2024.02.20

CARS

マセラティのスポーティ・クーペ、グラントゥリズモSに隠された秘密とは? イタリア・モデナの工場ラインにはアルファの8Cの姿があった!【『エンジン』蔵出しシリーズ/マセラティ篇】

マセラティ・グラントゥリズモSにイタリア、モデナで試乗。

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フェラーリ、アルファの血

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アルファ8Cはそもそも、グランスポルトのシャシーをベースに開発され、それにフェラーリ製4.7リッターV8を搭載する。そのエンジンにトルクチューブを介して結合されるトランスアクスル式6段ロボタイズドMTはグランスポルトと共通。足まわりもマセラティからの流用だが、ダンパーはザックス製固定レートを使うなど、独自の味付けをしている。ボディにはカーボン・パーツを多用し、乾燥車重は1.5t弱と軽い。

一方、グラントゥリズモSは、クワトロポルテのシャシーをベースとしており、8Cより約30cm長い2942mmのホイールベースを持つ。

赤いシリンダー・ヘッド・カバーを持つフェラーリ製V8を、フロントの奥深くに搭載する。


エンジンは8Cと同じフェラーリ製4.7リッターV8。8Cもそうだが、赤いシリンダー・ヘッド・カバーを持つがウェット・サンプ式で、その点では青いヘッド・カバーを持つクワトロポルテATやグラントゥリズモの4.2リッターV8の排気量を拡大したものと見ることができる。それをまず8Cに搭載した上で、再びグラントゥリズモSに戻してきたわけだ。

トランスアクスルのレイアウトも同じだが、ギアボックスはこちらはフェラーリ599のものを使う。

前後ダブル・ウィッシュボーンの足回りの基本レイアウトは共通。オプションでスカイフックのついた可変ダンパーも用意されるが、標準ではザックス製の減衰力固定レート・ダンパーを使ったローダウン・サスとなるのも、8Cからの転用だろう。

ブレーキはフロントに6ピストン・キャリパーを使うのは共通。しかし、8Cがフローティング・ディスクを使うのに対し、こちらはブレンボと共同開発した鋳鉄リングとアルミ・ハブを一体鋳造したディスクを使う。そして、グラントゥリズモSのボディは大きいうえにスチール製だから、乾燥重量でも1.8t近い。

この2台には異なる点もあるが、フェラーリ製V8をはじめとするパーツや技術をマセラティからアルファに転用、そこで磨きをかけて再びマセラティに戻し、新たなGTカーに仕立て直したのがグラントゥリズモSと考えられる。なんと贅沢なGTカーなのだろう、これは。


度肝を抜く音と超絶シフト

翌朝、本社のショウ・ルーム前に並べられた赤、白、黒のグラントゥリズモSの中から、私はフェラーリやアルファとの血の繋がりを感じさせる赤の試乗車を選んだ。

ノーマルとの外観上の識別点はまず、巨大なフロント・グリルが黒く塗られていること。その中央とリア・クオーターにつけられたトライデント(三叉の鉾)の根元には、レース・モデル用の2本の赤い線が入る。あとは黒く塗られたヘッドライトまわり、トライデントをあしらった新デザインの20インチ・ホイール、低く張り出したサイド・スカート。そして、トランクリッド一体型のリア・スポイラーとオーバル型エグゾースト・マフラーといったところだ。

大人の色気漂うインテリア。センターコンソールからATのシフト・レバーが消えているのに注意。


大きなドアを開けると、内装はグレーで、トリムやスティッチなど、ところどころに赤のアクセントが入る。レザーとアルカンタラのコンビのシートは座面が大きく硬めの感触。

内装の違いは、まずATのシフト・レバーがないこと。かわりに、ステアリング裏のパドルが、コラム固定式の巨大なものになる。さらに、メーター中央のディスプレイは、ギアのポジションを大きく表示するようになっており、その上にシフト・タイミングを示す半円形のインジケーターが付き、回転数が低い時は緑、それがやがて黄色になり、最後は赤になってシフト・アップを促す。

ポルトロナ・フラウのレザーとアルカンタラを組み合わせたスポーツ・シート。


V8に火を入れて走り始めると、ドイツ車ほどではないが、イタリア車にしては重厚な感触が漂う。操舵感はセンター付近が軽めだが、切り込んでいくと手応えがあるし、ペダル類も軽すぎず、重すぎず。全体の乗り味は、重厚だけれど重苦しくない、ちょうどいいバランスだ。

足は明らかに硬い。けれど不快な硬さではなく、良路を走っている限りは、まったく問題がないほど乗り心地がいい。驚くのはシフトのスムーズさで、新しくなったロボタイズドMTの制御はほぼ完璧。低速時でもギクシャクすることはなく、オート・モードで十分気持ちよく走れる。

トランク・リッド一体式のリア・スポイラーと楕円形のエグゾースト・パイプがノーマルとの識別点。


オート・ルートに入り、スポーツ・モードをオンにしてアクセレレーターを踏み込むと、エグゾースト・ノートが切り替わり、ブッフォーンと雄叫びを上げ始めた。回りのドライバーたちが一斉に振り向くほどの大音量をまき散らしながら走る。アクセレレーターを抜くと、ボッボッボッとむずがるような音も聞こえる。

さらに、シフト・モードをマニュアルに切り替えると、インジケーター内にMC-Sの文字が現れ、5500rpm以上の回転域で、スロットル開度が80%超の時に限って、変速時間を極端に短くするMCシフト・モードが作動する。最高速の295km/hまで出さずとも、オート・ルートをやや高い速度域で巡航するのは、気持ちいいことこの上なかった。

ヒルクライム競技が行なわれるというワインディングも走ったが、いくら前47%対後53%の重量配分や機械式LSDをもってしても、ホイールベースが2942mmもあっては、ノーズがクイクイと内に入るというわけにはいかない。この巨大なGTカーをオーバーステア状態に持ち込み、自由自在にコントロールするには、相当な腕が必要だろう。

だが、たとえゆっくり流していても、スリリングな気分を呼び起こす何かがこのクルマにはある。それがフェラーリやアルファの血に由来するのかどうかはわからないけれど、退屈さとは無縁の存在だと思った。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド/マセラティ

■マセラティ・グラントゥリズモSのおさえどころ
・昨年デビューした旗艦クーペ、グラントゥリズモのハイパフォーマンス版。
・排気量を500cc 拡大した4.7 リッターV8は、440ps/50kgm のパワー&トルクを発生。
・トランスミッションはトランスアクスル式6段シーケンシャル・マニュアル。
・0- 100km/h加速は4.9 秒。最高速は、量産モデルではマゼラーティ史上最速の295 km/h

■マセラティ・グラントゥリズモS
駆動方式 後輪駆動
全長×全幅×全高 4881×1915×1353mm
ホイールベース 2942mm
車両重量 1780kg(ドライ)
エンジン形式 アルミ製90度V型8気筒DOHC4バルブ
排気量 4691cc
ボア×ストローク 94×84.5mm
最高出力 440ps/7000rpm
最大トルク 50kgm/4750rpm
トランスミッション  6段セミAT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク
タイヤ (前)245/35ZR20 (後)285/35ZR20
車両本体価格  1750万円

(ENGINE2008年8月号)

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