2020.09.17

CARS

かつて北極圏からアフリカまで125ccのバイクで旅した冒険野郎が、5リットルV10のM6を人生最後のクルマに選んだ理由とは

2008年型BMW M6(E63)

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これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。時計ジャーナリストの大野高広さんが選んだのは、「2008年型BMW M6(E63)」。二輪バイクに魅了され海外放浪へ。やがて腕時計のエンジンに惹かれて、機械式時計の世界の住人となったメカ好きが人生最後に選んだ相棒は、水平対向2気筒とV10NAエンジン計6150ccのBMWだった。

週末のゴルフ特急便

早朝6時、M6のセルを回した瞬間、目を覚ました5リッターV10NAエンジンの重低音が地下駐車場に響き渡る。ゴルフバッグをリアトランクに積み込み、マンションのスロープを登りきる頃には暖気が進んで排気音が落ち着き、パドルでシフトアップしながら、そろりと出発。アクセルを少し踏むのは、高速道路に入ってから。行きつけのゴルフ場まで100km、贅沢で楽しい時間の始まりだ。

普段は控えめに400psモードに設定している。それでも高速走行中はシート下から唸るような低音が伝わる。そろそろカッ飛ばしませんか、準備できてますよぉ、と促されている感じだ。そんな誘惑をさらりと受け流すのが、大人というもの。パワーを使い切る機会はなくとも、この余裕のおかげで100km走行後の疲れ方がまるで違う。追い越しの際も、シフトダウンせずに少しアクセルを踏むだけで、気持ちよく加速していく。とくに50代ゴルファーにとって往路の体力温存は、スコアに直結するため極めて重要となる。


ギアチェンジは基本的にマニュアル操作だ。M6オーナーの不満の多くは7段セミAT「SMG3」の完成度の低さにあるように思う。確かに最新のDCTやATに比べれば、特に低速域でギクシャクする。だが、パドルシフトでのマニュアルなら、若干タイムラグは感じるものの、早め早めの操作で十分に快適なのだ。

個人的に“加速装置”と呼んでいる“Mボタン”も紹介しておこう。このボタンは様々な設定を登録でき、私の場合はそれぞれ一番ハードな設定を記憶させている。サスは最も硬くなり、ギアチェンジはレブリミットぎりぎりまで使いきるセミAT、もちろんオーバー500psのフルパワー仕様だ。するとエンジンはクォーン!と甲高いF1サウンドに一変し、強烈な加速に体がシートに押し付けられ、思わずパドルで介入する、といった具合だ。周囲に迷惑をかけないよう、めったにMボタンは押さないよう自制しているが……。

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