まずはマイルド・ハイブリッドが上陸
真新しいSTLA-Mediumプラットフォームに組み合わせられる日本仕様のパワーユニットは現状一種類のみ。同じステランティス・グループに属するフィアット600やアルファ・ロメオ・ジュニアでお馴染みの1.2リットル直列3気筒ターボ・ユニットに、6段デュアルクラッチ式自動MT内蔵式の48Vモーターを組み合わせたマイルド・ハイブリッドである。システムの最大出力は145psだから、先行して上陸した両者と、まったく同じスペックだ。

ただし変速機のギア比は、Bセグメントに属する600やジュニアに対してひとまわり大きな全長×全幅×全高=4565×1895×1665mmという車体サイズと、やはり1300kg台に収まるそれらに対して1620kgと重量がけっこうかさむためか、かなり変更されている。WLTCモード燃費も600、ジュニアはともに23km/リットル以上となるが、3008は19.4km/リットルに留まっている。
ちなみに欧州向けには1.6リットル直列4気筒ターボ+モーターのプラグイン・ハイブリッドの設定もある。
床下に大量の三元系リチウムイオン電池を載せるBEVの「e-3008」については、やや遅れるものの、2025年内の上陸を予定しているそうである。

発表会場では、プジョー・ブランドの電動パワートレインに関するデザイン・エキスパートであるリドゥアン・ハバーニ氏が来日し、プレゼンテーションを行った。
彼はすでに19年にわたってハイブリッドに携わっているという。担当範囲はパワートレイン全体で、仕様を定義付け、システムを構築することだとか。壇上ではその機構や効率性について触れ、ハイブリッドの設計はいかにモーターでの走行時間を長く取るか、また回生ブレーキの精度をいかに高めるかが重要だと語り、この1.2リットルのマイルド・ハイブリッドの主目的はCO2排出量の20%の削減にあった、とまとめた。
その後グループ・インタビューで彼と話す機会があったのだが、マイルド・ハイブリッドのシステムは、バッテリーの搭載位置や容量などの違いはあるものの、基本的には他ブランドのものも含め、まったくハードウェアは同一だという。また設計当初から様々なプラットフォームに対応できるようにしていたそうで、これが彼にとって一番のチャレンジだったそうだ。

さらに当然ながら、ハードウェアが同じとはいえ、搭載するプラットフォームごと、車体ごとにマイルド・ハイブリッドはソフトウェアによるキャリブレーションは行われているという。さらも仕向地に合わせての変更も実施されており、日本の燃費基準に適合させるための調整も行っている。
もっとも重要で、かつ興味深かったのは、たとえハードウェアが共通でも、制御や味つけについてはブランドごとに、完全にそれぞれ独立しているという点である。
アルファ・ロメオなど他のブランドについては正確に把握していませんが、と彼はまず断った上で、プジョー独自のセッティングについて答えてくれた。
「鍵になるのは“ドライバビリティ”です。設計時にもこれは議論となりました。ソフトウェアで調整したんですが、加速度と応答性、つまりアクセレレーターを踏んでから、車輪にトルクがかかるまでのレスポンス、反応時間が指標になりました。つまりペダルを踏んだ時の気持ち良さを得るために、ペダルと加速度の関係を変えるわけです」

これに関連するもう1つのコメントが、輸入元のステランティス・ジャパン代表取締役社長、成田 仁氏によるものだ。
日本においてプジョーは2025年の春から新たなブランド・コンセプト“Serious about pleasure(シリアス・アバウト・プレジャー)”を掲げている。

これをストレートに訳すなら「心からの歓喜に向き合う」という感じだろうか。
「本当にプジョーにぴったりの言葉です。まずデザイン。外から眺めても良し、乗り込んでも良し、触れるたびに喜びを感じることができます。さらに乗ってみれば、クルマとしての基本がしっかりしている。運転する喜びがある」
成田さんによれば、それはずっと受け継がれてきたもので、かつて自分はじめて新車で購入したマニュアル・トランスミッションのプジョー306XSiや、その後乗り継いだ306ブレークでも感じていたことだ、という。

成田さんは、まだSTLA-Mediumプラットフォーム車には乗っていないけれど、と前置きした上で、フィアット600やアルファ・ロメオ・ジュニアにも試乗し「それぞれのアイデンティティの違いについて、適切な表現がなされている」と語った。
「もちろん昔ほど尖った形ではないかもしれませんけれど(笑)、乗って頂ければ分かります。ブランドそれぞれがこだわりを持って味つけをしているのが、今のステランティスのクルマたちです」
ハバーニさんが煮詰めたというプジョーならではのマイルド・ハイブリッドの制御が、3008のドライブ・フィールをどう他のブランドと差別化しているのか。
かつてのプジョー・オーナーである成田さんも納得する運転する喜びや、適切な表現とは、はたしていかなるものなのか。
そこが一番の注目といえるだろう。

最後に3008のグレード展開について触れておこう。装備がシンプルな“アリュール・ハイブリッド”、前席にヒーターや電動調整機構なども備わる“GTハイブリッド”、そしてアルカンターラ素材がシート中央に採用された“GTアルカンターラ・パッケージ・ハイブリッド”の3種類で、価格はそれぞれ489万円、540万円、558万円となる。
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=ステランティス・ジャパン/ENGINE編集部
(ENGINE Webオリジナル)