2024.10.30

CARS

PDKの衝撃的デビュー ついに911にもダブル・クラッチ・トランスミッション搭載!  直噴エンジン+PDKで武装した997型ポルシェ911はどうすごかったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】

直噴エンジン+PDKで武装した997型ポルシェ911のデビューをふり返る

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常に沈着冷静なPDK

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静かでスムーズなのはエンジンだけではない。それに勝るとも劣らず、PDKのシフト・マナーがよく躾けられているのには舌を巻いた。シフト・ショックはアップ時もダウン時も皆無。クリープもついており、発進時はいささかのギクシャク感もなくスーッと動き出すから、言われなければATと区別がつかない。坂道発進でも、ブレーキを離した後、2秒間停止するスタート・アシストが標準装備されているから、運転はすこぶるイージーだ。

PDKはDレインジで走っているとかなり積極的にシフト・アップして、放っておくと7速まで入れるような設定になっている。7速100km/h時の回転数は1750。6速までのギア比はマニュアルとほぼ同じで、6速100km/hは2450。7速は燃費志向の極端なオーバードライブになっているのだ。

新型911国際試乗会で思わぬ論議を呼ぶことになったのが、新しいPDKをマニュアル操作する際のスイッチの操作性の問題だ。ステアリング上のスイッチは、写真のように親指で表側から押すとアップ、次の写真のように人指し指で裏側から手前に引くとダウンになっている。

ところが、そこからひとたび右足をグッと踏み込むと、瞬く間に2段飛び、3段飛び、場合によっては4段飛び、5段飛びでシフト・ダウンして、目も覚めるような加速状態に移ることが出来る。そんな芸当を涼しい顔でこなしてしまうところに、PDKの真骨頂がある。マニュアルだったら7速から一気に2速まで落とすことなど、ほとんど考えられないし、そもそもが7速までせっせと使う人もあまりいないだろう。

そして、そんな瞬時のシフト・ダウンを見せる時、回転合わせのブリッピングはするものの、派手な演出は一切なし。燃費のことも考慮に入れているのか、必要な時に必要な量だけ吹かす感じで、憎たらしいくらいに沈着冷静な印象である。

そういえば、カレラの新フラット6は4000回転を超えたあたりから音を変化させるが、それも旧型のように荒々しいものではなく、もっときめ細かい沈着冷静な音だ。そして、旧型より200回転増えて7500となったレブ・リミットまで、いささかの淀みもなく吹け上がっていく。直噴化されたことでレスポンスがシャープになった感じは伝わってきたが、20馬力の増強は明確に体感できるほどのものではなかった。

ギアが何速に入っているかの表示はかなり小さめだ。

そうはいっても、とにかく速い。アウトバーンではメーター読み285km/hまで出た。それでもフロントが浮き上がるような感じはなく、どこまでも安定した走りをみせた。メーカー発表の最高速はカレラが287km/h(6MTは289km/h)、カレラSが300km/h(同302km/h)。PDKでは、6速で最高速を出すようになっている。

ノーマル・サスの乗り心地はかなり硬めだ。街乗りを考えたらPASM付きの方がいいだろう。

弾けるような3.8リッターの魅力

実際、次に乗ったPASM+スポーツシャシー付きのカレラは、実に素晴らしい足を持っていた。ノーマルよりPASMがついて10mm、スポーツシャシーでさらに10mmローダウンされて、相当固められているはずなのに、決して乗り心地は悪くない。ノーマル・モードなら十分に街乗りで使えるレベルだ。スポーツにするとさすがに硬いが、そのかわりコーナリングのシャープさは驚くほど増して、痛快なハンドリング・マシンぶりに拍車がかかる。タイヤは19インチでブレーキはカーボンのPCCB。スポーツ・クロノ付きだ。



こいつでワインディングを走ったひとときは、このうえなく楽しい時間だった。コーナーへの進入でブレーキをわずかに残しながらステアリングを切り込んでいくと、ノーズが実に軽く、絶妙のタイミングで内に入っていく。PDKのおかげで、シフト・ダウンする時にもヒール&トウのような余計なことは何も考えなくていい。スポーツ・クロノをスポーツまたはスポーツ・プラスにしておけば、Dレインジのままでも最適なギアを選んでくれるし、もちろん自分で積極的にマニュアル・シフトしたっていい。自由自在だ。

ローンチ・コントロールが簡単に使えるのにも驚いた。スポーツ・プラス・スイッチをオンにして、片足でブレーキを踏んだまま、もう一方の足で一気にアクセレレーターを下まで踏み込むと、回転数が6500でホールドされる。そこでブレーキをリリースすれば、軽いホイール・スピンを見せながら、誰でも最大加速度で発進できるというわけだ。



そして、最後に乗ったのは、19インチ、スポーツ・クロノ付きのカレラSカブリオレ。今回乗った3台の中で、このクルマが一番良かった。

その最大の魅力はエンジンにある。超ショート・ストロークの3.8リッターフラット6は、いささか大人しく燃費志向が強いと感じられた3.6リッターとはまったく別の性格付けがなされているようで、弾けるような活発さを持っていた。低速時は静かで、回すとドライバーの気持ちを高揚させる実にスポーティな快音を響かせて快楽の頂きを駆け上っていく。

これまでは同じブロック、同じストロークなら、ボアも排気量も小さいカレラの3.6リッターの方が吹け上がりが良く、味わい深いと感じていたが、新型では事情が違ってきた。もっと乗り込まないと結論は出せないが、今のところ、カレラSの3.8リッターに強く惹かれるものがある。

いずれのエンジンを選ぶにせよ、トランスミッションはPDKが本命になるだろう。足回りはカレラでもPASMを装備したい。さらにスポーツ・クロノを奢ってやれば、街乗りから峠道、サーキットまでこなす、オールマイティなスポーツカーを手中にすることになる。

すなわち、直噴エンジン+PDKを得た新型911は、スポーツカーとしてのさらなる高みに登る一方で、これまで以上に広い範囲のクルマ好きに向けて裾野を大きく拡げたのだ。

文=村上 政(本誌) 写真=ポルシェ・ジャパン(小川義文)/ポルシェAG


■911カレラ                  
駆動方式 リア・エンジン縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4435×1808×1310mm
ホイールベース 2350mm
車両重量 1415kg
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3614cc
ボア×ストローク 97×81.5mm
最高出力 345ps/6500rpm
最大トルク 39.8kgm/4400rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク/アルミ製モノブロック・キャリパー
タイヤ  (前)235/40ZR18(後)265/40ZR18
車両本体価格 1162万円(6MT)/1237万円(7PDK)

■911カレラS
駆動方式 リア・エンジン縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4435×1808×1310mm
ホイールベース 2350mm
車両重量 1425kg
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3800cc
ボア×ストローク 102×77.5mm
最高出力 385ps/6500rpm
最大トルク 42.8kgm/4400rpm
トランスミッション 6段MT/7段PDK
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク/アルミ製モノブロック・キャリパー
タイヤ  (前)235/35ZR19(後)295/30ZR19
車両本体価格 1376万円(6MT)/1451万円(7PDK)

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