2024.10.26

CARS

モデルライフの最後を迎えようとしているGT-Rの、最後の闘い! 日本代表、日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディション VS 世界選抜、ポルシェ911GT3 RS

日本代表、日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディション VS 世界選抜、ポルシェ911GT3 RS

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997型911ターボ

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そのガレージに常に置かれていたのが、銀色の997型911ターボだ。ポルシェは959開発での知見を基に911を四駆化、89年の964型カレラ4登場以降、四駆技術の向上を究めてきた。当然ながら彼ら自身が、自らの長所でもあり短所でもあるリア・エンジン・パッケージの理想化にとって欠くことの出来ない仕事だと知ってのことだろう。結果、997型に至っては四駆性能も、GT-R開発のベンチマーク足り得るパフォーマンスを有するものに至っていたわけだ。

レカロ製のカーボン・スポーツシートは掛け心地とホールド性が素晴らしい。

その結果、登場したGT-Rは、性能指標として徹底的にマークした997型911ターボを上回るパフォーマンスをノルドシュライフェのラップタイムという数値で示し、その上で半額以下の777万円からの価格を実現した。噛ませ犬となったポルシェはそのレコードに量産とは異なるタイヤを履いていると異議を唱えたが、翌年、日産はメディアの前で公開計測を行い、疑念を抱かれたレコードを更に短縮してみせた。

3.8リッターV6にはエンジンを組み上げた匠(たくみ)のネームプレートが貼られる。ニスモ・スペシャル・エディションはピストンリングをはじめ、コンロッドやクランクシャフトなど様々な専用部品を採用している。

R35型GT-Rは欧州勢が牛耳るスーパースポーツ・カテゴリーの性能や価格的ヒエラルキーに楔を打ち込んだ。それは自分も含め、彼らに敬意を抱くクルマ好きにとっては空気の読めない行為にもみえた。が、一方で高性能の民主化を前進力としてきた日本車を知る自分の中には、してやったりという想いもあったのは間違いない。が、ラップタイム向上による価値の可視化と商品性の向上には限界があった。特に全量同等性能を掲げた当初のGT-Rのコンセプトは、速さだけでなく快適さも、或いは歴史や物語にも同意したいというカスタマーにおいてそれは必ずしもプラスには働かなかったわけだ。

そこを是正すべく14年型から登場したのがニスモだ。GT-Rの性格をGT側とR側とに二分して、Rの側にニスモを据える代わりに、GTの側となるベースモデルはより洗練された内容にすると。

折しもこの頃、ポルシェは911の展開のワイドレンジ化を進める過程で、GT3RSを定置的なグレードとして拡販する一方、ターボ系は多くのユーザーがその性能を安楽に使える、そんな全能性をより高める性格づけへ推し進めていた。GTRの変革と同調するかたちとなったのは何かの偶然だろうか。

992型のポルシェ911GT3 RSは2022年8月にデビュー。

最新のGT-Rニスモは、ノルドシュライフェのタイムを正式に計測していない。恐らくというか間違いなくというか、911GT3RSの計時となる6分49秒台は破れないだろう。バイクまがいのレスポンスとはいえ、525psの4リッター自然吸気フラット6でこのタイムを捻り出すのは、シャシーや空力の功績なしには語れない。

大きなリア・ウィングをはじめ、空力性能向上のために数々の対策が施されたほか、フロントには新たにダブルウィッシュボーン・サスペンションが採用されている。

その空力の関係もあって、彼の地で6分台を記録するクルマとなれば、一気にその間口は偏狭だ。GT3RSは形状からして背中に漢字のポエムをびっちり縫い込んだ特攻服のような只ならなさがある。乗り味もともあれバンカラで、青信号からの発進はピットレーンからの加速を彷彿させるほどだ。乗り心地や静粛性には期待できる要素はない。それほどにスパルタンでも、軽さの中に宿るモノコックのとてつもない剛結感やバネ下の動きの精度感、猛烈なダウンフォースなどを公道の領域でも気持ちよさとして体感できる。



GT-Rニスモもその快感の源泉は似たようなところにある。同然というにはさすがに重さが強く伝わるが、そのぶん乗り心地や音的にはむしろGT3RSよりまろやかに感じられるほどだ。スペシャル・エディション用に公差を詰めた手組みの3.8リッターV6ツインターボは、沸き立つパワー&トルクのみならず、その回転フィールに透明感もみてとれる。衝突要件用以外には大きな補強も加えることなく17年を戦い抜いてきたボディは、GT3RSほどの強固さは感じずとも、凹凸を強く踏んでいった時の減衰感さえ心地よい。モノコックにそんな官能を覚えるなんて、他の日本車では体験し得ない出来事だろう。

ポルシェという唯一無二のライバルを見つめながら、GT-Rは恐らくモデルライフの最後を迎えようとしている。ADAS要件をクリアするために電子プラットフォームを全面刷新するというのはやはり非現実的だ。しかし日本のスポーツカーの歴史をも束ねる総代としての存在感には、今も些かの陰りはない。それは本当に大したことだと思う。

文=渡辺敏史 写真=茂呂幸正

■ポルシェ911GT3 RS
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4572×1900×1322mm
ホイールベース 2457mm
車両重量 1450kg
エンジン 直噴水平対向6気筒DOHC
排気量 3996cc
最高出力 525ps/8500rpm
最大トルク 465Nm/6300rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 275/35ZR20 335/30ZR21
車両本体価格 3134万円(撮影車両3986万円)

■日産GT-Rニスモ・スペシャル・エディション
駆動方式 縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4700×1895×1370mm
ホイールベース 2780mm
車両重量 1720kg
エンジン V型6気筒DOHCターボ
排気量 3799cc
最高出力 600ps/6800rpm
最大トルク 625Nm/3600~5600rpm
変速機 6段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40ZR20 285/35ZR20
車両本体価格 2915万円(撮影車両2954万6292円)

(ENGINE2024年11月号)

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