2024.01.19

CARS

ヤフオク7万円のエグザンティア・オーナー、ウエダのシトロエン聖地巡礼 たったひとり、モンパルナスのアンドレ・シトロエンのお墓の前で頭を垂れた【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#30(番外篇7)】

オルネー=スー=ボアにあるコンセルヴァトワールからほど近いB&Bホテルズの駐車場に停まっていたエグザンティア。後期型の2リットル・ディーゼル仕様だ。

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アンドレと同じ時代を生きたもの

ダンフェール=ロシュローの駅舎は、3つのアーチ型の大きな窓と大時計があり、まるで美術館か博物館のようだった。内装はエスカレーターもあり近代的だが、外装は1846年の開業以来、そのままだという。アンドレと同じ時代を生きた建物だ。彼もまた、この駅舎に降り立ったことがあったのだろうか。



少し歩くと、ライオンの像のあるロータリーが広がっていた。



その横を抜け、一路モンパルナス墓地へ。すぐに蔦に覆われた、石壁が見えてきた。この向こうが墓地のはずだ。

最初に見つけた墓地の門は、4カ所ある中でも南側の、駅に近いほうだった。時刻は8時半丁度である。しかしそこは、まだ固く閉ざされていた。あたりは静寂そのもので、人がいるようにはまったく感じられない。

仕方なくぐるりと石壁に沿って歩いて行くと、EVやPHEV向けの普通充電スタンドが無数に立ち並んでいた。



昔はこの手の機械はたいてい壊れたり使えなかったりしたものだったが、1台のBMWが繋がれ、ちゃんと充電をしていた。

さらに歩き、北側にある門へ向かう。おそらく門番が8時半になると順番に開けているのだろう。2つ目の門も閉じていたが、3つ目の門は幸い開いていた。やれやれ、これで墓地内にようやく入ることができる。

入口近くの案内板を見ると、目指すシトロエン家の墓は28区画のCA、墓地内の東端のほうにあることが分かった。





様々な形の墓石が並んでいるからだろうか。日本の墓地のような整然とした感じはない。ポーランドの墓地にあったものと同じような年代物の石碑がある一方で、いかにも近代的なモダンな墓石もある。

敷地内は清潔で、通路には落ち葉すらほとんどなかった。あたりは静かで誰もおらず、見事に貸し切りである。

アンドレの残したものへ

入口から2つ目の十字路を左に曲がり、敷地に沿って斜めに走る東端の通路に沿っていくと、AVENUE THIERRYと書かれた緑の看板が立っていた。その中に目指す28という数字があったので視線を下ろすと、そこがシトロエン家の墓だった。



三角形の敷地の頂点部分を使って2段の五角形の台座があり、その上に、ひらっぺったい五角柱の墓石が乗せてある。想像以上に小さく、シンプルで、飾り気がいっさいない。

くさび形のヘリカル・ギアを模した、あのシトロエンのロゴもない。ダブル・シェブロンを思わせるのは、この五角柱の形状くらいだろうか。

手前に見える面には「FAMILLE ANDRE CITROEN」とあり、さらに上面の右側には男性の名、左側には女性の名が残されていた。アンドレの名はその一番右上にあり「ANDRE CITROEN GRAND OFFICIER DE LA LEGION D HONNEUR 5 FEVRIER 1878 - 3 JUILLET 1935」と刻まれていた。

わずか1歳でなくなった彼の娘の名がその左にあり、アンドレの死後に刻まれたのであろう、妻や息子たちの名が続いていた。



近くで店でも開いていれば花でも買って手向けたいと思っていたが、残念ながらどこもまだ開いていなかった。ひとり頭を垂れ、僕はしばしそのまま、彼の過ごした時間に、ポーランド・グウォフノのシトロエン・スクフェルに続いて思いを馳せた。

けっきょくモンパルナス墓地内では誰にも会わず、最初から最後まで僕はひとりだった。墓地の外へ出ると、冷たい空気の中にもかかわらず、桜のような花が、わずか数輪だけ咲いていた。

こうしていろいろな偶然が重なったおかげで、シトロエンのはじまりの地と終わりの地、その両方に、自分の足で立つことができたのだった。



宿を出たときは、墓参りの後はゆっくりカフェで身体を温めようと思っていたのだけれど、もうそんな気になれなかった。





彼の手がけたクルマの末裔たちが行き交う通りを歩き、ダンフェール=ロシュロー駅まで急いで戻る。アンドレの情熱の成果が、彼が世にもたらしたクルマたちは、いま、どうやって残されているのか。僕の頭の中はもうそのことでいっぱいだった。

シャンゼリゼ通りも、凱旋門も、エッフェル塔も何も見ない、わずか1時間ほどのパリ滞在は、こうして終わった。

さて、今回は思いつきで急きょ遠回りをしてしまったが、次回の番外篇こそ予告通り、いよいよシトロエンの博物館、コンセルヴァトワールからお届けする。そこでは膨大な数のシトロエンの歴代のコレクションと、ポーランドのひとびとと同等か、それ以上に濃くて熱い思いを秘めたエグザンティアのオーナーたちが、僕の想像以上に大勢集まっていたのだった。

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2022年6月時点までの支払い総額は229万733
6円)
導入時期 2021年6月
走行距離 16万5626km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)

◆エンジン編集部ウエダのシトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート連載一覧はコチラ
ヤフオク7万円25年オチのシトロエンの長期リポート連載!

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