村上 もっか〝100年に一度の大変革時代〞の真っ只中にいる自動車業界。やれ電気シフトだ、自動運転だ、コネクティッドだ、カーシェアリングだと囃し立てる声は日ごと高まるばかりだけれど、そんな中で2019年も数多くのニューモデルが私たちクルマ好きの前に現れた。
齋藤 クルマ無しの人生など考えられない僕らのような好き者にとっては、社会背景を忘れれば、きわめて幸せな時代が到来したともいえるんじゃないの。
村上 激動の時代にはさまざまな挑戦が生まれて、躍進を促すのも歴史の教えるところだし。というわけで、ENGINE的に2019年オモシロかったクルマはこれです!
これまでマクラーレンが構築してきた“スポーツ”、“スーパー”、“アルティメット”という3つのシリーズに属さない“GT”が来日。
2019年の面白かったスポーツカー、ミドル級のZ 4、TTS、A110に乗ったのは、大井、鎌田、村上のエンジン・レーシング・チームのメンバー! やっぱりスポーツカーは楽しいぞ! !
2019年に上陸した電気、ガソリン、そしてディーゼルのミドル級SUV。ジャガーIペイス、新型レンジローバー・イヴォーク、そして新型ポルシェ・マカンSは、それぞれ個性が際立ってる!
2019年には高級な4座コンバーティブルも次々上陸した。DBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテ、コンチネンタルGTコンバーティブル、そしてM850 iカブリオレである。
新型BMW 1シリーズがついに後輪駆動から前輪駆動へ大きく変わった。元は同じでも味付けでこんなに違う。
2019年6月に上陸したBMWの最上級SUV、新型BMW X 7と、軍用車を祖に持つ本格派4WD、ジープ・ラングラーが面白い!
齋藤 激動の時代に登場したクルマたちを振り返る。2019年も、やっぱりクルマはオモシロかった! というタイトルのもとに今月は巻頭特集を組んだわけです。
村上 激動の時代、それは百年に一度の大変革期だとも言われている。
新井 18世紀後半に外燃機関である蒸気機関を使った自動車が生み出され、そこへ電気自動車が加わり自動車の歴史が始まったわけですが、これまで僕たちが馴染み親しんできた自動車といえば、1886年に内燃機関を使ったものがドイツで生み出されたのが、直接的な起源だといっていいんじゃないですか。
村上 だとすると、すでに133年の歴史が刻まれてきたわけだよね。
新井 それがここへきて、純EVを始めとする電動化シフトが顕著になり、要素技術が出揃って自律型自動運転も現実味を帯びてきた。情報のオンライン化はかなりのところまで進んでいるし、カーシェアリングも本格的に始まろうとしています。
村上 最近、盛んに言われるCASE革命というやつだね。
齋藤 これまでガソリンとディーゼル、この2種類の内燃機関を使い、あくまでも人間が操作して、スタンド・アローンな移動体を運用するものとしての自動車が、大きく変わろうとしているのは、たしかにそうなんだよね。この20~30年の間に徐々に進んできた技術開発の成果が時を同じくして大きな実を結ぼうとしている。なにやらこれまでになかった劇的変化をもたらす特異点のようなものが近づきつつあるのかなという気配が実感として出てきた。
村上 そういう荒波のさなかにわれわれはいま立っているということ。技術的な蓄積があったのは確かでも、例えば、電動化の動きがここまで表面化するというのは、その背景に社会の動きがあって、それを世に出さざるをえなくなったからだ。社会的な圧力がなければ、ここへきて先を争うかのようにEVを世に出すということにはならなかったかもしれない。
世の中が急激に変化しようとしている時代なんだよね。歯止めのきかない地球温暖化を止めるために二酸化炭素排出量を是が非でも減らさなければならないという社会要請があるからだし、自動運転にしても世界中の先進国で深刻化する高齢化社会への対応ということでもある。
齋藤 そうしたあれやこれやが、誰の目や耳にも明らかになってしまうインターネット社会という背景が時代の変化を加速させる力になっている。
村上 炭酸ガス排出量削減を先進国が声高に叫んで、それを法的に定めて強制的に推し進めようとする動きがある。内燃機関で目標を達成できないならば、どうしたって電動化を進めざるを得ないわけだよね。
新井 EUの域内自動車メーカーに対する強硬姿勢には凄みさえある。
齋藤 その一方で、開発途上国や後進開発途上国はその枠組みに入るつもりがない。
村上 炭酸ガスを大量に排出するような経済活動や工業化が進まないと、先進国には追いつけないからね。
齋藤 しかもそうした国々や合衆国などでは畜産農業が盛んで、牛のおならやげっぷで排出されるメタン・ガスの問題も、二酸化炭素の28倍ともいわれるメタン・ガスの温室効果を考えたら、かなり深刻なわけでしょう。国によっては人口より家畜牛の数の方が多かったりするわけだしさ。
自動車の排出ガスの問題は、技術的に削減可能だからこそ、槍玉に挙げられるという部分はあると思う。ドイツや日本は自動車関連産業関連の就労人口が全体の11%とか7%に達する基幹産業なわけだから、こうした激動のなかにあって真っ先に荒波のなかに叩き込まれる。
村上 自動車が真っ先に矛先を向けられるのは、モータリゼーションが先進国の繁栄の象徴であるからでもあるよね。自動車産業はきわめて大きなものでもあるのだから、その荒波に揉まれるのはしょうがない。良い悪いの問題ではなくて、現実としてそうなんだということでしょう。
齋藤 そういう時代のなかにあって、2019年も色々な新型車が登場した。
村上 色々なメーカーが出してきたということでは電気自動車がまさにそうだな。EV元年という言い方もできるかもしれない。これまでは、散発的にポツポツと出ていたのが今年はどっと出たから、電動化シフトがより明瞭になった。
塩澤 なんか釈然としないものもあるけどね。ディーゼル・ゲート事件が大きな引き金になったのだろうけれど、電動化に合わせてディーゼルからの脱却まで打ち出すメーカーがぞろぞろと出てきた。国がインセンティブまで出して普及に努めたディーゼルを、掌を返したように捨てるというんだから。違和感は拭えないよ。
新井 EU域内で販売される新車乗用車の1台当たり平均二酸化炭素排出量の上限を120g/㎞から95g/㎞へと強化する規制がいよいよ目前に迫ってきましたからね。その先もどんどん規制は強化されていくわけですから、とくに大量生産メーカーにとっては死活問題でしょう。
齋藤 とはいえね、今はまさに変革の過渡期真っ只中にあるわけで、日本は台数こそ1割にも満たないとはいえ乗用車を世界中から輸入している国だから、それこそよりどりみどりの状況が現出している。動力源ひとつとってみても、純EV、ディーゼル・プラグイン・ハイブリッド、ガソリン・プラグイン・ハイブリッド、純ガソリン、純ディーゼル、ハイブリッド方式ひとつとってもパラレル方式あり、シリーズ方式あり。EVにしても電力源はリチウム・イオン、ニッケル水素、それに燃料電池のクルマだって買える。こんな時代これまでにないよ、ほんと。
荒井 SUVが乗用車の形態の標準と化したことも忘れられない。いまや乗用車の王道的形態になった。
齋藤 そういうわけなので、クルマ無しの人生など考えられない僕らのような好き者にとっては、社会背景を忘れれば、きわめて幸せな時代が到来したともいえるんじゃないの。
村上 激動の時代にはさまざまな挑戦が生まれて、躍進を促すのも歴史の教えるところだし。
話す人=村上 政編集長+塩澤則浩+荒井寿彦+新井一樹+上田純一郎+齋藤浩之(すべてENGINE編集部)
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