2024.07.04

CARS

2009年型グラントゥーリズモSの中古車を買うならトランスミッションはATか、それともシーケンシャルか? 「エンジン蔵出し記事」で当時の評価をチェックする!

ATとシーケンシャル、トランスミッション違いの2台のグラントゥーリズモSを乗り比べる!

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年10月号に掲載された2台のマセラティ・グラントゥーリズモSのリポートを取り上げる。フェラーリ、アルファロメオとならぶイタリアンGTの雄と言えば、モデナの名門、マセラティを忘れるわけにはいかない。新たにオートマティックが上陸したのを機に、シーケンシャルと合わせて2台のグラントゥーリズモSを乗り較べた。

ATは「堕落」なのか?

グラントゥーリズモSにオートマティックが追加されると聞いた時には、正直言って耳を疑った。ATだったら4.2リッターV8を搭載するノーマルのグラントゥーリズモがあるではないか。それなのに、なぜ4.7リッターV8を積む過激なスポーツ仕様のSにまでAT版を用意しなければならないのか。Sにはダイレクトな6段シーケンシャル・マニュアルこそがふさわしい。ATは堕落だ。

ビアンコ・エルドラド(白)の個体が6段シーケンシャルMTのグラントゥリズモS(同=1750万円)。


今回、実際に2台を乗り較べてみるまで、偏狭な私は、ずっとそう思い続けていたのである。

だが、試乗を終えた今、そんな私の考えは世間知らず、いや、華麗なるイタリアンGTの世界知らずのものであったことを認めなければならない。好みの問題はともかく、この2台はそれぞれが独自の世界を持ち、どちらをとってもイタリアンGTを代表する存在であるのは間違いない。しかし、どちらかと言うと、むしろオートマティックの方が、華麗なるイタリアンGTと呼ぶにふさわしいのではないか。そう考えるに至った。

感触の化け物

新しいグラントゥーリズモSオートマティックは、ひとことで言えば、最高性能のスポーツカーを最大限ラグジュアリーに乗ろうという、極めて邪な発想から生まれたGTカーだ。その結果、生まれたのは、“感触の化け物”としか言いようのないような、独特の乗り物だった。

試乗車のインテリア・カラーは、オートマティックがサビア(砂色)のレザーにベージュのアルカンタラ・ルーフライニング、ベンゲ(焦げ茶)のウッド・ステアリング。


そもそも、ブル・オチェアーノ、すなわち海の青と名付けられたボディ・カラーを持つ試乗車のドアを開けた途端に眼前に開けたサビア、すなわち砂浜の色を持つレザーの内装に度肝を抜かれた。眩しいくらいに美しすぎて、ちょっと汚い手で触ったらすぐに汚れてしまいそうで恐い。

勇気を振り起こして乗り込み、運転席につくと、ステアリングはウッドで、10時10分の位置から下半分の内側に内装と同じサビアのレザーが貼られている。その触り心地は独特だ。なにしろ、ツルツルのウッドときめ細かい女性の肌のようなレザーの感触が、常に同時に手のひらに伝わってくるのだから。

シートの材質も使い分けられており、オートマティックはラグジュアリーなフル・レザー、シーケンシャルは座面と背にアルカンタラを使ったよりスポーツ志向の強いものとなる。


しかも、困ったことに、そのステアリングの操舵感ときたら、まるでオモチャのクルマのように軽いのである。そのくせ遊びは極度に少なく、切り始めからいきなりキュッと切れるから、決して強く握っていてはいけない。あくまで軽く、手のひらがステアリングの表面に触るか触らないかくらいの微妙な握り方をしていなかったら、このクルマをうまく御することなどかなわないのだ。で、そうしていると手のひらの感覚が異様に研ぎ澄まされてきて、なんだかエロティックな気分になってくる。

たとえばこれがもう1台のシーケンシャル仕様の試乗車だと、アルカンタラとシボのついた黒いレザーの組み合わせのステアリングは、手のひらに吸いつくようになじむし、操舵感もグッと重い味付けになっているから、そんな妙な気分になることなく運転に集中できる。ステアリング・ポストからはレーシング・カーみたいな巨大なパドルが生えていて、自らが走りのクルマであることを声高に主張しているかのようだ。

シーケンシャルはネロ(黒)のレザーにグリッジオ(グレー)のアルカンタラ・ルーフライニング、スティッチ・カラーはビアンコ(白)。アルミニウム・ペダルはオプション。


一方、オートマティックのパドルはと言えば、ずっと小さく華奢だ。しかも裏側には触り心地のよいフェルトのような布が貼られていて、シフトするたびにドライバーは不思議な感触を味わうことになるのだ。

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