、低中音の雄々しい唸り。4気筒の音がこんなにも心地よく響くのを、僕はこれまでに経験したことがない。快音だ。どこか懐かしさを覚えるアルファ・サウンドに包まれていると、ゾクゾクしてくる。



アルファ“DNA”スイッチがD(ダイナミック)に入っていることを再確認し、メイン・ストレートをかっ飛ばす。右の中指でステアリングホイール裏の小さなパドルをコリッ、コリッと引きながら右足はべた踏み。シフト・アップが素早い。専用開発された変速プログラムのおかげもあって、最短130ミリ秒で変速を完了するというデュアル・クラッチ変速機の威力をまざまざと実感する。加速Gは途切れない。眼前の小さな液晶パネルのデジタル速度計が目まぐるしい勢いで数字を積み上げていく。予想外の速さでの200km/h超え。0-100km/加速4.5秒、最高速度258km/hを豪語するだけのことはある。速い!

最低乾燥重量で895kg。エアコンなどが標準装備となる北米仕様でも認証重量で950kgぐらいで収まるという軽さの成せる業だ。ふだん乗りなれている1.5t級ならば、優に400psオーバー級の速さがある。しかも、そうしたクルマにはない鋭さがある。慣性質量が纏わり付く感じが全然ないのである。

“DNA”スイッチの前方に、変速機用の1、A/M、N、Rの4つのボタン・スイッチが配置されている。


しかも、200km/hぐらいに達しても、軽いことからくる不安感をまったく覚えない。揚力係数Cz=マイナス0.05と、ダウン・フォースを産む空力特性も実感できる。それでいて、効力係数はCd=0.34というのだから恐れ入る。全長が4mにも満たないボディであることを考えると、驚異的な空力効率である。高速域でも加速力が衰えないわけだ。

速いから、ストレートはすぐに終わる。ブレーキングしながら左中指でコリッ、コリッとシフト・ダウン。デュアル・クラッチ変速機がファッ、ファンッ! とブリッピングを入れながら素早くギアを落とす。回転落ちも十分に速い。中速シケインを抜けてその先のアンダーパスを3速でクリアし、右へ左へと続くS字を上手く過ぎるとショート・ストレッチ。全開で4速へ。ブロロロッーとビートを刻む炸裂音が響き渡る。

オーディオはスピーカー系がBOSE。ヘッドユニットは1DIN標準サイズ。


深く回り込む左の低速コーナーへ向けて、全制動! ファスト・ドライビングにもってこいの重めの踏力設定が施されたブレーキの感触は、素晴らしい。レーシング・カーさながらの作りを見せるペダルのタッチも、システム全体の剛性感も、惚れ惚れとするほどに硬い。いかようにもコントロールできる感じだ。フロントにブレンボの4ポット固定キャリパーを配したスティール・ディスク・ブレーキの能力も、申し分ない。最大減速加速度は1.25G、100-0km/h制動を36mでこなすというから凄い。オプションでもカーボン・ブレーキの用意はないが、これだけ強力ならば、その必要もない。

2速へ落としてステアリングを深く切り込む。思うがままに鼻先はクリッピング・ポイントへ寄っていく。ステアリングはギア比こそ16.2対1とほどほどながら、実効ギア比はずっとクイックに感じる。これならヘアピン・コーナー以外は、手を持ち替える必要がない。ステアリングホイールのリム形状に合わせて9時15分の位置に両の掌を添えて軽く握ればばっちりだ。

鼻先が外へ逃げないのに気を良くしてスロットル・ペダルを踏みますと、お尻がジワジワと逃げ出した。ステアリングを少し戻し、スロットルは開け気味のまま様子を窺うと、綺麗なドリフト・アングルを保ったまま、何事もなかったかのように立ち上がっていく。DNAポジションのDでは、スタビリティ・コントロール・システムは介入したままのはず。かなり寛容にオーバーステアを許容するセッティングが施されている。D位置への長押しでリンクする“レース”モードへ切り替えたら、さぞや、と思わずにはいられない。

 ほとんど2対1の特異な縦横比が分かる。


ほんとうは、レース・モードも使っていいことになっていたのだけれど、午前中に走った組で誰かが何かやらかしたのか、午後組の僕らはダイナミック・モードまでということになってしまった。ちょっと恨めしい。それほどに扱いやすいのだ。ホイールベースが2380mmしかないミドシップ・カーに連想する危うさなど、微塵も感じられない。素晴らしい安定感である。電子制御運転支援装置の優れているのもさることながら、なにより脚がイイ。そして、それを支えるシャシーも強靭だ。

アスファルトを鷲づかみにしながら泳ぎまわる


素晴らしい出来栄えで文句なし。後輪駆動好きが喜ぶようにと、コーナーでダンスを踊る楽しみがたっぷり織り込まれているけれど、だからといってテール・ハッピーな性格では決してない。リアはびしっと安定している。セオリーどおりにドライブしていれば、弱アンダーステアの基本特性を維持したまま高い限界領域の近くまで、オン・ザ・レールよろしくアスファルトを鷲づかみにしながら泳ぎまわれる。限界求心加速度は1.1Gに達するらしいが、ちょっと頑張っただけでも首が重くなる。これなら横Gジャンキーも十二分に満足するはずだ。

試乗車にはオプションの大径ホイール(前18+後ろ19インチ)が備わっていたが、高いグリップ力をタイヤだけに頼っていないだろうことはありあり。脚がいい仕事をしている。ロール角はあくまでも浅いが、脚を無理やり固めてそうしている気配はさらさらない。広く左右に開いた四肢で、軽い上屋をやすやすと支えているからこそだろう。地上わずか40cmという低い重心高の貢献も絶大なはずだ。量産スポーツカーではちょっとありえないような腰の据わり方が、ここにはある。前脚を支える炭素繊維強化樹脂製のセンター・モノコック(バスタブ)と、後ろ脚を保持するリアのアルミ製ビーム・セクションは、それぞれが高い剛性を誇るというだけでなく、素晴らしい一体感をもって結合されている。剛性の不連続からくる気持ち悪さなどこれっぽっちも感じれない。



カーボン・バスタブはレーシング・マシンさながらの、プリプレグ材を型に合わせて人の手で適宜貼り付けながら成形し、真空バッグに入れてオートクレーブ(高温耐圧釜)で焼く工法で作られる。アルミ・セクションは最新のディジタル制御技術を駆使したコールド・メタル・トランスファー溶接で組み立てられ、極めて高い精度を誇るという。イタリアならではの、昔ながらの手作業が、最先端のハイテク工法のなかに生きているというわけだ。

そういうシャシーがあるからこそ、ステアリングの感触の気持ちよさは、タイト・コーナーであれ高速カーブであれ終始変わることがないのだろう。重すぎず軽すぎず、クローズド・トラックを走るのにまさに理想的な設定だ。腕っぷしの強いひとには少し軽いかもしれないが、パワー・アシストが欲しいと思うひとが現れることなどないだろう。

ピスタ・アルファのなかほどのテクニカル・セクションを自信をもって嬉嬉として楽しめるのも、浅いバンクのついた最終高速コーナーで手に汗握るなどということがないのも、このステアリングあればこそだ。ちょっと薄味だけれど、必要なフィードバックが決して絶えることがない。久々にノン・アシストのステアリングに、イイなぁと感じ入った。

もう1周したいッ! と心は叫んでいたけれど、それはまたのお楽しみ、と自分に言い聞かせて、僕は本コースを外れ、取り付け道路へと鼻先を向けた。ワクワクしっぱなしだった気持ちの高揚は止まなかった。

4Cは素晴らしいピュア・スポーツカーだ。その速さはスーパー・スポーツ級といってもいい。しかも、それは、アルファ・ロメオなのだ。

文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=Fiat Automobiles S.p.A.

■アルファ・ロメオ4C
駆動方式 リア・ミドシップ横置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3989×1864×1183mm
ホイールベース 2380mm
乾燥重量(重量配分) 895kg(前40%:後60%)
エンジン 直列4気筒DOHC 16V直噴ターボ過給
総排気量 1742cc
最高出力 240ps/6000rpm
最大トルク 35.7kgm/2200-4250rpm
変速機 ツインクラッチ式6段自動MT
サスペンション前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション後 トー制御アーム付きストラット/コイル
ブレーキ前後 通気冷却式ディスク(鋳鉄製ローター)
タイヤ 前/後 205/45R17/235/40R18
日本導入時期 2014年上半期(2014年初頭に正式発表)

(ENGNE2013年12月号)

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