2023.11.03

CARS

「こんなに気持ちのいいスパイダー、乗ったことがない!」 最新オープン・フェラーリ、ローマ・スパイダーにイタリア・サルディニア島で試乗!

最新オープン・フェラーリ、ローマ・スパイダー!

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絶妙のさじ加減のチューニング

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さて、国際試乗会では、どのメーカーでもジャーナリストが二人ずつペアを組んで乗り、途中で運転を交代するのが通常のスタイルだ。しかし、コロナ禍の中では一人で乗ることも多かった。そして今回、フェラーリは、自分たちのクルマはパーソナル・カーだから一人で運転するべきだ、という方針を明確に打ち出して、一人に1台ずつの試乗車を用意してくれた。粋な計らいである。

運転席と助手席がそれぞれ独立したシェルになったデザインの内装を持つ。オープンゆえ視界は抜群に良く、開放感に溢れる


さっそく運転席に乗り込むと、基本はローマ・クーペとまったく同じインパネが目の前に拡がったが、細かな操作系がアップデートされており、使い勝手がかなり良くなっていた。たとえば、ステアリング・ホイール上のタッチ・スイッチが、これまではツルツル滑って操作しにくかったのが、新たに刻み目がついてスワイプし易くなっている。これはプロサングエから導入されたものだが、フェラーリはここにきて急速に進化のスピードを速めた感がある。

それを決定的に実感したのは、走り出して間もなくのことであった。


実は、これまで日本で何度か試乗したローマ・クーペは、その優雅なスタイルとは裏腹に、乗り味はピュア・スポーツ志向の強い、シャープな切れ味のステアリングと硬い足回りを持った、ワイルドなスポーツカーという印象だった。だから、今回も少し身構えていたのだ。



ところが、スパイダーは動き出しからして荒々しさなど微塵も感じさせないほどスムーズそのもので、ステアリング・フィールにも鋭敏すぎるところはなく、驚くほど洗練された乗り味の、見た目通りの優雅なスポーツカーに仕立てられていたのである。特筆すべきは乗り心地の良さで、特別な電動アダプティブ・ダンパーを使った足回りを持つプロサングエとまではいかないものの、明らかにこれまでのローマ・クーペが目指していた硬派のスポーツカーのスタイルとはまったく違う方向の、しなやかに動く足を志向していると感じられた。プロサングエをつくったことで、フェラーリの哲学が変わったんじゃないか、と思えるくらいの変化が感じられたのだ。

そこで思い出したのは、かつてフェラーリが、当時の持てる技術の粋を結集してスーパースポーツカーのエンツォ・フェラーリを世に出した後、通常のプロダクトも明らかにスポーカーとしての品質のレベルが一段上がったことである。エポック・メイキングなクルマというのは、クルマづくりを大きく進歩させるのだ。

ボディの剛性感といい、しなやかな足の動きといい、ステアリングの正確さといい、基本的なシャシー性能が素晴しく高いから、ローマ・スパイダーは運転していてこの上なく気持ち良かった。オープンカーだからこそ、いつも以上に満喫できるV8エンジンの回転数を上げるにつれてドラマチックに変化するフィールやサウンドも、その気持ち良さにさらに拍車をかけてくれた。



もうひとつ、風仕舞いの巧みさも、特筆ものであったと強調しておきたい。オープンカーは風が入ってこなくても、入りすぎてもダメなのだ。このスパイダーには、+2座の背の部分に、ボタンひとつで前向きに跳ね上がって水平になるウインド・ディフレクター(仕舞うときは手動)が装備されていたが、その単純な装置が効いているのか、まさに程よい風を感じながら海辺の道をクルージングする気持ち良さは格別だった。

しかし、圧巻だったのは、やはり山岳路でのフェラーリのスポーツカーならではのダイナミックな走りだったと断言したい。ワインディング・ロードでの走りがあまりに気持ち良かったので、写真を撮るふりをして隊列を離れ、何度も往復してしまったほどだ。優雅さとスポーティさが程よくバランスしていて、スポーツでもレースでも、どんなドライビング・モードを選んでいても、決してピーキーになることはない。しかし、その一方で、素晴しいV8サウンドはもちろん、風の音やその感触も含めて、五感で存分にダイナミック走行の醍醐味を享受することができる、絶妙のさじ加減でチューニングされたスポーツカーだと思った。

こんなに気持ちのいいスパイダー、乗ったことがない。単に過去を甦らせただけで、こんなものがつくれるわけがない。フランスの詩人、ポール・ヴァレリーの言葉じゃないけれど、「湖でボートを漕ぐように、後ろを向きながら未来に進んでいく」からこそ、こんな傑作が生れたのだろう。フェラーリ、凄いぞ!

文=村上政 写真=フェラーリS.p.A

■フェラーリ・ローマ・スパイダー
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4656×1974×1306mm
ホイールベース 2670mm
車両乾燥重量 1556kg(軽量オプション装備車)
エンジン形式 直噴90度V8DOHCツインターボ
排気量 3855cc
ボア×ストローク 86.5×82.0mm
最高出力(システム計) 620ps/5750-7500rpm
最大トルク 760Nm/3000-5750rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/285/35ZR20
車両本体価格(税込み) 3280万円

(ENGINE2023年12月号)

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