2024.01.22

CARS

パナメーラ・ターボSは、どんなポルシェだったのか? 顔色を変えずに淡々と加速する超速GTツアラー!【『エンジン』蔵出しシリーズ/ポルシェ篇#17】

パナメーラ・ターボS(2011年モデル)。

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『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズのポルシェ篇。今回は2011年に登場したパナメーラ・ターボSの国際試乗会の記事を取り上げる。アンダー1000万円のV6モデルからオーバー2000万円のターボまで、次々とバリエーションを拡大してきたパナメーラ・シリーズにいよいよ登場した真打。550馬力のパワーを誇る最上級モデルの2011年10月号のリポート。


「猛烈に速い、けれど乱暴な素振りは微塵もない ポルシェ・パナメーラ・シリーズの最高性能モデル、ターボSにドイツで乗る」ENGINE 2011年10月号

2009年にポルシェ初の4ドア・サルーンとしてデビューしたパナメーラは、その後2年をかけて8モデルまでヴァリエーションを拡大し、ついにシリーズを完成した。

 しかし、前後席シート・ヒーターをはじめ、ほかのモデルではオプションとなる装備をほぼ標準装備する。シフト・パドル付きの3本スポーク・ステアリングも無償オプション。


改めて価格の安い順に並べてみると、まず3.6リッターV6を搭載する後輪駆動モデルのパナメーラ(6段MTが933万円、7段PDKが1008万円)、その4WD版のパナメーラ4(7段PDKのみで1066万円)、4.8リッターV8搭載の後輪駆動モデルであるパナメーラS(同前1385万円)、その4WD版のパナメーラ4S(同前1447万円)、アウディ製3リッターV8スーパーチャージャー+電気モーター搭載の後輪駆動モデルのパナメーラSハイブリッド(8段ATのみで1483万円)、そして、4.8リッターV8ツイン・ターボ搭載の4WDモデルであるパナメーラ・ターボ(7段PDKのみで2086万円)。ここまでで6モデル。

それに今回加わったのが、高性能版の4.8リッターV8ツイン・ターボを搭載する4WDモデルのパナメーラ・ターボS(7段PDKのみで2481万円)。そしてもう1台、日本には導入されないが、アウディ製3リッターV6ターボ・ディーゼルを搭載する後輪駆動モデルのパナメーラ・ディーゼルも追加されており、今回その試乗もかなったので少し後述する。

ディーゼルの外観は、基本的にガソリンV6モデルを踏襲する。


さて、このピラミッドの頂点に立つパナメーラ・ターボSの特徴をひとことで言うなら、あらゆる点で最上級の性能を備えたオール・マイティな1台ということになる。なにしろ、素のパナメーラとの価格差は1500万円以上、ターボと較べても400万円近く高いプライス・タグを付けているのだから半端じゃない。


400万円は高いか安いか?

その差400万円の中身として一番重要なのは、ターボ比でプラス50psの550psのパワーとプラス5.1kgmの76.5kgmのトルク(通常時)を発生する新エンジンということになる。といっても、基本的に4.8リッターV8ツイン・ターボ・ユニットは同一だ。しかし、ターボ・チャージャーのタービン・ホイール(羽根車)に改良が加えられている。これまで、熱の影響が少ない吸気側の羽根車はアルミニウム製だったが、熱の影響を受ける排気側はスティール製だった。それを今回、チタニウム/アルミニウム合金製に換装したことで、重量にして50グラム、すなわち約半分に軽減することに成功したという。その結果、回転慣性モーメントも50%減り、エンジンのレスポンスが飛躍的に向上したというのだ。

下はターボ・チャージャーの排気側の羽根車。左がチタン/アルミ合金製、右は従来のスティール製だ。


実際、手のひらにふたつの小さな羽根車を載せてみると、その重量差は歴然。それ以上に感心したのは、指に挟んでコマのように回してみると、チタン/アルミ合金製の方がずっと滑らかに回転することだった。

とはいえ、果たしてこの小さなパーツ変更にどれだけの技術料がかかっているものなのか。ターボより0.2秒速い3.8秒の0-100km/h加速と、3km/h速い306km/hの最高速を得るための対価として400万円が高いのか安いのか、筆者にはなんとも判じ難い。

実際のところは、そうした性能の違い以上に、ターボSにはターボではオプション設定となっていた多くの装備品が標準化されていることが、価格をつり上げていると見るべきなのだろう。たとえば、アダプティブ・スタビライザーを用いてコーナリング時のロールを未然に防ぐポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール(PDCC)や電子制御リア・ディファレンシャルのポルシェ・トルク・ベクトリングプラス(PTVプラス)、スポーツ・クロノ・パッケージ、スポーツ・エグゾースト・システムといった装備がすべてあらかじめ付いてくる。インテリアでも、電動調節式のコンフォート・シートやシート・ヒーター、BOSEのサラウンド・システムが奢られる。無いのはセラミック・ブレーキくらいではないかと思えるほど、ダイナミック性能と快適性にかかわる装備がてんこ盛りされているのだ。

インパネ中央の回転計に“turbo S”の文字が刻まれるほかは、シリーズ最上級モデルであることを声高に主張するものはない。



なんら顔色も変えずに加速する

しかし、実際に対面すると、ターボSは居丈高にその性能をひけらかすような外観とは無縁だった。よくよく観察すれば、厚さ5mmのスペーサーを入れることにより拡大されたリア・トレッドや、低く構えたサイド・スカート、あるいはアダプティブ・リア・スポイラーがボディ同色に塗られていることに気づく人がいるかもしれない。しかし、多くの人はリアに付けられたターボSのロゴを見ない限り識別できないだろう。

走り出すと、乗り味は想像以上に重厚感にあふれていた。とにかく、どこから踏んでも猛烈に速い。けれど乱暴な素振りは微塵もない。むしろ、標準装備のエア・サスペンションの乗り心地は、これまで乗ったパナメーラの中でも飛び抜けて良かった。ロード・ノイズも小さくて、すべてが平穏だから、ゆったりと流しているつもりでいても、ふとメーターに目をやると、とんでもないスピードが出ていて慌てたりもした。



山道を走って驚いたのは、前述のPDCCやPTVプラスのおかげで、まるでロールしないように感じられることだ。コーナリング時の姿勢は驚くほど安定しているから、ついついスピードを上げて走りたくなってしまう。直線でアクセレレーターを下まで踏み込んだ時の加速は不思議な感覚だった。10秒のオーバーブーストが効いて4輪に強大なトラクションがかかり、2t近いボディをグイグイ前に押し出していくのだが、ホイール・スピンなどまったくしない。なんら顔色も変えずに淡々と加速していくのだ。新たに設けられたGセンサーの数字では0.8Gまで出ていた。しかし、どんなに飛ばしても、どこかリラックスして乗っていられる感じがあるのが、このターボSの特徴だ。これを軽快に振り回そうと思ったら、相当な速度で走る必要がある。そうしたら狂暴さをむき出しにするかもしれない。だが、そんなこと誰ができる?

ひとつだけ気になったのは、コーナーを攻めている時のステアリング・フィールに、どこかモワッとした感じが残ったことだ。さすがのポルシェといえども、てんこ盛りした電製デバイスが時として発する不自然なフィールを完全に消し去ることはできないのか。その点、今回乗ったもう1台のパナメーラ・ディーゼルは秀逸だった。電子デバイスがほとんど付いておらず、しかも後輪駆動のディーゼルのステアリング・フィールはすこぶる自然で、こちらの方が気持ちいいとさえ思った。ディーゼルで特筆すべきは、サウンドが巧妙にチューニングされていることだ。アクセレレーターを踏み込むと低く力強い、実にいい音がする。そして、なんといってもトルク感がすごい。さすがにターボSと較べては分が悪いが、十二分にスポーティな走りを楽しめるほど速い。ほんの数年前まで、ポルシェのエンジニアたちが口を揃えて、「ポルシェにディーゼルなんてあり得ない」と言っていたのが、まるで嘘のようだと思った。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェ・ジャパン

■ポルシェ・パナメーラ・ターボS
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 4970×1931×1418mm
ホイールベース 2920mm
車両重量 1995kg
エンジン形式 直噴V8DOHCツイン・ターボ
排気量 4806cc
ボア×ストローク 96.0×83.0mm
最高出力 550ps/6000rpm
最大トルク 81.6kgm/2500-4000rpm(オーバーブースト時)
トランスミッショ 7段PDK(自動マニュアル)
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリング
サスペンション(後) マルチリンク/エアスプリング
ブレーキ 通気冷却式ディスク/アルミ・モノブロック・キャリパー
タイヤ (前)255/40ZR20、(後)295/35ZR20
車両本体価格 2481万円

■ポルシェ・パナメーラ・ディーゼル
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4970×1931×1418mm
ホイールベース 2920mm
車両重量 1880kg
エンジン形式 直噴V6DOHCターボ
排気量 2967cc
ボア×ストローク 83.0×91.4mm
最高出力 250ps/3800-4400rpm
最大トルク 56.1kgm/1750-2750rpm
トランスミッション 8段ティプトロニックS(AT)
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 通気冷却式ディスク/アルミ・モノブロック・キャリパー
タイヤ (前)245/50ZR18、(後)275/45ZR18
車両本体価格 日本導入未定

(ENGINE2011年10月号)

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