2024.08.26

CARS

6リッターV12自然吸気エンジン、6段マニュアルのヴァンティッジを走らせる! 限定1000台のアストン・マーティンは、どんなスポーツカーだったのか?

6リッターV12で6MT!ってとんでもないアストンだ!!

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V8より精悍な印象に

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2台の外観上の違いは、まずフロント部では、グリル内のバーがV8の8本からV12では6本になること。バンパー下のエプロン部分が、新デザインのカーボンファイバー製のものになること。そして、軽量アルミニウム製のボンネットの上にカーボンファイバー製の通気孔がついたパーツが4つ取り付けられることだ。

アルミとレザーを多用したモダンだが落ち着いた印象のインパネ。トランスミッションは6段MTのみで、シフト・ノブはDBSと共通だ。


サイド部で目につくのは、張り出した形状のサイド・スカートと新デザインの軽量鍛造アルミ製19インチ・ホイール。スポークの間からは、標準装備されるブレンボ製のカーボン・セラミック・ブレーキが覗く。

リアでは、LEDを使ったテール・ランプと大型化されたテール・パイプ、カーボンファイバー製のディフューザーが、V8よりずっと精悍な印象をもたらしている。

ボンネットの下には、V8より200mm長いV12ユニットが手の入る隙間もないほど深く低く押し込められている。V8より91ps増強された517ps/6500rpmの最高出力と、10.2kgm太い58.1kgm/5750rpmの最大トルクを発生するのはDBSと同じだ。V8と違ってドライサンプ化されていないのも同じ。ただし、V12ヴァンティッジでは前車軸との干渉がDBS以上にシビアになるため、オイル・ラインの設計が変更してあるという。トランスミッションは6段マニュアルのみで、ほかのすべてのアストン同様、トランスアクスル方式が採用されている。

オプションのカーボンファイバー製フルバケット・シート。V8比約20kgの軽量化に貢献。


V12エンジン搭載にともなう重量増は50kg。エンジン自体は100kg重くなっているが、それ以外の部分で軽量化して車重を1680kgにとどめている。軽量化の内訳はブレーキ・システムで20kg、シートで20kg、タイヤとホイールで5kg、カーペットで3kg、アームレストで1kgという具合。前後重量配分はV8の49対51に対し、51対49になっている。


DBSより硬められた足

やや斜めに持ち上がるように開くドアをあけてカーボンファイバー製のフルバケット・シートに着く。背は動かないが電動で前後と高さ、シート全体の傾きを変えられるようになっている。着座位置は低くスポーツカーそのもののポジションだ。ダッシュボードは高めなので、視界が悪いと感じる人もいるかも知れない。

サファイア・クリスタルのキイをダッシュボードの穴に差し込んでエンジン始動。ちょっとした間の後、短いクランキングを挟んでV12に火が入り、迫力ある低音が響きわたる。

インパネは基本的にV8と同じだが、カーボン・パネルを随所に使っており、細かい軽量化の跡が窺われる。6段MTのシフト・レバーはV8とは違い、DBSと共通の大きな四角いアルミ製ノブがついたものだ。

V12の低速トルクは太く、クラッチを上げていくだけで、いとも簡単に、スーッとクルマが動きだした。

足は硬い。路面の荒れをかなり敏感に拾って突き上げてくる。サスペンションはV8と同じ前後ダブルウィッシュボーンだが、リア・タイヤのグリップが上がったことを踏まえて、リアにはよりコンパクトなデュアルレート・スプリングが使われているという。V8に比べて車高は15mm下げられており、スプリング・レートは45%も硬くなっているのだとか。アンチロール・バーもフロントで15%、リアは75%も硬くしているというから、かなり過激な設定だ。

ちょっと硬すぎないかとエンジニアに尋ねたら、DB9はもちろんDBSだってこのクルマに比べたらずっとラグジュアリーな位置づけなのだから、それより硬いのは当然だという答えが返ってきた。

しかし、そのおかげでハンドリングはシャープそのものだ。V12の重さをまったく感じさせないほどにノーズが鋭くインに切れ込んでいく。しかし、そこから先、アクセレレーターを踏んでいくとアンダーステアが顔を出すのが最初、気になった。

LEDが使われたテール・ランプ。 リア・バンパーのディフューザー部分もカーボン・ファイバー製となる。


もうひとつ、V12ユニットのドライなフィールにも、初めのうち馴染めなかった。巨大なトルクを持っているのはわかるが、逆に高回転域での伸びはもうひとつで、音も洗練されていない。ダッシュボードのスポーツ・ボタンを押すと、アクセレレーターのピックアップがよりアグレッシブになり、排気音も高まり、通常は51kgmまでに抑えられているトルクが最大まで使えるようになるというのだが、といってよく回るようになるわけではないし、音が魅力的になるわけでもない。甲高い悲鳴を上げながらシュンシュン回るフェラーリのV12とは対照的な古典的V12だと言わざるを得ないと思った。

しかし、それはこっちがこのクルマの走り方のコツを掴んでいなかったがための違和感であることに、やがて気づかされた。回すより、トルクで走る。すなわち、3000から6000回転くらいまでの息の長いトルクの盛り上がりを感じながら加速していくのが一番気持ちいいということが、ニュルブルクリンクの裏山を走り回るうちに分かってきた。そしてスポーツ・ボタンをオンにするのはもちろん、自動車両安定装置のDSCも積極的にトラック・モードにした方が圧倒的に楽しい、ことも。そうすると、鋭くターン・インした後、リアをほんの少し滑らせて、アンダーステアを消しながら、実に気持ちよくコーナーを駆け抜けることができる。リアにはLSDも装着されているが、それを使いこなすには極めて繊細なアクセルワークが要求される。そのデリケートな操作をしている時が一番気持ちいい。

これはモダンな外観とクラシックな中身を融合した独特の乗り味のスポーツカーだ。ちょっと試乗したくらいでは味わい尽くせぬ懐の深さがあると思った。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=アストン・マーティン・ラゴンダ・リミテッド

アストン・マーティンV12ヴァンティッジのおさえどころ
・V8ヴァンティッジをベースにエンジンを517ps/58.1kgmの6リッターV12に換装。
・カーボン・パーツなどを使って軽量化を図り、車重はV8比50kg増しの1680kgにとどまる。
・最高速度305km/h、0-100km/h加速4.2秒。6MTモデルのみで限定生産1000台


■アストン・マーティンV12ヴァンティッジ
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4380×1865×1241mm
ホイールベース 2600mm
車両重量 1680kg
エンジン形式 アルミ製V型12気筒DOHC48バルブ
排気量 5935cc
ボア×ストローク 89×79.5mm
最高出力 517ps/6500rpm
最大トルク 58.1kgm/5750rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ 通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ ピレリPゼロ・コルサ(前)255/35ZR19(後)295/30ZR19
車両本体価格 2173万5000円(日本上陸は2009年8月)

(ENGINE2009年8月号)

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