2024.10.30

CARS

PDKの衝撃的デビュー ついに911にもダブル・クラッチ・トランスミッション搭載!  直噴エンジン+PDKで武装した997型ポルシェ911はどうすごかったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】

直噴エンジン+PDKで武装した997型ポルシェ911のデビューをふり返る

全ての画像を見る
■テクノロジー解説#01
ポルシェ・ドッペル・クップルング(PDK)式トランスミッション
エンジニアいわく、「もはやマニュアルのアドバンテージは何もありません」

advertisement


今回、ポルシェが導入したPDKは、ZF製のギアボックスに、ZFザックス製のダブル・クラッチ機構を組み合わせたシステムだ。クラッチは湿式の油圧多板で、同心円上に大小ふたつが配置され、奇数+後退と偶数のギアを別々に受け持つ。縦置き横置き、FR用RR用の違いはあるが、その構造自体はすでに市販化されているVW/アウディのDSGやBMWがM3に新たに採用したM DTCとほぼ同じものだ。ちなみに、日産GT‐Rはふたつのクラッチを並列させており、その点がほかと違っている。

そのロジックがBMWやミニと正反対なのはともかく、なぜ今ではスポーツカーの多くが採用しているパドルを使わないのかという声がかなり出た。それに対するポルシェの回答は、従来のティプトロニックから乗り換える人を混乱させないため、というのがひとつ。もうひとつは、片側でアップとダウンの両方ができるスイッチの方が、ステアリングがどの位置にあっても、アップもダウンもしやすいから、というものだった。その是非やいかに。

20年も前にレーシング・カーではPDKを採用していたポルシェが、市販車への導入競争では他社にやや遅れを取った理由について、ポルシェ側はなにもコメントしていない。しかし、いまや子会社となったVWとは開発スタート時には資本関係がなく、技術協力はまったくなかったと明言しており、RRという特別な駆動方式を持つポルシェが、独自にじっくりと時間をかけて開発していったものと考えられる。

興味深いのはポルシェがこのPDKをティプトロニックATの後継であると強調している点で、すなわち、これまでティプトロに乗っていたユーザーが低速時や後退時にも違和感を感じることなく乗り換えられるだけの円滑さを得ることが、開発の重要な到達目標であったはずだ。

それと同時に、高性能エンジンを積むスポーツカーとして、充分なトルク容量を確保することも至上命題であったに違いない。今回市販化されたPDKの最大許容トルクは440Nm。クラッチ部分とギア部分でオイル潤滑システムを別にするなどしてクーリング能力を高めた結果、ローンチ・コントロールの繰り返し使用にも耐えられるだけの容量を確保したという(それでもターボ用にはさらなる改良が必要になる)。

そうして完成したPDKについて、エンジニアは「もはやマニュアルのアドバンテージは何もありません」と断言した。もっか911の世界市場でのMT対ATの比率は6対4。それが今後逆転するのは確実で、70~75%がPDKになるという見方も社内では出ているというのだ。

テクノロジー解説#02
ダイレクト・フューエル・インジェクション(DFI)方式のニュー・フラット6
出力向上、低燃費、軽量化、低重心化、組み立て簡素化をいっぺんに実現

ネジ1本に到るまで旧型とは共通部品を持たない、完全に新設計されたフラット6。その開発目標は、(1)出力の増強により走行性能を向上させながら、(2)燃費を良くするという相反する価値を両立させ、しかも、(3)部品点数を大幅に減らして組み立てを簡素化し、コストを下げることにあったという。直噴システムが、その目標実現のためのコア技術のひとつであったことは間違いないが、それ以上に数多くの改良が、この新エンジンには加えられているのである。

さらにインテーク・マニフォールドも新設計され、素材もアルミ製がプラスチック製になる(カレラS)などの変更を受けている。そのほか、写真を見てタイミング・チェーンの位置が変わったのに気づいた人がいたら、相当なポルシェ通だ。新エンジンではポルシェ・フラット6の特徴だったタイミング・チェーン駆動用のインターミディエイト・シャフトが廃され、クランクシャフトから直接駆動されるようになったのだ。

たとえば、部品点数が多かった旧型に対して、構成部品を40%も削減し、コンパクト化と軽量化が図られている。エンジンの全高は30mm低くなり、クランク軸の位置も10mm下がって低重心化を実現。その一方で重量も約6kg削減された。

燃焼室も新設計だ。118mmのボア・ピッチは不変だが、旧型は3.6リッターが96×82.8mm、3・8リッターが99×82.8mmのボア×ストロークだったのに対し、新型は3.6リッターが97×81.5mm、3.8リッターが102×77.5mmという、まったく別の数字になっている。とりわけ、これまで共通だったストロークが排気量ごとに変えられて、3.8リッターが超ショート・ストローク化されている点に要注目だ。

その燃焼室にカイエンと同じシーメンス製のインジェクターを介して燃料を直接噴射する。噴射圧もカイエンと同じ最大120bar。圧縮比はこれまでの11.3(3.6リッター)と11.8(3.8リッター)から12.5対1まで高められている。

さらに細かいことを言えば、負荷に応じた電子制御式のオイル・ポンプの採用や、回転運動質量を7%削減し、フリクションを低減させたことも出力向上と燃費改善に結びついている。

そうした努力の積み重ねの結果、最大7.8%の燃費改善を実現し、一方で製造時間も10%短縮した新エンジンは、シュトゥットガルト本社工場に新設された生産ラインで組み立てられる。

(ENGINE2008年9月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement